彩瀬まるによる原作小説を、『わたしは光をにぎっている』『静かな雨』などを手掛けた中川龍太郎監督が映画化した本作。引っ込み思案な真奈(岸井ゆきの)は、学生時代に自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺美波)と出会い、親友になります。2人は一緒に住むほど仲が良く、お互いを大切に思っていますが、ある日突然すみれがいなくなってしまいます。それから5年経っても真奈はすみれがいなくなったことを受け入れられず、周囲ではすみれが亡くなったかのように扱う人もおり、困惑します。
誰か大切な人を失ってしまった時の感情との向き合い方や、心の整理の仕方は本当に人それぞれなので、真奈の心情を理解できる方も多いのではないでしょうか。それと同時に、そばにいた時は当たり前の存在だったはずが、離れてみて初めてその人が本当はどんな人物だったのかわからなくなる感覚にも共感できると思います。
真奈とすみれを演じた岸井ゆきのと浜辺美波は、本作で友達のような恋人のような絶妙な親友関係を見事に表現しています。それぞれの良さが美しく映し出されており、思わず見とれてしまうシーンも多くあります。個人的には雨のシーンがとても気に入っていますが、他にも詩的なセリフや美しいシーンが多いので、好きなパートを探しながら観るのもオススメです。全体的にゆったりと進むタイプの物語ですが、その中で真奈とすみれの感情や周囲の人々との人間関係を観察しながら観るとさまざまな発見があります。親友のいる方はもちろん、何か考え事がある方の背中もそっと押してくれる作品です。
恋愛物語ではありませんが、真奈とすみれのかけがえのない絆を感じられる作品なので、大切な人と観たらお互いを大事にしたい気持ちが一層高まりそうです。客観的に真奈とすみれを観ていると、何気ない行動や言動に意味があったり、お互いを想い合っていることが伝わってきます。現実では2人の関係を客観的に見ることはなかなか難しいので、本作を通してぜひ疑似体験してみてください。
親友関係について描かれた作品なので、皆さんもまずは素直な気持ちで本作を観て欲しいと思います。すみれを失った真奈の喪失感は大人になってからのほうがより理解できそうなので、大きくなってから再度観るのも良いと思います。また、真奈とすみれはとても仲が良いので、理想的な友人関係として参考にするのもアリです。
『やがて海へと届く』
2022年4月1日より全国公開
ビターズ・エンド
公式サイト
©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
TEXT by Shamy