コロナ禍が続く2020年の冬、東京都渋谷区にある幡ヶ谷のバス停でホームレスの女性が殺害された事件がありました。本作はその事件をモチーフに作られたフィクションです。主人公の北林三知子(板谷由夏)は独り暮らしで、昼間は自分で作ったアクセサリーをアトリエで売っています。でもその仕事だけでは生計は成り立たず、居酒屋の住み込みのパートを掛け持ちしています。そんな彼女の生活がコロナ禍で一変。生計の柱となっていた居酒屋のパートは解雇され、家も仕事も失ってしまいます。
三知子は当然ながらすぐに次の仕事を見つけようとしますが、そこでもコロナ禍の影響が出てきます。本作が公開される2022年10月現在、徐々にコロナ禍前の日常が戻りつつありますが、本作を観ていると改めて、新型コロナウィルス感染症は、人と人との接触を阻み、そのことが想像以上に思わぬ事態を招いたことを実感します。また、気丈な三知子が月日が経つにつれどんどん弱り果てていく様子にも胸が痛みます。平穏な日々を過ごしていたのが一変してホームレスになってしまうなんて想像ができませんが、これは誰にでも起こり得ることです。日本中、世界中で多くの方々が同じ状況に陥り、今もなお苦しみ続けていると思うと、何ともやるせない気持ちでいっぱいになります。
本作は三知子の生活の変化を描きながら、社会の歪みを映し出しています。実際に幡ヶ谷で起きた事件をモチーフにしているので、犯人像などもリンクしており、別の角度からみた社会問題も描き出しています。今の日本には問題が山積みであることを実感させられるストーリー。ぜひ政治家の皆さんにも観てもらい、感想を聞きたいものです。
映画を観に行ける状況であることがまず恵まれていると思うのですが、自分達自身が生活苦にはない状況で本作を観て、どんな感想を持つのかというところに、本来の価値観や人間性が表れるのではないかと思います。デートムービーではありませんが、相手の本性を見抜くために一緒に観るのも良さそうです。
ティーンの皆さんはこれからアルバイトをしたり、もうすぐ就職をしたりするので、身近な問題として観られると思います。職場の環境や人間関係についても良くない実態を事前に知ることができます。全部が全部こうではありませんが、事前に知っておくことで身を守る術を用意しておくことができるかもしれません。
『夜明けまでバス停で』
2022年10月8日より全国順次公開
渋谷プロダクション
公式サイト
©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
TEXT by Myson