取材&インタビュー

『喝風太郎!!』市原隼人さんインタビュー

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『喝風太郎!!』市原隼人さんインタビュー

「サラリーマン金太郎」でお馴染み、本宮ひろ志の人気漫画「喝 風太郎!!」の映画化作品で主演を果たした市原隼人さんにインタビューをさせて頂きました。今回、僧侶の役ということもあり、深いお話をたくさんして頂きましたが、市原さんの俳優としての姿勢や熱い思いもひしひしと伝わってきました。

<PROFILE>
市原隼人(いちはら はやと): 喝風太郎(かつ ふうたろう)役
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。2001年に『リリイ・シュシュのすべて』で映画主演デビューを飾り、2008年にドラマ『ROOKIES』、2009年に映画『ROOKIES-卒業―』に出演し、人気を博す。ほか主なドラマ出演作に、『カラマーゾフの兄弟』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』、『リバース』などがある。主な映画出演作には、『偶然にも最悪な少年』『ボックス』『ホテルコパン』『無限の住人』『あいあい傘』ほか、2019年は『空母いぶき』『3人の信長』や、オムニバス映画『桜咲く頃に君と』と出演作が続々公開。さらに主演ドラマ『おいしい給食』は、10月よりテレビ神奈川、TOKYO MX、BS12トゥエルビほかにて順次放送。劇場版『おいしい給食』の制作も決定し、2020年春に全国公開される。また、近年はフォトグラファーや映像監督としても活躍中。

30代はもう一度改めて自分を見つめ直せる時

映画『喝風太郎!!』市原隼人

マイソン:
今回は原作があるので、元のキャラクターのイメージもありつつ、ご自身が作り上げていく部分もあったと思うんですが、特にこだわった点はありますか?

市原隼人さん:
まずは僧侶という役柄です。僧侶とは何なのか、仏法とは何なのか、1つ1つの行いや所作、言葉にどんな意味があるのかを考えました。やはりリアリティを求めたくなるのですが、役者っていうのは追いかけることしかできない切ないところがあって、僧侶というもののすべてを知るということはできないと思いました。すべての概念を外して無になってみないとわからない領域がある、ということを改めて深く感じさせて頂いて、そのなかでもしっかりと学んでから現場に入りました。

マイソン:
風貌が最初に出てきた時にすごくインパクトがあって、おもしろかったです(笑)。

市原隼人さん:
キャラクターがマスコットみたいな感じになっていますよね(笑)。

マイソン:
ここまで濃いと逆に楽しめる部分がたくさんあったんじゃないかと思いました。

市原隼人さん:
毎回楽しいです。ヒゲを付けて風太郎に扮装することによってスイッチが入っていました。

マイソン:
やっぱりスイッチが入るんですね。

映画『喝風太郎!!』市原隼人/鶴田真由

市原隼人さん:
はい。「喝 風太郎!!」は、サラリーマンなど社会のシステムの中で生きる人の思いとか、SNSに悩まされる人の思いとか、肉親に対する思いとか、それが本当に核心を突く作品なんです。もちろん肩の力を抜いて観られるエンタテインメントなんですけど、世の中は何で回っているのかっていうことを教科書のように教えて頂ける作品であって、その本質を見抜いていくと、おもしろいところが本当にあるんです。

マイソン:
キャラクター設定でも、良い人だと思っていたら…という人物もいたり、意外な展開がすごくおもしろかったです。

市原隼人さん:
人には、見せなければいけない姿と見せてはいけない姿があるんですけど、この作品には見せてはいけない姿も入っています。現代でも見せ方とか、表面的な部分に捕らわれることが多いと思います。

マイソン:
言われてみればそうだなっていうことを教えてくれるストーリーのようにも感じました。

市原隼人さん:
昔はあったかも知れないことが、今失われようとしていて、それを改めて思い出させてもらえると思うんです。なぜ寺というものがあって、なぜ今それが必要なのか、なぜ僧侶がいるのか。今の時代に何のために人間は生まれて、何をして、何をやるべきなのか。昔なら何かをするには大義名分があって、生まれながらに主君に仕えたり、こうやって生きていくっていうものが決まっていて、死ぬことによって、自分の存在意義をまた見出していくっていう、死に向かっていく時代がありました。今は死を迎える時代になっていて、そのなかで自分の居場所がわからなくなったり、ぶれてしまったり、多くの人がそう思うことがあると思うんです。何が良くて、何が悪いかっていう判断が本当に難しくて、ネット社会になって情報が増えたことによって、すごく便利になったこともありますが、僕にはそれが良いことか悪いことなのかわからないんです。風太郎の”喝”は正しい道に戻してくれて、僧侶とか寺は、本来の命の在り方、なぜ人間には命があって、何をすべきなのか、なぜ生まれたのか、死んでどうなるのかとか、そういう意味を見出してくれる場所でもあると思います。侍はいなくなったのに、寺や僧侶がずっと続いているというのは、そういう教えを繋げるためなのだと僕は感じています。

映画『喝風太郎!!』市原隼人/藤田富/工藤綾乃

マイソン:
この作品をやる前から、今お話頂いたようなことに興味があったんですか?今回でより興味がわいたのでしょうか?

