カナダの片田舎で暮らす祖母と、ドラァグクイーンの孫の関係が描かれたヒューマンドラマ『ジャンプ、ダーリン』。今回は本作で長編映画デビューを飾ったフィル・コンネル監督にメールインタビューをさせていただきました。デリケートなテーマを扱う上で気をつけた点や、今後作品を作っていく上で大切にしたいことについて聞いてみました。
<PROFILE>
フィル・コンネル:監督、脚本
脚本家、監督、プロデューサー。2013年、ドラマ“RANA PLAZA(原題)”が、2021年アカデミー・ニコル・フェローシップの脚本部門セミファイナリストに選出される。アクションドラマ“HUBRIS+PARANOIA(原題)”では、2018年のBlueCat短編映画祭のセミファイナリストに選ばれた。本作『ジャンプ・ダーリン』で、長編映画デビューを飾り、40以上の映画祭で上映され、サンディエゴLGBTQ映画祭で新人監督賞ほか、多数の賞を受賞した。
手掛ける作品すべてに共通するものは、“意味の探求”
シャミ:
ラッセルにまつわるLGBTQというテーマと、祖母のマーガレットにまつわる老後の過ごし方というテーマが上手くマッチした物語でした。監督ご自身の経験も物語に反映されているそうですが、この2つのテーマを1つの物語として描いた最大の理由は何でしょうか?また、いろいろな問題がありながらもラッセルとマーガレットがそれぞれ一歩踏み出していく姿が印象に残りました。監督はこの2人の関係をどのように見せたいとお考えでしたか?
フィル・コンネル監督:
これは当時の状況から生み出されたものでした。祖母は私の人生において、とても重要な存在でした。私は祖母と一緒に過ごすのがとても楽しかったですし、祖母は私達兄弟の人生をずっと力強く支えてくれました。私はその素晴らしさを讃えたかったのだと思います。『ジャンプ、ダーリン』の執筆を始めた頃に、祖母は人生の終わりを迎えました。一方、私は映画監督として、アーティストとしての人生を選択する現実と格闘していたので、それらが物語のテーマとなりました。しかしながら、物語自体は自伝的なものではありません。
シャミ:
LGBTQや“エンド・オブ・ライフケア”といったデリケートなテーマが、とても良いバランスで描かれていました。2つのテーマをバランス良く描く上で監督が特に気をつけた点はどんな部分ですか?
フィル・コンネル監督:
ありがとうございます。すべての批評家が同意しているわけではありません。私はマーガレットとラッセルの関係に焦点を当てようとしました。2人の絆がこの映画の肝であり、接着剤でした。2人は全く異なる存在で、異なる世界に生きているため、それぞれの葛藤は別々に描かれていますが、お互いへの愛と支え合いが全体の中心に据えられているため、物語が上手く軌道に乗っているのだと思います。
シャミ:
監督ご自身おばあ様と“エンド・オブ・ライフケア”についてお話をされたことがあるそうですが、その際に特に印象に残った会話や、具体的に映画に反映した箇所があれば教えてください。
フィル・コンネル監督:
祖母との会話で印象に残っていることは2つあります。1つ目は映画には出てきませんが、「もし私がヨダレを垂らしてブツブツ言うような状態になったら、銃を持って裏に連れて行って私を撃って」と言ったことです。これには笑ってしまいましたが、「私は真面目よ!裏に連れて行って、私を撃って!」と続け、さらに笑いが起こりました。しかし、私は祖母の言いたいことを理解しました。自立した状態と尊厳を失うことを恐れていたのです。祖母にとってそれは本当に恐ろしいことだったのです。そしてそれがこの映画におけるマーガレットのセリフの多 くを形成しました。ラッセルと朝食を取りながら別れるシーンのセリフのいくつかは、私の祖母の言葉をそのまま引用したものです。「私はどうすればいいの?もう何もできない。何もプラスにできない。自分の好きなことも覚えていられない」という祖母の言葉を聞いて、とても打ちのめされました。
シャミ:
本作は海外のLGBTQ+映画祭で多数受賞、ノミネートされています。いろいろな国の方に本作をご覧いただき、意外だった感想はありますか?
フィル・コンネル監督:
この映画がこれほどまでに広く上映されたことに感激しています。また、配給パートナーがこの映画の旅を支え続けてくれていることに感謝しています。反応という点では、マーガレットとラッセルの絆が観客の心に響いたことをとても嬉しく思っています。私が驚いていることがあるとすれば、ラッセルの物語が、アーティストとしての人生を選択し、リスクを冒してもそれにコミットし続けるという、私にとっては葛藤の物語なのですが、アイデンティティに関する物語として大きく解釈されていることです。ドラァグが広く知られるようになった昨今、それは素晴らしいことですが、この映画がどう受け取られたかは、その影響を受けていると思います。私の意図は、リスキーな人生の選択の結果に悩む人々の物語を描くことであって、自分が何者であるかに悩む物語を描くことではありませんでした。でも、それらは繋がっていることなのだと理解しています
シャミ:
本作での長編映画デビューを経て、今後作品を作っていく上で大切にしたいことはありますか?
フィル・コンネル監督:
私は、ドラマと長編の両方で、スケール、題材がかなり大きいプロジェクトをいくつも準備しています。そのすべてに共通するものがあるとすれば、それはおそらく“意味の探求”だろうと思います。ですが、私が2本目の長編として絞り込んでいるプロジェクトは、エロティック・スリラーです。ストーリーは、多くの点で“Kissing Drew(原題)”に続くようなものになっています。欲望、虚栄心、復讐のトライアングルに巻き込まれた、元同級生で中年世代になった3人を扱っています。そのコアとなる部分は、思春期の体験がいつまでも残り続けること、そして私達がそれをどのように持ち続けるかについてです。
2023年12月取材 TEXT by Shamy
『ジャンプ、ダーリン』
2024年1月19日より全国公開
監督・脚本:フィル・コンネル
出演:トーマス・デュプレシ/クロリス・リーチマン リンダ・キャッシュ/ジェイン・イーストウッド/タイノミ・バンクス
配給:ライツキューブ
俳優から転身し、ドラァグクイーンの世界へ足を踏み入れたラッセルは、ある日、ボーイフレンドから「俳優業に戻って欲しい」と伝えられ、家を飛び出し、祖母マーガレットの家を訪れる。再会を喜びながらも、ラッセルは祖母の衰えに気がつき、しばらく生活を共にすることを決める。2人が一緒に過ごすなかで、それぞれ辿り着く道とは?
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