窪塚愛流と蒔田彩珠が主演を飾る、嶽本野ばらによる同名小説の映画化『ハピネス』。今回は本作で英生役を演じた山崎まさよしさんと篠原哲雄監督にお話を伺いました。『月とキャベツ』や『影踏み』などでもお仕事をされているお二人に改めてご一緒された感想や、山崎さんの演じた父親役について聞いてみました。
<PROFILE>
山崎まさよし(やまざき まさよし):山岸英生 役
1971年12月23日、滋賀県草津市生まれ。山口県防府市育ち。1995年、「月明かりに照らされて」で歌手デビューを果たす。篠原哲雄が監督を務めた映画『月とキャベツ』(1996)では俳優として主演を飾り、主題歌「One more time, One more chance」がロングヒットを記録した。音楽活動では、全国ツアーを行うほか、全国各地のフェス・イベントやセッションなどにも多く参加している。俳優としては、ドラマ『奇跡の人』(1998)、映画『8月のクリスマス』(2005)、映画『影踏み』(2019)などで主演を飾っている。
篠原哲雄:監督
1962年2月9日生まれ。東京都出身。森田芳光、根岸吉太郎、金子修介監督らの助監督や自主制作で経験を積んだ後、1993年に『草の上の仕事』で注目を集める。1996年には、山崎まさよし主演の初長編映画『月とキャベツ』がヒットする。2018年、『花戦さ』では第41回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。その他の主な映画監督作品に、『洗濯機は俺にまかせろ』(1999)、『はつ恋』(2000)、『木曜組曲』(2002)、『昭和歌謡大全集』(2003)『深呼吸の必要』(2004)、『天国の本屋~恋火』(2004)、『欲望』(2005)、『真夏のオリオン』(2009)、『起点終点駅 ターミナル』(2015)、『花戦さ』(2017)、『影踏み』(2019)、『犬部!』(2021)などがある。また、今後は『本を綴る』が2024年秋に全国順次公開を控える。
俳優、山崎まさよしさんの魅力は人間力
シャミ:
本作は、嶽本野ばらさんの原作を映画化しています。最初に原作や脚本を読んだ時に受け取った印象を教えてください。
篠原哲雄監督:
僕の場合は映画化を前提に脚本から読みました。今回は、親しい映画会社からの依頼だったので、どういう話だろうと興味がありました。印象としては、恋人の由茉(蒔田彩珠)が1週間後に死んでしまうことを知ってしまった雪夫(窪塚愛流)がそれをどう受け止めるのかという点がこの物語のキーポイントで、山崎まさよしさんと吉田羊さんが演じてくれた両親も同じように由茉が生きてきた人生をどう考えるのか、今の彼女をどう受け止めるのかという葛藤がものすごく大きいと感じました。だから、これを演出するのはなかなか手強そうだと思いましたが、こういう話が好きなので引き受けることに決めました。
シャミ:
監督が納得のいくキャスティングだったと資料にあったのですが、どのように決めたのでしょうか?
篠原哲雄監督:
キャスティングはいつもプロデューサーとこの世代の俳優さんだとどういう方が良いか話し合って決めています。雪夫や由茉は若い世代なので、同世代でどういう俳優さんがいるのかというリサーチから始めました。俳優さん選びの際には、現状のスタンスと、これからの展望というものをそれぞれ見ながら考えていくのですが、そういう意味でも窪塚くんと蒔田さんが僕の中でしっくりと来て、プロデューサーともそれが一致して決まりました。吉田さんについても同様です。でも、山崎さんについてはこれまで『月とキャベツ』や『影踏み』と、いつも主役をお願いしていたので、実は最初は思い浮かばなかったんです。
シャミ:
意外ですね!
篠原哲雄監督:
今回のプロデューサーは助監督時代からお世話になっている方だったのですが、その方から「山崎さんが近くにいるだろう」と言われ、なぜ今まで気づかなかったのだろうと。こういう局面でこそもしかしたら山崎さんの違う面が生きてくるのではないかと感じたんです。本人はまさか父親役だと思わず、びっくりすると思いましたが、僕としてはたぶん合うだろうなと直感みたいなものが働いて、恐る恐る声をかけてみたんです。でも、もし断られたらどうしようとは思っていました(笑)。
山崎まさよしさん:
そうだったんですか!?
篠原哲雄監督:
スケジュール的にNGの場合もありますしね。でも、頭の中ではもう父親役は山崎さんが良いと思ってました。
シャミ:
他の作品では違う雰囲気の役を演じられていたので、父親役はすごく新鮮に感じました。山崎さんは実際に英生役のオファーを受けていかがでしたか?
山崎まさよしさん:
まず脚本を読ませていただいたのですが、僕自身も娘がいるので、そこまでイメージが離れているとは感じませんでした。何とも切ない状況の父親ではありますが、その辺は妻役の吉田羊さんに引っ張ってもらって演じました。
シャミ:
ご自身としては父親役がスッと入ってきたんですね。
山崎まさよしさん:
そうですね。父親役も夫役も初めてで、あまりやったことがないタイプの役でした。これまで犯罪者役は結構あったんですけど、この辺でちょうどいい感じに好感度を上げていこうかなと(笑)。
一同:
ハハハハハ!
篠原哲雄監督:
前は泥棒役だったもんね。
山崎まさよしさん:
台本を読んだ段階では、英生をどうやって演じたら良いのかわからなかったんです。誰も経験したことがないような状況ですし、ロリータファッションにも馴染みはなかったので。でも、うちの娘は最近フリルがすごく好きなんですよ。だからこの映画を見せたらハマって「こういう格好がしたい!」となる気がします。
シャミ:
劇中に登場したロリータファッションはすごく可愛かったです!ロリータファッションについては、原作の嶽本さんがこだわられたそうですが、監督は何か嶽本さんとお話されたことなどありますか?
篠原哲雄監督:
嶽本さんとは現場で初めてお会いしました。過去には「下妻物語」など、素晴らしい作品も発表されているので、少し緊張感を持ってお会いしました。原作は、雪夫が一人称の小説なので由茉のことを“彼女”と表現しているのですが、それがすごく詩的な感覚だと思ってました。僕は雪夫が嶽本さん自身だと思っている部分もあって、どこかご自身の経験とか、そういったものを書いているのかなと想像していました。だから、実は嶽本さんと作品についてはあまり詳しくお話していないんです。ただ、嶽本さんが映画を観終わった後に、雪夫と由茉が肉体的に触れている場面が多いことについて、すごく気に入ったと言ってくださったんです。僕としても人間の距離というのは、肉体に関わらず何か触れ合うとか、そういうスキンシップや距離感が大事だと思っているので、どこか嶽本さんと通じるものがあるのかなと感じました。
シャミ:
確かに雪夫と由茉の距離感の近さはこの作品ならでの魅力ですよね。1週間という限られた時間だからこそ、2人の恋愛がすごく凝縮して描かれていたようにも思ったのですが、監督が演出する上で1番難しかった点はどんな部分でしょうか?
篠原哲雄監督:
この映画の中に人物がどう配置されて、どういう風に着地するのかというところが重要だと思いました。窪塚くんと蒔田さんの芝居の資質はそれぞれ違うんです。窪塚くんは一生懸命に演じるタイプで、蒔田さんは自然体で演じるタイプです。だから、どういう風にそのバランスを取っていこうか考えました。あとは、結構長いカットをじっくり撮っていたので、緊張感をどう維持しながら撮影するのかということは、気をつけながらやっていました。
山崎さんと吉田さんについては、先ほど山崎さんから吉田さんが引っ張ってくれたという話がありましたが、確かにそういう部分がありました。吉田さんはどちらかというと演じる時にスイッチが入るほうなんです。山崎さんの場合は、これまで違うベクトルの役を演じていましたが、今回は少しユーモアのある父親役で、その場をふわっと和らげてくれるようなところもあるので、そういう意味では2人のバランスが良かったんだと思います。それはたぶん演じている方々も同じように感じていて、意識的にというより自然にそうなっていったと思います。
シャミ:
山崎さんの演じた英生は、妻と共に心臓の病気を患う由茉を温かく見守っていました。山崎さんご自身はこの家族関係についてどのように捉えていましたか?
