現代版“神隠し”といわれ、人々の心を虜にしてきた都市伝説を基にした映画『きさらぎ駅』。今回は、本作で初主演を飾った恒松祐里さんにインタビューをさせていただきました。子役時代から活躍する恒松さんに、本作の裏話やお仕事との向き合い方の変化について聞いてみました。取材中は、可愛らしい笑顔で受け答えする姿もとても印象的でした。
<PROFILE>
恒松祐里(つねまつ ゆり)
1998年10月9日生まれ。東京都出身。2005年、ドラマ『瑠璃の島』で子役デビュー。以降、雑誌モデルやCMなどで活躍。2019年、映画『凪待ち』でおおさかシネマフェスティバル2020新人女優賞を受賞。その他の主な出演作にNHK大河ドラマ『真田丸』(2016)、映画『散歩する侵略者』(2017)、『虹色デイズ』(2018)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019)、『スパイの妻』(2020)、『タイトル拒絶』(2020)、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021)、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督 シーズン2』などがある。映画『きさらぎ駅』では、初主演を飾る。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
「気負わずにいつも通り撮影に臨んだらいいんだ」と思えて、フラットにお芝居ができました
記者A:
恒松さんは普段ホラー映画をご覧になりますか?
恒松祐里さん:
実はホラーは苦手で、この作品のお話をいただいた時も台本を読むまで「怖いのかな?」と、ドキドキしていました。でも、実際に台本を読んでみたら、ワクワクする手法や撮り方がたくさんあり、最後は「楽しかった!」となる内容だったので、この作品の主演で良かったと思いました。撮影中は、長回しで撮るシーンも多くて、カメラマンさんと俳優とできちんと動きを決めて撮りました。入念にリハーサルをしてから本番に入るので、普通の映画の撮影方法とは違い、舞台のように皆で協力しながら本番は完璧に動いていくという感じで、その過程もすごく楽しかったです。
記者A:
では、役作りはどのようにされたのでしょうか?
恒松祐里さん:
私の演じた春奈は、都市伝説がすごく好きな女子大生で、好きなものに好奇心があるがゆえに危険な目に遭ってしまうのですが、すごく行動力がある子だったので、しっかりしていて社交的な女の子にしようと思って役を作っていきました。あとは、春奈に近づけないといけないと思い、都市伝説サイトを観たり、ホラー映画を頑張って観ようとして断念したこともありました(笑)。そうやって春奈が好きなものを吸収しようとしていました。
シャミ:
本作が初主演ということでしたが、プレッシャーはありましたか?
恒松祐里さん:
最初は「どうやって現場に入ろう」と考えていましたが、実際に撮影に入ると、皆で作り上げていくという現場だったので、「気負わずにいつも通り撮影に臨んだらいいんだ」と思えて、フラットにお芝居ができました。
シャミ:
怖いシーンもたくさんあったと思いますが、現場の雰囲気はいかがでしたか?
恒松祐里さん:
すごく温かい雰囲気でした。23歳を迎える誕生日当日もこの作品の撮影だったのですが、その日は電車内での撮影で、その時にスタッフの皆さんから誕生日ケーキをいただきました。電車内で誕生日ケーキをもらうなんてなかなかない経験ですよね(笑)。そうやってスタッフの皆さん、俳優の皆さんにすごく良くしていただきました。
シャミ:
春奈の行動力にはかなり驚いたのですが、恒松さんだったら同じように行動できますか?
恒松祐里さん:
私はああいう怖そうな場所は、直感的に「行かないほうがいい」と、避ける傾向があるので、たぶん春奈のようには行動できないと思います。でも、もし怖いところに行ってしまったら、パニックになるよりも春奈みたいに冷静に対処できると思います。
シャミ:
たくましいですね!そういういざとなったら頑張るところは春奈に共感できましたか?
恒松祐里さん:
春奈ほど大胆な行動はできませんが、そういう場に居合わせた時の対応の仕方には共感できました。春奈はとことんやってしまうところがあるので、そこまではできませんが、人を引き連れて「行くよ!」となるところは似ているかもしれません。
シャミ:
先ほどホラーは苦手だというお話もありましたが、実際に完成した本作をご覧になっていかがでしたか?
恒松祐里さん:
すごく楽しめました。この作品はホラー映画を観ているというよりも、皆でテーマパークに行っているような感覚になれると思います。私のSNSのメッセージにファンの方々から「ホラー作品だから、怖くて観られないや」とか、「ごめん、ホラー映画は観に行けない」というコメントをいただいたのですが、試写を観た時に私みたいにホラーが苦手な人でもこの作品は絶対に楽しめる作品だと確信しました。監督も、「子どもが観ても楽しめるようなホラー映画を作りたい」とおっしゃっていて、制限がかからない範囲の描写を取り入れているそうです。それからこの作品は、“FPS”という1人称で撮影する手法が使われているのですが、試写で初めて観た時は、自分が本当にきさらぎ駅にいるような感覚になれたのですごいなと思いました。もちろん台本でも読んでいたので、わかっていたのですが、実際に映像で観るとその手法がこの作品にすごくマッチしていて、観ていてとても新鮮でおもしろかったです。なので、お客さんにもそれを感じてもらえると思いますし、その映像を基に春奈と一緒に真相を解明して欲しいと思います。
オーディションを受ける時は、絶対にやりたいという気持ちが決め手
シャミ:
春奈はとても探究心が強い女性でしたが、最近恒松さんが特に興味を持っている関心事などはありますか?
