“SMクラブ”“女王様”という強いワードがありますが、良い意味で想像とは異なる世界観を持った人間ドラマとなっています。寝たきりの母と2人暮らしのヨシダヨシオは、SMクラブの常連。ドMのヨシオの相手はいつもミホ女王様が務めています。でもこのところヨシオはプレイに興奮しないようになっており、ミホ女王様に相談。そこから2人の不思議な関係が始まります。
本作の興味深い点は、ただの性的嗜好の話ではなくヨシオの心の奥にあるものがもっとこじれたもので、彼が再生できるかどうかを描いている点です。同時にヨシオとの関係によってミホにも変化が表れ、とても母性的なキャラクターとして映る点も印象に残ります。ヨシオが抱える問題が何なのかというのは徐々に明かされていくのですが、最後まで観ると、根底にある深いテーマに辿り着きます。もちろん観る方によっていろいろな解釈ができると思うので、皆さんもご自身の目で確かめてみてください。
また、純愛物語とも友情物語とも受け取れるストーリーで、ヨシオとミホの関係がとても微妙なバランスで描かれています。これぞ大人の関係であり、とても素敵なんです。性描写ももちろんありますが、それがキャラクターの内面を映し出す役割を果たしている点で変ないやらしさがありません。撮り方を間違えれば全然違うものになってしまいそうなストーリーですが、廣木隆一監督の演出の妙、主演の村上淳と菜葉菜の演技の妙を感じます。設定が設定だけに観る前にどんな映画なのか想像してしまう方もいるかもしれませんが、ぜひ先入観なしにご覧ください。
観てみると、エロさや過激さがウリの作品ではなく人間ドラマなのですが、設定上当然ながらSMプレイのシーンで痛々しい描写もあれば、性描写もあります。なので多くのカップルにとってはデートで観るには不向きだと思います。ただ、どんな話もオープンに話すカップルなら、一緒に観ても良いのではないでしょうか。体の繋がりには心が繋がることが重要ということも伝わってくるので、マンネリカップルにも良い刺激があるかもしれません。
最初は設定のインパクトに興味が湧くかもしれませんが、観てみると人間という生き物の複雑さを知ることができると思います。悩みの種類は違っても、人が抱える問題は表に見えるものとは違ったものであることもわかります。大人向けの作品なので、いろいろな人生経験があったほうが感情移入しやすいという部分はありますが、若い皆さんが今の目線で観ても何かしら感じることはあると思います。18歳になったら観てみてください。
『夕方のおともだち』
2022年2月4日より全国順次公開
R-18+
彩プロ
公式サイト
© 2021「夕方のおともだち」製作委員会
TEXT by Myson