山崎まさよしさん:
まだ10代の娘が恋人の家に泊まりに行くとか、普通親なら「えっ!?」って思いますよね。でも、娘の老い先が短いということを考えると、やっぱり好きなようにさせてやるのが父親であり、できるだけその悲しみを見せないほうが良いんだろうなと思いました。娘の余命が短いなんて絶対に悲しいはずですが、親が悲しがっていたらあまり良くないと思ったんです。だから、日々淡々と仕事をして帰ってきて、ご飯を食べてとか、そういうことなのかなと。娘が連れてくる恋人のことなんて、普通の父親だったら認めたくないですよね。でも、その恋人に対して「感謝している」というセリフもあって、本当に感謝なんてできるのかなと感じましたが、そういう部分が物語の外枠を固めているように思いました。
シャミ:
本当に特殊な状況でしたよね。今回は、吉田羊さんとご夫婦役で、窪塚さん、蒔田さんとも共演シーンがありましたが、現場で印象に残っていることは何かありますか?
山崎まさよしさん:
やっぱり羊さんが俳優として素晴らしかったです。本当に母親なんです。すごく深いところで母親になっているなと感じて、僕はもう完全に付いていくしかありませんでした。
シャミ:
山崎さんと監督は今までも一緒にお仕事をされていますが、今回改めてご一緒されていかがでしたか?
山崎まさよしさん:
篠原監督はずっと変わらないんですよ。それこそ篠原監督とのお仕事の時は主演をいただくことが多かったのですが、今回はこういう役をいただいて、ご期待に添えたのかとちょっと心配しています(苦笑)。
篠原哲雄監督:
期待に添えていますよ!今回はさらに幅が広がったと思います。
山崎まさよしさん:
ありがとうございます!
シャミ:
では、山崎さんの思う篠原監督作品の魅力は何でしょうか?
山崎まさよしさん:
素朴さとか、人間の内面を撮ることができるという部分でしょうか。実は今回現場で役についての説明がなかったんですよ。「このお父さんは、何の仕事しているんですか?」と聞いたら「何でしょう?」って(笑)。
篠原哲雄監督:
いやいや、そこは最初に会った時に、山崎さんのほうから「お父さんは大工とかアウトドア的な人がいいですよね」と第一声で言っていただいたので、そんな感じで良いなと思っていたんです。
山崎まさよしさん:
そうなんですか!?だから結局監督からは何も聞いていないんですよ(笑)。
篠原哲雄監督:
衣装合わせの時には、そういうニュアンスで用意していたので、いちいち説明しなくても大丈夫だろうと(笑)。
シャミ:
やっぱりお二人がこれまでも一緒にやってこられたからこその阿吽の呼吸なのでしょうか。
篠原哲雄監督:
山崎さんの初日は、吉田さんが演じる妻と一緒に病院の先生から娘の病状を聞いて、妻が「本当にそうなんですか?」と先生に食いついて、途中から泣き出す場面だったんです。台本だとその時に父親は聞いているとしか書いていませんでした。でも、その時に山崎さんは、吉田さんの背中をさすっていて、僕は特に何も指示していないんですけど、ごく自然にやってくれて、そこに思いやりを感じました。かつての山崎さんは、自分からそういうことをやるタイプではなかった。だから、俳優としてこうやって自然に演じてくれることが僕としてはちょっと嬉しかったんです。その後も病院で妻が雪夫と話をしている場面があり、そこでも奥さんを見つめる眼差しがとても良かったので、あまり余計なことを言うまいと思いました。ある程度佇まいが大事だと思っていたところもあり、それは『月とキャベツ』の頃から山崎さんにずっとあるものなんです。
シャミ:
そうだったんですね。本作を含めて、山崎さんをたびたび起用されていますが、監督の感じる俳優としての山崎まさよしさんの魅力はどんなところでしょうか?