恒松祐里さん:
昔から物を作ることが好きで、最近はビーズアクセサリーだったり、あとはタフティングという絨毯やラグを作るワークショップにも興味があります。あと、実は私は泳げなくて、最近プールに行って練習をしているんです。その水着を入れるための可愛いビニールバッグを自分で作りたくて、ミシンでビニールを縫う練習をしようと思っています。今も昔も何かを自分で手作りすることに対する探究心はすごく強いと思います(笑)。
シャミ:
すごいですね!今までに何か作った物もありますか?
恒松祐里さん:
子どもの頃から羊毛フェルトがすごく好きで、何年か前の話ですが、ファンの方にオーダーしてもらったものを私が作って売らせてもらったこともあります。
シャミ:
それは喜ばれますね!あと、恒松さんご自身のことも伺わせてください。子どもの頃から俳優のお仕事をされていますが、最初からこのお仕事に興味があったのでしょうか?
恒松祐里さん:
最初に入った時は、6、7歳くらいの時で、両親がたまたまアミューズの子役部門のオーディションを見つけて、それに応募して受かったのがきっかけでした。入った時の記憶はほとんどなくて、いつの間にかお芝居のレッスンとかオーディションを受けていたという感じでした。
シャミ:
ではやっていくなかで、これはお仕事なんだなという意識が芽生えたのでしょうか?
恒松祐里さん:
そうですね、子どもの頃は仕事だとちゃんとわかっていたのか謎ですが(笑)、大人になるにつれて仕事にしたいという気持ちが芽生えて、もっとお芝居をしていきたいと思うようになりました。
シャミ:
子どもの頃からずっと続けてこられたということは、やはりお芝居が楽しかったということでしょうか?
恒松祐里さん:
本当にそうだと思います。さっき泳げないという話もしましたが、実は子どもの頃に水泳を習ったことがあったのですが、飛び込みの練習があって、それが嫌過ぎてお母さんに「プールは嫌いだから辞めさせてください」と手紙を書いて、泣きながら渡したことがあります(笑)。同じ事をお芝居ではやっていないということは、ずっと好きだったということだと思います。
シャミ:
なるほど〜。子どもの頃と大人になった今とで仕事に対する向き合い方は変わりましたか?
恒松祐里さん:
確実に変わっています。子どもの頃は本当に直感で基本的なこともよくわからないままやっていたので、ちゃんと仕事として見ていませんでした。でも、大人になって経験値が上がるにつれて、「こういうお芝居をしたらこういう状況になる」とか、自分をコントロールできるようになりました。また、お芝居にもドラマや映画、ジャンルでもコメディ、ホラーなど、いろいろとある中で「こういうお芝居をするとこういう効果が得られる」とか、技術的な面でどんどん成長してきた気がするので、子どもの頃に比べると今のほうがより繊細になった気がします。
シャミ:
今は映画業界自体が転換期にあるように感じますが、子どもの頃と比べて業界的に1番変わったなと思うことは何かありますか?
恒松祐里さん:
怒る大人がいなくなったことが1番変わったことかもしれません。やっぱり世界がだんだんと良い方向に変わってきていて、皆に優しくなってきている感覚があります。情熱をちゃんと作品に注ぎながら若手の指導もしていけるような環境がどんどん整ってきているのかなと思います。
シャミ:
近年は本作を含め、『タイトル、拒絶』『おかえりモネ』『全裸監督』など、いろいろなジャンルの作品に挑戦されていますが、出演作を決める基準や決め手などは何かありますか?
恒松祐里さん:
オーディションを受ける時は、絶対にやりたいという気持ちが決め手だと思っています。「この役は絶対に私のものだ!」と思いながらオーディションに行くと受かることが多くて、想いの強さとか、役や物語に対する愛の強さが受かる決め手なのかなと思います。
シャミ:
引き寄せの法則のようですね!
恒松祐里さん:
それは本当にあると思います。子役でオーディションを受けていた時から、「この役に受かりたい!」と思うと、絶対に受かっていました。
シャミ:
では、俳優というお仕事をしていて1番やり甲斐を感じるのはどんな時でしょうか?
恒松祐里さん:
ごくたまに奇跡的な瞬間に出会える時があるんです。すべての状況が整って、役者同士が魂と魂で会話できた瞬間とか、フィクションを撮っているのに本当にリアルになる瞬間がたまにあって、そういう瞬間に出会えた時は本当に衝撃が走るんです。その瞬間に会いたくてこの仕事を続けているところもあると思います。
シャミ:
最後の質問で、これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
恒松祐里さん:
いろいろなものから影響を受けているので1つに絞るのは難しいですが、やっぱり海外の作品は子どもの頃からのルーツにあります。ミュージカル映画や“アベンジャーズ”などのハリウッドエンタメ系とか、そういう世界観で私の脳みそが形成されていると思います(笑)。あと、子どもの頃から好きなのは『ヘアスプレー』というミュージカル作品で、そういうポップで人の心にも訴える明るい作品が好きです。
シャミ:
本日はありがとうございました。
2022年5月6日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『きさらぎ駅』
2022年6月3日より全国公開
監督:永江二朗
出演:恒松祐里/本田望結/莉子/寺坂頼我/木原瑠生/瀧七海/堰沢結衣/芹澤興人/佐藤江梨子
配給:イオンエンターテイメント、ナカチカ
大学で民俗学を学ぶ春奈は、ネットで現代版”神隠し”と話題になっている都市伝説「きさらぎ駅」を卒業論文の題材に取り上げることにした。リサーチをするなかで、純子という女性の存在を知り、彼女の話を聞くが、その内容は到底信じられるものではなかった。しかし、春奈はあるヒントに気づき、「きさらぎ駅」の舞台となった遠州鉄道の駅へと向かう…。
©2022「きさらぎ駅」製作委員会