遅咲きのインド人バレエダンサーが、夢に向かって邁進する姿を追った感動のドキュメンタリー『コール・ミー・ダンサー』。今回は本作に出演されているバレエダンサーのマニーシュ・チャウハンさんにお話を伺いました。とても和やかな雰囲気の方で、写真撮影ではダンスのポーズも披露してくださいました!
<PROFILE>
マニーシュ・チャウハン:ダンサー
1993年12月28日生まれ。インド、ムンバイ出身。大学生の時にボリウッド映画を観たことでダンスに興味を持ち、ブレイキンを独学で学び始める。人気リアリティ番組『インディアンズ・ゴット・タレント』や『ダンス・インディア・ダンス』に出演し注目を浴び、ムンバイのダンスワークス・スクールに通い始める。そこで、イスラエル系アメリカ人の師イェフダ・マオールと出会いバレエを学ぶ。2020年、自身の半生を描いたNetflix映画『バレエ:未来への扉』に本人役として出演。現在は、ニューヨークのペリダンス・コンテンポラリー・ダンス・カンパニーでダンサーとして活躍している。
踊りしかないからこそ100%集中することができる
シャミ:
Netflix映画『バレエ:未来への扉』(2020)では、ご本人役として出演され、今回はドキュメンタリー映画です。いずれもご自身の姿を描いた作品ですが、どのようなところに一番違いを感じましたか?
マニーシュ・チャウハンさん:
リアルストーリーにインスピレーションを受けているのがNetflixの作品、リアルストーリーなのが今回のドキュメンタリー作品であるというのが一番の違いです。例えばNetflix作品の場合はセリフが書かれていて、僕らインド人は辛いもの好きだから、ボリウッド的にやっぱりスパイスが効いていないといけませんよね(笑)。なので、少し脚色されている部分や、ドラマチックになっている部分があります。それからNetflixの制作現場では僕は演じ手でしたので、自分の控え室があったり、いろいろとケアしてもらえることがありました。でも、ドキュメンタリー作品の場合は、水1本でさえ誰かが持ってきてくれることはないので、そういった違いがありました。
『バレエ:未来への扉』で僕は自分自身を演じていますが、正直自分ではないようなところもあります。どちらかというとシリアスなキャラクターを求められたので、そういった人物になるようにセリフを全部頭に入れて演じました。当時現場では、スタッフ全員が僕のところに集まってきてしまって大変なこともありました。やっぱり本人なので、自分のことを一番知っているだろうと、僕が何をするのか、どんな風に表現をするのか、皆が見にきてしまうのでプレッシャーを感じていました。僕自身の物語なので誰も僕にダメ出しをしてくれず、演技の良し悪しが自分ではわからないような状況でした。でも、結果的にはそれぞれの作品で素晴らしい経験ができたので良かったと思っています。
シャミ:
なるほど〜。時系列的には、Netflix作品よりも前から今回のドキュメンタリーのカメラが入っていたということでしょうか?
マニーシュ・チャウハンさん:
そうです。
シャミ:
長く密着のカメラが入る上で、監督から事前にどんな映像を撮りたいなど説明があったり、話し合いをされたことはありますか?
マニーシュ・チャウハンさん:
最初は師匠のイェフダと僕と同じバレエダンサーのアーミル、3人のドキュメンタリーを撮りたいとお話がありました。イェフダは元々自分の周りに壁を作るタイプなので、自分の気持ちをオープンに話すことはあまりないんです。でも、監督のレスリーがイェフダの教え子であり、ダンサー同士であったことから非常にプライベートな部分まで撮っていただくことができました。もちろんイェフダのことなので、突然気が変わって少しその場から離れていてということも起こり得ましたが、レスリーが彼の信頼できる人物であったからこそできた作品だと思います。
僕に関しては、例えば感情的になっているところをあまり撮って欲しくなかったのですが、そういった場面にもカメラが入っていました。でも、監督が本当に使って欲しくないものはカットするからと言ってくれたので、僕も監督を完全に信頼することができました。実際に出来上がった作品を観ると、僕が当時撮影されるのを嫌がっていた感情的になっているシーンが、映画としてすごく効いていたんです。監督は映画作家として何をやっているのかきちんとわかっている方だったので、本当に信頼して良かったと思っています。
シャミ:
もし何も知らない方にオファーをされていたらまた違う作品になっていたかもしれませんね。
マニーシュ・チャウハンさん:
本当にその通りです!