篠原哲雄監督:
芝居力というより人間力なんです。僕がキャスティングの話をする時に、その俳優さんに役が合っているのかはもちろん、その方と一緒にどう映画を作ることができるのかを考えるんです。芝居で求める部分もありますが、僕は一緒に作っていくことを重視していて、やっぱり人間性というか、スタンスが大事だと思っています。山崎さんの場合、シンプルに佇まいや芝居の素朴さも良いと思いますし、あとはやっぱり言葉です。普段から言葉を使うお仕事をされているからこそ、そこから何か出てくるものがあり、芝居にもそれが表れているんだと思います。普通の俳優さんとはちょっと違う部分があり、セリフをセリフとして言うんだけど、何かもっと人として言っている感じがあるので、そこがいいなと思っています。
シャミ:
山崎さんはこれまでも監督とたびたびお仕事をされていて、普段はシンガーソングライターとしても活躍されていますが、いちクリエイターやアーティストとして監督から何か影響を受けたことはありますか?
山崎まさよしさん:
篠さんはやっぱり映画の人なんです。昔はフィルムで撮っていたのですが、監督は編集が1番楽しいと言っていたんです。僕は編集スタジオに行ったことがあり、監督が実際にカットの作業をしているのを目の当たりにしたことがあります。撮影自体は結構長回しをすることもあったのですが、編集が楽しいということはやっぱりクリエイターだなと感じました。音楽のレコーディング作業も昔はテープでしたし、それとも通ずる部分があると思いました。
今はデジタル化され、その場で撮ったものをすぐに観返すことができますが、昔はそういうわけにいかなかったので、記録係の方に食い入るように芝居を見られていました。『月とキャベツ』の撮影当時に、カーテンをこう開けたのに、こう閉めているとか、そういうこともありました(笑)。でも今はデジタル化のおかげでそういうことがないわけですが、篠原組というチームはそういう細かいところに今でもこだわっていると思うんです。最近はいろいろなことが早く進みますが、昔はなかなか決まらないことも多くて、映画ってそういうものなんだなと思いました。
シャミ:
技術的な進歩の影響もあり、いろいろと変わってきた部分も多いんですね。
山崎まさよしさん:
変わってきていますね。やっぱり監督ってすごい仕事だなと思います。
シャミ:
今業界的な変化についてのお話もありましたが、監督は何か変化を感じていることはありますか?
篠原哲雄監督:
確かに昔はいろいろと決まらないことが多くありました。これはどうか、これでも良いのではないかと、決めるまでに時間をかけていましたが、今は早くなったと思います。それは自分自身が少しは映画作りのことがわかってきたということもあるかもしれません。昔はカットをどうしようかということもわかりませんでしたが、今はそんなことを言っていられませんし、どんどん撮らないといけません。でも、画的な感覚が自分の中でだいぶ身に付いてきたという感覚があります。
あとは、スタッフワークもだいぶ早くなっていると思いますし、俳優さんも最近はじっくりと何回も撮るというよりも、最初からある程度これだというものを見せてくれることが多くなっていて、特に若い世代はそっちのほうが慣れている気がします。たぶん『月とキャベツ』の頃はゼロからスタートして、じっくり少しずつ積み上げていたと思います。今思うと何であんなに遅かったんだろうと思うくらいです(笑)。
山崎まさよしさん:
当時は朝までやっていましたよね。
篠原哲雄監督:
そうだよね。あの時もう少し早く撮れたら夜が明けなくて済んだのに。今はあんまり夜中まで撮影すること自体ないけど、音楽のほうはどう?
山崎まさよしさん:
音楽のほうでも昔は徹夜が当たり前でしたが、今はてっぺんを越えることはないです。1、2時間でできるのであれば、それでやります。
シャミ:
映画も音楽も業界的に変わったところがたくさんあるんですね。本日はありがとうございました!
2024年4月30日取材 Photo& TEXT by Shamy
『ハピネス』
2024年5月17日より全国公開
監督:篠原哲雄
出演:窪塚愛流 蒔田彩珠 橋本愛 山崎まさよし 吉田羊
配給:バンダイナムコフィルムワークス
高校生の雪夫は、ある日突然恋人の由茉から心臓に病気を抱えていることを告白される。由茉は自分の運命を受け止め、残りの人生を精いっぱい生きると決めていた。そして、雪夫も動揺しながらも彼女に寄り添う決意をする。2人は逃れられない運命と向き合い、由茉の残りの人生を笑顔で幸せに過ごすことを選択する。
©嶽本野ばら/小学館/「ハピネス」製作委員会
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情報は2024年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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