市原隼人さん:
この作品をきっかけに、より興味がわいた部分がすごく大きいです。一つ一つ様々な概念を取り除いて、物事の本質を見抜いて捉えていくっていうのが、仏法の1つの教えでもあって、すごくシンプルで昔はできていたことができなくなっているっていうことが、今の世の中にもあると思うんです。人に声をかけづらくなったり、隣人の顔も知らなかったり、自分の意見を言うことがいけないことなんじゃないかと思って人とぶつかることを恐れたり…。生きているのは人間なのに、どんどんシステム化されて、人間の感情とか思いよりも先にシステムが先行して、なくなっていくものが多いと思います。そのなかで『喝風太郎!!』っていう作品と出会えて、映画化されるという意味は、何かここに頼っているものがあるのかなと。僕はそれがご縁だと思っています。

マイソン:
今お話を聞いていたら、風太郎さんとしゃべっているような感覚になりました(笑)。そんな深い話でもありながら、劇中ではすごく体を鍛えていらっしゃるのがわかるシーンもありました。普段から体作りはされているんでしょうか?

市原隼人さん:
最近は全くできていないのですが、2歳から器械体操、水泳、空手、ボクシングをやっていて、父も柔道と器械体操をやっていたので、体を動かすことがすごく好きなんです。ちょっとでも時間があったらジムに行ったり、サンドバッグを叩いたり、縄跳びを飛んだりしています。

マイソン:
じゃあ、運動をしていないほうが違和感があるというか。

映画『喝風太郎!!』市原隼人

市原隼人さん:
はい、やっていないほうがダメです。良いのか悪いのか(笑)。たくさん食べてたくさん動くっていう。

マイソン:
服を着られていてもわかるんですけど、劇中で上を脱いでいらっしゃるシーンがあって、すごくマッチョだなと思いました(笑)。

市原隼人さん:
いやいや、最近細くなったんです(笑)。

マイソン:
長年俳優をされていて、30代に入ってからのお仕事でご自身の中で変化や新鮮に感じることはありますか?

市原隼人さん:
全部新鮮です。今まで作ってきたものが全部壊れていくので、30代はもう一度自分を見つめ直せる時だなと思っています。現場の入り方、ものの見方、捉え方も10代20代とは全然違うんです。悩むということではありませんが、考えることが多くなって、新鮮です。

マイソン:
今までは考え留まっていなかったことに、今は気付くようになったということでしょうか?

市原隼人さん:
そういうこともあると思います。本当にいろいろと見えなかったものが見えてきたり、自分の善意が逆にブレーキをかけてしまうことになったり。自分が信じるものとか役者がすべてで、そのためだったら悪にもなれるような感覚が、俯瞰で見られるようになっているのかも知れません。逆に10代20代の時よりも、もっと何かを吸収したい、何か刺激を受けたい、何かに向かっていきたい、何かとぶつかりたいというバイタリティに溢れています。

映画『喝風太郎!!』市原隼人さんインタビュー
ヘアメイク:大森裕行(VANITES)
スタイリスト:小野和美(Post Foundation)
衣裳協力:wjk

マイソン:
じゃあ、30代に入ってますますおもしろくなってきたということですね?

市原隼人さん:
おもしろいです、本当に。昔は何でも言われる側じゃないですか。それがだんだん誰にも何も言われなくなることが増えると寂しくなります。時代のせいにしてはいけないんですけど、昔から僕は年関係なく、上の方にも何でも話す人間で、だからこそ切磋琢磨してその物事の本質を見出せていたと思います。

マイソン:
そうなんですね。では最後の質問で、今まで観た映画で人生を変えられた映画、もしくは1番好きな映画はありますか?

市原隼人さん:
『蒲田行進曲』です。1番最後に「これは映画です」ってネタばらしがあって、結局映画に魅せられていたんだって思ったのがすごく印象的で引き込まれた作品です。今でも映画は憧れですし、役者も憧れです。この時に、これだけ人の心を動かせて、こんな感情にしてくれて、映画って良いなと感じましたし、映画を観た時間がより大切に思えました。

マイソン:
今日はありがとうございました!

