野良猫系女子、チャチャの恋と成長を描いたビザールラブストーリー『チャチャ』。今回は本作でチャチャ役を演じた伊藤万理華さんと、樂役を演じた中川大志さんにお話を伺いました。インタビュー中はとても和やかな雰囲気で、貴重なお話を赤裸々に語っていただきました。
<PROFILE>
伊藤万理華(いとう まりか):チャチャ 役
1996年2月20日大阪府生まれ。乃木坂46の一期生メンバーとして2011年から2017 年まで活動した。現在は、俳優としてドラマ、映画、舞台に出演し活躍中。映画『サマーフィルムにのって』(2021)では初主演を飾り、TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞、第 31 回日本映画批評家大賞新人女優賞を受賞した。その他の主な出演作に、映画『もっと超越した所へ。』(2022)、『そばかす』(2022)、『女優は泣かない』(2023)、地上波連続ドラマ初主演作『お耳に合いましたら。』(2021)、『日常の絶景』(2023)、『PORTAL X』(2024)、『燕は戻ってこない』(2024)、『パーセント』(2024)などがある。今後は、映画『オアシス』(2024年11月15日公開)、『港に灯がともる』(2025年1月17日公開)の公開が控えている。また、俳優業以外に、PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(2017)、「HOMESICK」(2020)、MARIKA ITO LIKE EXHIBITION LIKEA」(2022)を開催するなど、クリエイターとしても活躍している。
中川大志(なかがわ たいし):樂 役
1998 年6月14日生まれ。東京都出身。2011年、ドラマ『家政婦のミタ』で注目され、NHK 連続テレビ小説『なつぞら』(2019)で広く知られるようになる。映画『坂道のアポロン』(2018)、『覚悟はいいかそこの女子。』(2018)では第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。その他の主な出演作に、ドラマ『花のち晴れ〜花男Next Season〜』(2018)、『G線上のあなたと私』(2019)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022)、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ』(2023)、『Eye Love You』(2024)などがある。映画では、『四月は君の嘘』(2016)、『きょうのキラ君』(2017)、『ReLIFE リライフ』(2017)、『虹色デイズ』(2018)、『砕け散るところを見せてあげる』(2021)、『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』(2021)、『犬部!』(2021)、『ブラックナイトパレード』(2022)、『スクロール』(2023)、『碁盤斬り』(2024)『夏目アラタの結婚』(2024)などに出演。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
自分を見つめ直す良い機会になりました
記者A:
まず本作のオファーがあった時の気持ちをそれぞれ聞かせてください。
伊藤万理華さん:
脚本を読ませていただいた時に、単純に画としてこの作品を観てみたいと感じました。また、脚本の段階からチャチャにたくさん共感できる部分があったんです。チャチャの言動は、狙ってやっているのか、本能的にやっているのか、どちらも作用しているところがあり、ぜひ演じてみたいと思いました。
中川大志さん:
酒井監督とは今回初めてだったのですが、監督の手掛けた脚本が本当におもしろくて、且つ樂というキャラクターがものすごく魅力的で、夢中になって読ませていただきました。樂のまとっているオーラやミステリアスさというか、目の前にいるのにどこか別の世界にいるような、彼の魔力のような部分をどう体現していけるのか興味がありました。また、僕にとってこれまでにないような新しいチャレンジができるキャラクターだと感じたのでぜひやってみたいと思いました。
記者B:
中川さんが樂に特に共感できたところはありますか?
中川大志さん:
置かれている状況は違えど何か自分の将来であったり、生きている世界への不安、自分の中に確かにあるけど明確にはならない空虚さといったものを樂は抱えているんだろうと思い、そういうところにすごく共感しました。樂はその不安な気持ちや不快さをいろいろな手段を使って埋めていこうとするのですが、そういった部分は誰しも持っているものなのかなと思いました。
記者B:
お二人は初共演だと思いますが、共演前と後で印象は変わりましたか?
伊藤万理華さん:
私は中川さんをいろいろな作品で拝見していて、テレビをつけたら出ているという印象がありました。私の勝手なひねくれた考えかもしれませんが、私のような人とはたぶん共演することがない俳優さんだと思っていて、すごく遠い存在のように感じていました。なので樂役が中川さんだと伺った時はびっくりしました。でも、この一見交わらなさそうな感じは、チャチャと樂にも共通していると思うんです。どちらもある意味キャラクターとして浮世離れしていますよね。樂の空虚感みたいなところと、チャチャが周りから少し浮いている孤独感みたいなところが共通するのかなと思いました。
いざ現場に入ってからも中川さんの印象は全然変わりませんでした。たぶん変わらないままでいてくださったというか、ずっと樂としていてくださったのでとても助かりました。ただもう少し現場でも話せたら良かったなと、後から後悔しているところもあります(苦笑)。
中川大志さん:
確かに交わらなさそうといわれるとそうなのかもしれませんが、僕としては、伊藤さんと共演してみたいと思っていたので、今回一緒にお仕事ができて楽しかったです。以前、共演シーンはないけど同じ作品に出演したことがあり、その作品もそうですし、他の作品でも存在感や放っているオーラや世界観を感じ、すごく目を引く方だなと思っていました。今回は台本をいただいた段階で伊藤さんのお名前を聞いていたので、チャチャのイメージにすごくぴったりだと思いました。本当に伊藤さんのためにある役なのかなと感じたので、脳内で伊藤さんのチャチャをイメージしながら読んでいましたし、共演するのを楽しみにしていました。実際に現場に入って、僕の思い描いていた以上のチャチャがいたので、本当に嬉しかったです。
伊藤万理華さん:
中川さんの樂は私が想像していたよりもずっと眩しかったです。現場でも、「どうしよう、樂がすごくカッコ良い!」と感じて、この輝きに耐えられるのかという葛藤があり、心の中で私とチャチャがずっと対話していました。
中川大志さん:
ハハハハ(笑)!すごく嬉しいです!
伊藤万理華さん:
本当にそれぐらい役を愛していることが現場で伝わってきて、こだわりのある方なんだろうなと思いました。
シャミ:
本作は、酒井麻衣監督 7 年ぶりの完全オリジナル作品ということですが、監督と事前に役や物語について何か話し合ったことなどありますか?
伊藤万理華さん:
私は顔合わせの時に監督からこの映画を作る経緯や想いを聞かせていただき、私がチャチャ役に決まってからも何度も顔を合わせてセッションさせていただきました。「ちょっと歩いてみて」と言われ、「こういう感じですか?」とやってみたら、「いや、もっと軽い感じで歩いて」と。そのくらい酒井監督の中にはっきりとチャチャ像があって、それを私自身が受け止めて体現する準備をしたのですが、形にするまでが難しく、本番に間に合わせるのに苦悩しました。
シャミ:
監督のイメージに近づけるにあたり、苦労された点も多かったんですね。
伊藤万理華さん:
本当にこれまで自分がやってきたことを全部壊すくらい、今までのやり方では何も通用しないと感じました。なので、現場では赤ちゃんに戻ったつもりで、何でも新しいものを吸収しようという想いで臨みました。
中川大志さん:
僕は事前にキャラクターシートみたいなものをいただき、監督とは本読みの時にいろいろと話しました。撮影現場では、瞬発力を持って進んでいかなければならないので、話すというよりも実際にやって、見てもらうという感じでした。監督は本当に繊細なところまでこだわる方だったので、何となく解釈は共有できても、お芝居の出力というか、微妙なさじ加減は都度調整をしていきました。それはかなり繊細な作業でしたね。
シャミ:
なるほど〜。樂は特に前半と後半とでイメージが変化していくキャラクターで、そういう意味でも難しかった点はありましたか?
中川大志さん:
そうですね。特に今回僕の中のテーマとして、何も事件が起きていない日常の時間をどういう風に演じられるか、樂としてどう存在していられるかというところがありました。そこが樂のまとっているオーラや、樂が見ている世界に繋がってくると思ったので、ただ屋上でタバコを吸っているだけ、買い出しをして店から出てただ歩くとか、そういう日常の場面の見せ方を大事に演じていました。
シャミ:
激しい場面よりも日常の場面のほうが大変だったんですね。
中川大志さん:
激しいシーンの場合はうねりがあって、それにどんどん乗っかれば良いのですが、日常的なニュートラルな時間のほうが難しいんです。
記者A:
お二人が撮影の時の特に印象に残っているシーンはありますか?
伊藤万理華さん:
私は良い思い出も苦い思い出も含めて屋上です。屋上はチャチャと樂が出会う大切な場所で、そこからチャチャの表情が変わっていくんです。私は撮影初日が樂との出会いのシーンと、樂に本心を聞くシーンでした。本心を聞くシーンでは、自分なりにチャチャを演じてもなかなかオッケーが出ず、その時は本当にダメだと思うくらい撃沈してしまいましたが、自分を見つめ直す良い機会になりました。
中川大志さん:
あのシーンが初日だったんだね。
伊藤万理華さん:
そうです。中川さんがずっと頼もしくいてくださったので、本当に助かりました。あの時はここからスタートするのに、つまづいていてどうするんだという気持ちでしたが、その経験があったからこそ端から見えている自分、チャチャに近いといわれる自分って何なのだろうと自分自身を俯瞰して考えるようになりました。だからあの経験があって良かったと思います。
中川大志さん:
僕は料理を作るシーンがあったので、練習して臨みました。家で事前に何回か作ってみたり、あとはフードコーディネーターの方ともいろいろと相談しました。アクションでも普段の所作でもそうですが、キャラクター性をどう出していけるかというのをフードコーディネーターの方と練習しながら打ち合わせしました。野生的なやり方なのか、美的センスがあってこだわるやり方なのか考えながら、アドバイスしていただきました。監督もすごくこだわって物撮りをされていたので、料理にもぜひ注目してもらいたいです。
大切なのは良いバランスで仕事をするということです
シャミ:
ここからはそれぞれご自身のことについて聞かせてください。伊藤さんはアイドル経験もお持ちで、現在は俳優やクリエイターとしても活躍されていて、今回は主題歌も担当されていますよね。
中川大志さん:
主題歌を歌っているのを知らずに本編を観てびっくりしたんですよ!
