1通の手紙をきっかけに8年越しの真実が明かされていくラブストーリー『雨とあなたの物語』。今回は本作でメガホンをとったチョ・ジンモ監督にお話を伺い、物語の誕生秘話ややりたいことがわからず悩んでいる人達に向けたアドバイスも聞いてみました。
<PROFILE>
チョ・ジンモ:監督
歌手ピの“悪い男”“太陽を避ける方法”などのミュージックビデオを演出し、その名を知られるようになる。その後、映画『怪しい顧客たち』で長編映画監督デビュー。映画『雨とあなたの物語』では、SNSでのやり取りに忙殺されている人々に向け、待つことと手紙がもたらす美学によって共感と癒しを与える作品を作り上げた。
手紙というのは自分の正直な気持ちを伝える1番のツール
シャミ:
本作はスマートフォンもSNSもない時代が舞台となっていて、主人公達の手紙のやり取りも印象的でしたが、この設定はどのように生まれたのでしょうか?
チョ・ジンモ監督:
この作品は2003年というスマートフォンもSNSもあまり発達していない時期が舞台だったのですが、その当時の懐かしさを伝えようとしたのではなく、人々が常に時間をどう過ごしているのかということを1番に描きたかったんです。この作品では2003年から8年後の2011年、そして現在は2011年からちょうど10年後の2021年なので、皆さんにも10年前の自分はどうだったのか、10年後の今の自分はどうかということを考えて欲しいと思いました。そういったアイデアからこの作品が生まれました。シナリオについては、作家の方と2人で約3年をかけて作りました。
シャミ:
3年かけてシナリオを書く過程で大きく変わった点などもありましたか?
チョ・ジンモ監督:
修正は本当にたくさんしました。実は第一稿では純粋なラブストーリーでした。時間が行ったり来たりする設定はそのままでしたが、それだとよくある恋愛映画に過ぎないと感じたので、過去の話を中心に持っていきながら、これまでになかった物語を作ってみたいと思いました。なので、メロドラマの要素もありつつ、この作品のテーマである“待つ”ということに重きを置いたシナリオに変えていきました。
シャミ:
物語の設定上、主演のカン・ハヌルさんとチョン・ウヒさんの共演シーンはほとんどなかったと思うのですが、現場でそれぞれに伝えたことや、監督が演出したことなどは何かありますか?
チョ・ジンモ監督:
映画の中で会うシーンは本当にほとんどなかったので、2人の演出で共通する部分は伝えました。そして、ヨンホを演じたカン・ハヌルさんにいつも言っていたことは、「こんな手紙をもらったら、送る側はどう思う?」ということです。いつも必ずどんな心情になるのか、手紙をもらった側はどういう風に思うのかということをシーンごとに話していました。ソヒを演じたチョン・ウヒさんに関しては、ソヒは姉のソヨンの代わりに手紙を書くという小さな嘘をついていて、その苦悩があるということをいつも思った上で演技するように指導していました。
シャミ:
ヨンホは、ある約束をしたことによりソヨンのことを何年も待ち続けていましたが、監督ご自身がヨンホの立場だったら、同じように相手のことを待つと思いますか?
チョ・ジンモ監督:
待つと思います。ただ、僕は若い時に文通をした経験があるから言えるのですが、手紙のやり取りが上手くいくと大体人は相手に会いたくなって、会ったことで手紙のやり取りがぷつんと切れてしまうことが多いと思います。そういった経験を僕自身もしていて、それが手紙のやり取りだと理解しています。
シャミ:
では監督が思う手紙の良さはどんなところでしょうか?
チョ・ジンモ監督:
僕は言葉に対する重要性を常々考えていて、それが手紙だとどうやったらこの人に言葉を通して伝えられるか、直接会う時もどういう風に言ったら相手に理解してもらえるのかと考えています。でも、直接会うこと以上に考える必要があるのが手紙で、手紙というのは自分の正直な気持ちを伝える1番のツールだと思います。
シャミ:
本作ではヨンホの浪人生時代から映し出されていて、彼がやりたいことを見つけていく姿も印象的でした。彼と同じように若者でやりたいことがわからず、悩んでいる人も多いと思いますが、監督から何かアドバイスがあれば一言お願いします。
チョ・ジンモ監督:
悩みというのは誰もが持っていて、特に今の若い人達は大学受験など、学業に関することに1番悩んでいると思います。僕ももちろんそういった経験をしましたし、僕自身が今の若い人達に言うことがあるとすれば、自分自身のことに対して深く悩んだり、長い間考えることはやめたほうが良いということです。それよりも自分の愛する人と同じ時間を共有して、愛する人に悩みを打ち明けて相談するという方法が1番良いと思います。そうすることで解決方法が見えてくるので、1人で悩まずに愛する人や友人と話すことが良いのではないかと思います。
シャミ:
素敵な回答をありがとうございます。少し話題が変わりますが、日本ではK-POPや韓国映画、ドラマが広く親しまれているのですが、韓国の方から見て韓国のそういった文化が日本で好まれている理由は何だと思いますか?
チョ・ジンモ監督:
正直よくわかりません(笑)。少し曖昧かもしれませんが、一言で言ったら今まで接したことがない文化だからではないでしょうか。韓国は単一民族で僕達は小さい頃から言い伝えがあったり、そういったものを当たり前の文化として僕達は紹介しているわけですが、日本の方から観たら「そんなものがあるんだ」「こんなこともあるの?」と、自分達にはない新しい何かという捉え方ができるんだと思います。
シャミ:
これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
チョ・ジンモ監督:
今まで生きてきて素晴らしい映画を作ってきた監督や俳優に本当に多くの影響を受けてきたのですが、僕にとって1番影響力を与えた人は母です。今の僕を作ってくれたのは母なので、1番影響を受けた人を敢えて挙げるとしたら母だと言いたいです。
シャミ:
ちなみにお母様も映画好きなのでしょうか?
チョ・ジンモ監督:
母も映画が好きでした。今は映画館があちこちにたくさんありますが、僕が幼い頃は映画館に年齢制限があってあまり入れなかったので、どちらかというとビデオを借りて観ていました。タイトルはわからないのですが当時入手困難だった日本の映画などを借りてきて、母と家で観た記憶があります。
シャミ:
では最後に監督というお仕事をされていて1番やり甲斐を感じるのはどんな時か教えてください。
チョ・ジンモ監督:
監督は一言で言うとイメージを作る人だと思います。その自分がイメージした通りのものを観客に伝え、感じてもらうことができるのかということ、そして感じてもらえた時にはとても嬉しく、良くできた時はとてもハッピーです。だけど、もしそれが上手く伝わらなかった時は悩むわけです。この悩む時間が嫌だという人は監督にはなれないと思いますが、悩む時間も含めて考えることが好き、苦悩することが好きという人であれば続けられる職業ではないかと思います。それが監督という仕事の醍醐味です。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2021年10月12日取材 TEXT by Shamy
『雨とあなたの物語』
2021年12月17日より全国公開
監督:チョ・ジンモ
出演:カン・ハヌル/チョン・ウヒ/カン・ソラ
配給:シンカ
舞台はスマートフォンもSNSもなかった2003年の韓国。夢も目標もない浪人生のヨンホは、長い間大切にしてきた記憶の中の友人を思い出し、手紙を出す。一方、自分の夢を見つけられず、母親と一緒に古書店を営むソヒは、姉のソヨン宛に届いたヨンホからの手紙を受け取る。ソヒは病気の姉に代わりある条件のもとヨンホと手紙を交わし始め…。
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