2019年9月24日取材 PHOTO & TEXT by Myson

映画『喝風太郎!!』市原隼人/藤田富/工藤綾乃/板野友美/鶴田真由/近藤芳正/麿赤兒

『喝風太郎!!』
2019年11月1日より全国順次公開
監督:柴田啓佑
出演:市原隼人/藤田富/工藤綾乃/二ノ宮隆太郎/木村知貴/藤代太一/吉岡そんれい/板野友美/鶴田真由/近藤芳正/麿赤兒
配給:SDP

長年の修行を経て、庶民の生活ぶりを見るべく、町へ出てきた僧侶の風太郎は、大の女好きだし、酒も大量に飲むわで、周囲を振り回してしまう。そんな世間知らずな風太郎をカモにしようと近づいた健司は、風太郎に取り入って金儲けを企むが、風太郎はお構いなしで、人々に生き方を説いていく。

公式サイト 映画批評&デート向き映画判定

© 本宮ひろ志/集英社 ©2019 株式会社浜友商事

関連記事

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『デューン 砂の惑星PART2』ゼンデイヤ ゼンデイヤ【ギャラリー/出演作一覧】

1996年9月1日生まれ。アメリカ出身。

映画『チネチッタで会いましょう』ナンニ・モレッティ/マチュー・アマルリック チネチッタで会いましょう【レビュー】

タイトルに入っている“チネチッタ”とは…

Netflixドラマ『さよならのつづき』有村架純/坂口健太郎 ポッドキャスト【だからワタシ達は映画が好き22】2024年11月後半「気になる映画とオススメ映画」

今回は、2024年11月後半に劇場公開される邦画、洋画、Netflixの最新ドラマについてしゃべっています。

映画『Back to Black エイミーのすべて』マリサ・アベラ Back to Black エイミーのすべて【レビュー】

類稀な才能を持つ歌姫エイミー・ワインハウスは、2011年7月、27歳の若さで逝去…

映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』川栄李奈さんインタビュー 『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』川栄李奈さんインタビュー

真面目な公務員と天才詐欺師チームが脱税王との一大バトルを繰り広げるクライムエンタテインメント『アン…

映画『ドリーム・シナリオ』ニコラス・ケイジ ドリーム・シナリオ【レビュー】

ニコラス・ケイジ主演、『ミッドサマー』のアリ・アスターとA24が製作、さらに監督と脚本は『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリと聞けば、観ないわけには…

映画『海の沈黙』菅野恵さんインタビュー 『海の沈黙』菅野恵さんインタビュー

今回は『海の沈黙』であざみ役を演じ、これまでも倉本聰作品に出演してきた菅野恵さんにお話を伺いました。本作で映画初出演を飾った感想や倉本聰作品の魅力について直撃!

映画『六人の嘘つきな大学生』浜辺美波/赤楚衛二/佐野勇斗/山下美月/倉悠貴/西垣匠 六人の嘘つきな大学生【レビュー】

大人になると、新卒の就活なんて、通過点に過ぎないし…

映画『トラップ』ジョシュ・ハートネット ジョシュ・ハートネット【ギャラリー/出演作一覧】

1978年7月21日生まれ。アメリカ、ミネソタ州出身。

映画『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』ブレイク・ライブリー ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US【レビュー】

「ふたりで終わらせる」というタイトルがすごく…

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『淪落の人』アンソニー・ウォン/クリセル・コンサンジ 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.2

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』ムロツヨシ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内40代編】個性部門

個性豊かな俳優が揃うなか、今回はどの俳優が上位にランクインしたのでしょうか?

映画『あまろっく』江口のりこ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内40代編】演技力部門

40代はベテラン揃いなので甲乙つけがたいなか、どんな結果になったのでしょうか。すでに発表済みの総合や雰囲気部門のランキングとぜひ比較しながらご覧ください。

REVIEW

  1. 映画『チネチッタで会いましょう』ナンニ・モレッティ/マチュー・アマルリック
  2. 映画『Back to Black エイミーのすべて』マリサ・アベラ
  3. 映画『ドリーム・シナリオ』ニコラス・ケイジ
  4. 映画『六人の嘘つきな大学生』浜辺美波/赤楚衛二/佐野勇斗/山下美月/倉悠貴/西垣匠
  5. 映画『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』ブレイク・ライブリー

PRESENT

  1. 映画『バグダッド・カフェ 4Kレストア』マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー
  2. 映画『型破りな教室』エウヘニオ・デルベス
  3. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP