今回はゲイの高校生の葛藤を描いた映画『彼女が好きなものは』でメインキャラクターの1人を演じた前田旺志郎さんにインタビュー。本作のテーマについてや、子どもの頃に漫才師として活動した当時のこと、同じく俳優として活躍中のお兄さんについてなどお聞きしました。
<PROFILE>
前田旺志郎(まえだ おうしろう):高岡亮平 役
2000年12月7日生まれ。大阪府出身。子役としてデビューし、2007年、2歳年上の兄、前田航基と共にお笑いコンビ“まえだまえだ”として活動。2011年には兄弟で是枝裕和監督作『奇跡』の主演を果たした。2017年、映画『レミングスの夏』では主人公を演じ、2020年に出演したNHK連続テレビ小説『おちょやん』でさらに注目を集めた。その他の主な映画出演作には、『超高速!参勤交代』『海街diary』『疾風ロンド』『超・少年探偵団NEO Beginning』『キネマの神様』『うみべの女の子』などがあり、ドラマや舞台でも活躍中。
まずは一人ひとりが自分で考えてもらうという位置に来てもらうことが大切
マイソン:
この物語を観て、自分が理解しているつもりでいたものが全然わかっていなかったなと衝撃を受けました。前田さんは脚本を読んだ時にどんな印象を持たれましたか?
前田旺志郎さん:
元々僕が亮平をやるというのは知っていたのですが、難しいなというか、亮平の幼馴染みで仲の良かった純(神尾楓珠)がそういうことに悩んでいたというのを最初は全然知らなくて、それを知った後に亮平がどういう風に純と接していくのかというところは、読みながらすごく考えさせられました。シーンの中にもあったように、気にしていないと口で言うのは簡単でも無意識に何かしら言動として出てしまうことは僕個人として想像してもありうることだと思います。そこが1番の引っかかりであり、撮影が終わった今でも答えが出ていない、未だにすごく課題だなと思います。
マイソン:
亮平は他の人達と純を結び付ける上で要となるキャラクターでしたね。亮平とご自身で近いなと思う部分と全然違うなと思う部分はありましたか?
前田旺志郎さん:
亮平のほうが僕よりも繊細な部分があって、周りへの気遣いなど、どちらかというと表面に出る優しさがある子で、そういうところは僕との違いだと思います。ただ、周りを見ているという根本的なところに関しては、すごく似ている部分だと思います。
マイソン:
『うみべの女の子』でも明るいキャラクターを演じられていて、すごく自然だったので、前田さんご自身も普段カラッと元気な感じなのかなと思いながら本作も観てました。高校時代の前田さんのキャラに近いですか?
前田旺志郎さん:
高校の時は小野(三浦獠太)みたいな同級生がいなかったので、完全に僕のクラスにしていました(笑)。
マイソン:
ムードメーカーだったんですね(笑)!
前田旺志郎さん:
前田王国と言えるくらい、先頭をきって楽しんでました(笑)。
マイソン:
さすがです!!まだ高校生の役を演じられる機会がたくさんあると思うのですが、成人になった今思春期を振り返って、あの時はわからなかったけど、自分ってこうだったのかなとか、思春期の皆さんってこうなのかなって発見することはありますか?
前田旺志郎さん:
言葉で表すのはすごく難しくて、これは思春期に限らず常にかもしれませんが、振り返った時に中学生、高校生の時と今って見えている景色がすごく変わったなと思います。今も学生ですが、中学や高校時代って何も核心が見えていないというか、もやのかかった中で生きていたというか、狭い中で息をしていたというか、そういう感覚が今振り返ってみるとすごくあるなと思います。
マイソン:
それは、どんな作品でも共通して感じますか?
前田旺志郎さん:
そうですね。やっぱり学生ものをやる時のテーマや映画の起承転結の中で起こる問題というのは、皆がまだそれを知ろうしている段階だからこそ起こる問題であったり、事が大きくなるのも学校というすごく狭い社会の中にいるからこそ、その問題がすごく大きく見えていたりという感覚に陥ることはすごく多いかもしれないですね。
マイソン:
今多様性が受け入れられつつある風潮のなか、この映画をどんな風に受け止めて欲しいと思いますか?
前田旺志郎さん:
受け止め方は本当に人それぞれというか、やっぱりその感じ方やどう向き合うのかは未だに正解がないことだと思うので、まずはそれを一人ひとりが自分で考えてもらうという位置に来てもらうことが大切なのかなと思います。テレビなどで同性愛がトピックとして挙げられることがあっても、それを何となく流していたり、自分の周りにゲイの方がいなかったり、いたとしても気づけず勝手に傷付けているということもあると思います。この映画の中でも、直接的な言葉を吐いたり本人を傷付けようとしているわけではないけど偽善にあふれた人達が学校の中にたくさんいます。じゃあそれの何が良くないのかとか、例えばクラスで同性愛について話し合うシーンなど、映画の中のいろいろなシーンで違和感とか気持ち悪いと思う瞬間が僕は観ていてすごくあるなと思ったので、その違和感に少しでも多く気づいて自分はそうならないようにって考えてもらえたら良いなと思います。
マイソン:
ありがとうございます。では少し話題を変えて、デビュー当時についての質問です。幼い頃に漫才師として活動されて、当時はどんな感覚でしたか?
前田旺志郎さん:
“まえだまえだ”としての活動を始めた時は小学校1年生だったので、「大変だった?」「忙しかったでしょ」「難しいけどすごいよね」と聞かれることが多いんですけど、僕自身は本当に何も考えていませんでした(笑)。もちろん楽しかったですし、お笑いはすごく好きだったのでそれができることに対する喜びというのはあったんですけど、それが仕事だという認識なんてもちろん小学校1年生の時にはなかったです。
マイソン:
今の役者さんのお仕事と共通する部分はありますか?
前田旺志郎さん:
人前に立つこととかはあの時に得た経験がすごく活きているのかなというのと、あとはコミュニケーションですね。学校との往復だけでなく、小学校1年生にしてたくさんの社会人の中にいたということは事実なので、そこでいろいろな方とお話してきた経験は今も活きているのかなという気がします。
マイソン:
お兄さん(前田航基さん)も俳優として活躍されていますが、どんな存在ですか?
前田旺志郎さん:
どんな存在なんでしょうね。ただの兄ですけどね(笑)。
マイソン:
演技の話はされますか?
前田旺志郎さん:
そうですね。最近は会えば特に映画の話をすることが多いかもしれないですね。「あの映画観た?」みたいな。あとは、お互いの映像作品は基本観ないのですが、何となくそれぞれの舞台は観に行っていて、兄弟だからこそ「良かったよ」とかだけではなく、「ここはちょっと良くないんちゃう?」とか言ってくれますし、言いやすいという感じです。そういうのは助かります。
マイソン:
素敵ですね。では最後の質問で、俳優として気持ちが変化したターニングポイントってありましたか?
前田旺志郎さん:
高校受験の時です。僕は中学まで大阪にいたんですけど、高校から上京するか地元で高校受験をするかという選択肢がありました。当時、両親から「絶対に芸能をやれ」と言われたことはなくて、でもずっと小さい時からやっていたので辞めるきっかけもありませんでしたし、続けるという意志を持つきっかけもなかったんです。それまではずっと敷かれたレールの上にただ乗っていたという感じで深く考えたことがありませんでした。だからその時に決断を迫られて、両親は「好きなほうを選んで良いよ」と言ってくれたのですが、今まで考えたこともなかったしどうしようか悩みました。最終的に、お芝居が楽しいという感覚は当時からあったので、だったらとりあえず続けてみようと思って高校に上がる時に東京に出ることを自分で決めました。その時に1つの覚悟というか「お芝居を続けると決めて東京に来た以上ちゃんとやらないと」というか、そこで初めて俳優が仕事ということをちゃんと自分の中で認識しました。自分の中で「俳優をやっている」という風に思い始めたのはそこからです。
マイソン:
本日はありがとうございました!
2021年9月30日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『彼女が好きなものは』
2021年12月3日より全国公開
監督・脚本:草野翔吾
出演:神尾楓珠 山田杏奈 前田旺志郎 三浦獠太 池田朱那 渡辺大知 三浦透子
磯村勇斗 山口紗弥加 /今井 翼
配給:バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース
ゲイであることを隠している⾼校⽣の安藤純(神尾楓珠)は、ある日偶然クラスメイトの三浦紗枝(山田杏奈)がBL漫画を購入するところに遭遇する。BL好きを隠している紗枝は純にそのことを内緒にするよう頼み、そこから2人は急接近。紗枝は純を好きになり告白したことで、純も女性と交際し“ふつう”の人生を歩めるのではないかと期待するが…。
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
©2021「彼女が好きなものは」製作委員会
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