シャミ:
マニーシュさんは大学生の頃に独学でストリートダンスを習得され、その後クラシックバレエに転向されています。同じダンスでもジャンルが異なると思うのですが、最初に感じたクラシックバレエの魅力はどんな点だったのでしょうか?
マニーシュ・チャウハンさん:
おっしゃるようにダンスとしてはバレエとブレイクダンスとは全然違うわけです。ですが、インドではクラシックバレエ自体あまり身近にないので、そもそも僕を含めインド人にはバレエのイメージがないわけです。例えば、最初に観たビデオがバレエダンサーのミハイル・バリシニコフのもので、ジャンプやターンが本当にすごいと思いました。それに非常に男性的というか、本当に限界まで身体能力を使い、エレガントだけど強さみたいなものも感じて、とても惹かれました。欧米ではバレエというと女性がやるものというイメージがいまだに強いようですが、そういう先入観すら持っていませんでした。
僕は最初バク転をやりたいと思ったところからブレイクダンスを学び始めたんです。要するにトリックに惹かれた。バレエだったら大技ですよね。そういうところに魅力を感じて自分でも体得したいと感じました。だから入り方としてはバレエもブレイクダンスの時と同じでした。リスク的にもバレエは屋内ですし、屋外でブレイクダンスを踊るよりも安全なんじゃないかと思ったのですが、結果的に僕らのバレエスクールの床はコンクリートでした(笑)。
一同:
ハハハハ!
シャミ:
その後にコンテンポラリーダンスにも挑戦されており、そちらもまた違うジャンルのダンスとなりますが、どういった経緯でチャレンジすることになったのでしょうか?
マニーシュ・チャウハンさん:
コンテンポラリーもジャンプやダンスがとてもエレガントで見ていて美しいなと思いました。でも、美しさということでいうならやっぱりバレエだと思っていました。ただイスラエルに渡った時に、この考え方が変わりました。あるカンパニーで演目を観た時に、ちょっと奇妙だけど独特の美しさがあると感じたんです。動きが少し獣的で、自然から来ているようなものをすごく感じました。そこで「コンテンポラリーだったら、自分の内側の感情を表現していいんだ」と気づきました。それはバレエではできないことなので、僕自身バレエをやっている時に実はフラストレーションを感じることもありました。例えば足がクラシックバレエのソロ向きの足ではないこと、技術的にできないこと、あるいは学び始めたのが遅かったことがあります。でも、コンテンポラリーダンスだったらすべて表現できるので魅力的だと思いました。
シャミ:
年齢やご家族からの反対、怪我など、バレエを続ける上でさまざまな困難がありました。それでも続けてこられた最大の原動力は何でしょうか?
マニーシュ・チャウハンさん:
経済的なことや怪我などがあるなかでも、僕はダンスしかできないという想いがあります。だから他に何もスキルを持っていないということが一番の原動力です。人間は他にオプションがあれば、100%を出さないと思うんです。99%は出しても、1%は失敗してもこっちがあるからという考え方をしてしまうんです。でも、僕の場合はオプションがありません。だから、たとえ怪我をしても、年齢制限があったとしても、踊りしかないからこそ100%集中することができるんだと思います。それから僕は元々楽観的な人間なので、悪いことが起きた時はその中で何か良いことを見つけるようにしているんです。悪いことが起きても絶対に学びを得て成長すればいいと思っているので、いつも100%で臨んでいます。
シャミ:
1つのことに100%の力を注ぐというのはすごく難しいことなので本当に素晴らしいと思います。では、もしやりたいことがあってもなかなか踏み出せない方が傍にいたら、どんな風に声をかけますか?
