日本を舞台に、日本文化の特徴を活かしたストーリーが描かれた本作で、監督と脚本を務めたエリーズ・ジラールさんにインタビューをさせていただきました。日本で撮影を行い、実際に日本文化に触れたジラール監督の目に、日本はどのように映っていたのかお聞きしました。
<PROFILE>
エリーズ・ジラール:監督・脚本
1974年、フランス生まれ。大学で脚本について学んだ後、演劇教室に通いながら複数の作品に出演した。その後、映画館の広報を経験し、当時の経験をもとに、2本の中編ドキュメンタリーを監督した。2011年、『ベルヴィル・トーキョー』で長編映画の監督デビューを果たし、2017年作品『静かなふたり』では、ベルリン国際映画祭フォーラム部門に選ばれた。
フランス人のジラール監督からみた日本とは
マイソン:
本作は日本が舞台となっています。日本に最初に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
実は2013年に私の長編監督デビュー作『ベルヴィル・トーキョー』が日本で公開されることになり、そのプロモーションとして配給会社から日本に招聘されたんです。その時に、私は日本という国を発見し、日本の美しさ、穏やかさ、繊細さにすごく感動したのがきっかけです。
マイソン:
本作にはスピリチュアルな要素が入っています。日本に来た時にそういう霊的なものを感じたのでしょうか?もしくは、今回映画を作る段階で、そういう要素が日本にあると気づいたのでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
最初に日本に滞在した2013年にもお寺などに行ったので、お寺や神社で皆さんが手を合わせてお祈りをされている姿を見て、とてもスピリチュアルなものが日本にはあるのだなと感じました。
そして、幽霊というアイデアが生まれたんですけれども、本作に登場する幽霊はいわゆる日本映画で目にするようなおどろおどろしい幽霊ではありません。私が知る西洋の幽霊には陽気な幽霊もいますので、そういう幽霊みたいな存在を描きたいなと思ったんです。でも、日本の友人達と話をしていると、日本とフランスでは、亡くなった方達に対する捉え方が全然違うなと思いました。
マイソン:
フランスではどういう感覚なんですか?
エリーズ・ジラール監督:
フランスでは幽霊はいないんです。幽霊を見たって言ったら、「おかしいんじゃないの?」って言われます。近しい人が亡くなったら悲しい、それだけ。他に慰める材料はないんです。
マイソン:
他にも劇中ではお辞儀など日本文化を象徴するシーンがあります。監督がすごく印象に残っていること、すごく珍しく思ったことってありますか?
エリーズ・ジラール監督:
シナリオを書く前にシナリオハンティングをして、お寺のお坊さんにお会いしたことがあったんです。日本語で何というのか忘れちゃいましたが、こんなことをするんだっていう、お寺体験をさせていただいて、それは驚きでしたね。
マイソン:
そういったお寺の印象から、本作の舞台に京都や奈良などを選ばれたのでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
そうですね。
マイソン:
場所としてホテルや旅館も象徴的に映っていました。どんな風に選んでいったのでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
シドニは取材や記者会見を開くためにどんどんと移動しますよね。観光もしますけど、最初は“伝統”の象徴といえる京都から出発します。つまり、“過去”なんです。そして、直島は現代アートの島なんです。つまり、シドニは過去から現在へ移動します。それは彼女の心の移動とも重なるんです。
マイソン:
なるほど!あと、今日も通訳をしてくださっている、人見有羽子さんも本作に出演されていますね。どのように出演が決まったんですか?
エリーズ・ジラール監督:
私のプロモーションの時に彼女が通訳として仕事を一緒にしていたので、本物の通訳を起用するのはとてもおもしろいんじゃないかと思いました。
マイソン:
人見さんはオファーが来た時、どう思われましたか?
人見有羽子さん:
最初は(2019年に逝去された)プロデューサーの吉武美知子さんとジラール監督と渋谷で会って、依頼はシンプルだったので断る理由がなく「いいですよ」と。そしたら意外とセリフがあって(笑)。
マイソン:
そうなんですね(笑)。でも、楽しまれたんですか?
人見有羽子さん:
大変でした。セリフはちゃんと美しくリズムまで書かれていたんです、フランス語で。さらに私の翻訳ではなく、日本語の翻訳も用意されていました。リスペクト100%でした。
マイソン:
リズムまで!すごいですね。そして本作では、イザベル・ユペールさんが主演を務められています。ジラール監督の一つ前の作品『静かなふたり』で娘のロリータさんが出ていらっしゃいますね。何か繋がりはあったんですか?
エリーズ・ジラール監督:
ロリータを介して、お母さんのイザベルにお会いしたことがあって、その時もすごく素敵な方だなとすごく好印象でした。
マイソン:
その時はまだこの作品は企画されていなかったんですか?
エリーズ・ジラール監督:
なかったです。もっと後でした。
マイソン:
本作の撮影で日本に滞在して、多くの日本人と関わりを持たれたと思います。日本人ってこういうところもあるんだなとイメージが変わった点はありますか?
エリーズ・ジラール監督:
最初は、必然的に素晴らしい印象を持つじゃないですか。でも、だんだん距離が近づいてよく知るようになると、こういうところもあるのねと、印象が変わったという事実はありました。やっぱり最初の頃は異国人として、すべてに目がキラキラとしていたので、日本における男性支配社会という点には、最初の滞在ではわかっていなかったですね。少しずつわかりました。
マイソン:
そういう部分も見えたんですね。本作の撮影時期はコロナ禍あたりで、大変な時期でもあったのではないでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
この作品の撮影はコロナで1年間延期になったんです。1年後になんとか撮影を決行することになった頃、日本の空港は観光客に対してはまだ閉められていたんです。だから、結果的に観光客が全然いない観光地で撮れて、「災い転じて福となる」を私は体験しました。
マイソン:
確かに観光客が今のようにたくさんいると撮影が難しかったでしょうね。
次に監督ご自身のお話を聞かせてください。資料には、以前、俳優の養成学校に通われて、俳優経験もあり、映画館の広報もされていたとありました。最終的に映画監督になろうと始めから決めていたのでしょうか?それとも、いろいろな経験をしてきたなかで映画監督に辿りついたのでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
もともと映画が好きだったので、歌手になろうなどとは思ったことはないです、歌えないし。そして、川の流れの如くではなく、最初から監督をしたいという思いがありました。監督ってやってみたらすごく大変な職業なんです。生半可な気持ちでちょっとやってみようかという感覚でできる仕事ではありません。意志を固く決めてやる仕事なので、私の中ではどんなことがあっても監督をやるっていう思いがありました。
今、映画の世界で脚本を書き、監督をするなかで、ひょっとしたらもっと自分のコントロール下で映画を撮りたいっていう気持ちが強くなれば、プロデューサーも将来的に兼職という形であり得ると思っています。
マイソン:
映画館の広報も務めていらっしゃったのは、すごく監督としても強みじゃないかなと思います。当時の経験が監督として生かされていると思うことはありますか?
エリーズ・ジラール監督:
すごく手助けになっています。企業の広報ではなくて、映画館の広報で、私自身がすごく映画が好きだから、本当に映画にどっぷり生きていると思いますね。
マイソン:
フランスでは映画制作に対する支援があったり、映画文化が根付いているように思います。その背景として、小さい頃から映画を見慣れているという状況もあるのでしょうか?
エリーズ・ジラール監督:
そうです。私も母によく映画館に連れて行ってもらいました。
マイソン:
監督が映画に夢中になったきっかけとなる作品は何ですか?
エリーズ・ジラール監督:
複数ありますけれど、フランソワ・トリュフォーの作品です。
マイソン:
何歳頃に映画に夢中になったんですか?
エリーズ・ジラール監督:
9歳です。
マイソン:
やっぱり子どもの頃から映画が好きだったんですね。では最後に、本作は日本人にとっても特別な映画だと思います。どういう方に一番観て欲しいですか?
エリーズ・ジラール監督:
女性に観て欲しいです。
マイソン:
年齢を問わず?
エリーズ・ジラール監督:
すべての年代の人です。
マイソン:
私達のウェブサイトは女性向けなのでピッタリです。
エリーズ・ジラール監督:
ほんとですね!(日本語で)アリガトウゴザイマシタ。
マイソン:
ありがとうございました。
2024年11月5日取材 TEXT by Myson
『不思議の国のシドニ』
2024年12月13日より全国順次公開
ギャガ
監督・脚本:エリーズ・ジラール
出演:イザベル・ユペール/伊原剛志/アウグスト・ディール
日本の出版社から招聘されて日本を訪れたシドニ(イザベル・ユペール)は、編集者の溝口(伊原剛志)に案内され、京都を始めとして観光地を順に訪れることに。そして、その旅路で、亡き夫の姿を見かけ…。
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情報は2024年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。