シャミ:
そうだったんですね!?
伊藤万理華さん:
言ってなかったよね(笑)。
中川大志さん:
撮影の時から決まっていたの?
伊藤万理華さん:
監督と一緒に主題歌をどうするのかという話をしていて、最終的にこれはチャチャが歌ったほうがいいんじゃないかとなりました。それで私が歌うことになって、チャチャとして歌いました。
中川大志さん:
すごく可愛らしい歌だったね。
伊藤万理華さん:
今回の歌は、プロデューサーと監督と私とで、会議室にこもってずっと歌詞を考えたんです。映画のプロモーションをどうするのかという話と同時に歌詞を考える作業もさせていただき、そこまですることはなかなかできないことなので本当に貴重な体験でした。
シャミ:
伊藤さんはそういった俳優以外のクリエイティブな面もお持ちですが、別のクリエイティブなお仕事と俳優のお仕事とで相互作用すると感じる部分はありますか?
伊藤万理華さん:
昔は何かを作っている自分の脳みそと、俳優のお仕事とで切り離していたんです。演技ばかりしていると消耗してしまうので別のこともするようにしていて、助けになってもらう意味でギャラリーをやったりしていました。でも、今はそういう認識ではなくなり、それぞれで学んだことがどちらにも生かされるのだと感じています。だからこそ私にとってはどちらも欠かせないものなんです。それはなぜかというと、自分がゼロから作る人の1番近くにいて、コラボレーションすることで新しい何かが生まれるというのを体験してみたいと思った時に、クリエイターの方と対話することで、ゼロから作るプロセスのおもしろさを直接教えていただけるんです。それは演者としてもすごく必要なことで、監督はもちろんそれ以外の技術の皆さんと現場でコミュニケーションをとることで、それぞれの大切さをより実感することができ、映画作りに対するリスペクトが生まれるんです。そういうものづくりの方達に私自身が救われている実感があるからこそ、それは絶対に忘れたくないなと思っています。
シャミ:
どちらもやっているからこそ実感できることですね。中川さんは以前『青鬼 ver.2.0』の際にインタビューをさせていただいたことがあり、当時将来の目標について聞いたんです。
伊藤万理華さん:
何て言っていたんですか?
シャミ:
その時は「唯一無二の役者になること」だとおっしゃっていました。
伊藤万理華さん:
実現していますね!
中川大志さん:
いやいや、そんなことないよ。
シャミ:
それから9年ほど経つのですが、今は俳優として何か目標などお持ちでしょうか?
中川大志さん:
とにかく俳優を続けていけたらいいなと思います。続けていくことも当たり前ではないですし、簡単ではないことがわかってきたからこそ、やりたいと思っているうちは続けたいです。逆にやりたいという想いが枯れてしまったら無理して続けることはできないと思うんです。
シャミ:
その情熱を絶やさないでいるためにも何か努力が必要なのでしょうか?
中川大志さん:
それはあまり意識していません。でも、大切なのは良いバランスで仕事をするということです。やっぱり時には疲弊しますし、精神を削られる瞬間も多々ある仕事なので。だからこそインプットが大切だと思います。アウトプットだけだと気がついたら何もなくなっていってしまうので、インプットする自分の時間も大事にしていきたいなと思っています。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年8月9日取材 Photo& TEXT by Shamy
『チャチャ』
2024年10月11日より全国公開
監督・脚本:酒井麻衣
出演:伊藤万理華/中川大志/藤間爽子/塩野瑛久/ステファニー・アリアン/落合モトキ/藤井隆
配給:メ〜テレ、カルチュア・パブリッシャーズ
デザイン事務所で働くイラストレーターのチャチャは、自由奔放な振る舞いで周囲から反感を買うこともあるが、人目は気にせず好きなように生きていた。そんなある日、屋上でミステリアスな青年、樂と出会う。自分とは正反対のものが好きな樂にチャチャは興味を持ち、次第に惹かれていくが…。
©2024「チャチャ」製作委員会
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情報は2024年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。