マニーシュ・チャウハンさん:
確かに常に100%を出すことは難しいと思います。でもどんな状況であっても、皆旅路にあると思うんです。その旅路から離れないことがすごく大事なのではないかと思います。実は子どもの頃の僕はダンスが苦手だったんです。学校でダンスをする時間があったら、その間は隠れるくらい嫌いでした。でも結果的にダンスをやるようになり、Netflix作品では演技もさせていただきました。まさか僕が演技をするなんて考えてもみませんでした。だからやっぱりその旅路が大事なんだと思います。
例えばダンサーになろうと一歩踏み出した方がいたとして、もしかしたらダンサーとしては大成しないかもしれません。でも、その後ものすごい振付師になるかもしれません。だから目的地がどこなのかよりも、そこに至るまでの道のりが大事なんだと感じて欲しいです。例えばパフォーマンスをして拍手喝采をもらえたら、それはやっぱり嬉しいわけですよね。でも、自分を一番アーティストにしてくれるのは、そのパフォーマンスに至るまでにした何ヶ月ものトレーニングと重ねた努力だと思います。だから今辛い状況にある方は、とにかく道を見据えてそこから外れないように頑張って欲しいです。大変な経験というのは自分を強くしてくれると思います。
シャミ:
素敵な言葉をありがとうございます!ちなみに今後また俳優、もしくはダンサーとして映画に出演されることは考えていらっしゃいますか?
マニーシュ・チャウハンさん:
今はプロのダンサーとしての経験を100%したいと考えています。演技をすることに年齢制限はないと思うんです。ただ、ダンサーというのは年齢を重ねるとどうしても動けなくなってしまうリミットがあるんです。だから今は何に対しても扉を開いた状態にして、将来やりたいと思った時にできるような形を取りたいと思います。でも、まずはダンスに集中したいです。
シャミ:
またいつか映画出演される姿もぜひ観てみたいです。劇中、インドでダンサーとしてお金を稼ぐことは難しいとありましたが、その状況は今も変わらないのでしょうか?
マニーシュ・チャウハンさん:
今も状況は変わらないですね。ダンスに限らず、アート1本で生計を立てるということが難しいというか、不利に近いことだと思います。僕らが大好きなことを仕事にできていることは、とても恵まれていることです。多くの方は、お金を稼ぐためにあまり好きではない仕事に就くこともあるわけですから。ただ僕自身も家族まではまだ支えられないので、カンパニーにあるカフェでバイトをしたり、清掃の仕事も少ししたりしています。仕事に貴賎はないと思っていますし、自分が大好きなことを仕事にしているのでとても誇りを持っています。
シャミ:
では、最後の質問です。マニーシュさんが思い描く、理想のダンサー像とはどんなものでしょうか?
マニーシュ・チャウハンさん:
やっぱり踊ることを楽しんでいるダンサーじゃないでしょうか。テクニックがどうとか、どっちが上手いとか、順番を付けることは無理だと思うんです。例えば街で年をとった紳士がダンスを踊っていたとします。それがすごく幸せそうで、それを見ている僕らも幸せになるのであれば、それこそがパーフェクトなダンサーだと思いませんか?
シャミ:
本当にそうだと思います!本日はありがとうございました。
2024年8月30日取材 Photo& TEXT by Shamy
『コール・ミー・ダンサー』
2024年11月29日より全国公開
監督:レスリー・シャンパイン/ピップ・ギルモア
出演:マニーシュ・チャウハン/イェフダ・マオール
配給:東映ビデオ
ムンバイで大学に通うマニーシュは、ストリートダンスに興味を持ち独学で練習を始める。ある日、ダンス大会の出場で注目を浴びた彼は、ダンス・スクールに通うことを勧められる。両親から反対されるなか、マニーシュはダンス・スクールに入り、そこでバレエを教えるイェフダと出会う。バレエの虜となったマニーシュは、イェフダの指導のもと優れた運動能力とたゆまぬ向上心を持ち努力を重ねるが、バレエダンサーとして活躍するには年を重ねすぎていた…。
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情報は2024年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。