それぞれに心に傷を抱えた真逆の性格の2人の男性が出会い、友情と愛情を育み、人として成長を遂げていく姿を描いた『リスタートはただいまのあとで』で、主人公の1人、狐塚光臣役を演じた古川雄輝さんにインタビューをさせて頂きました。海外で育ち、俳優として国内外で活躍する古川さんに、お国柄の違いやお仕事のスタンスなどいろいろとお聞きしました。
<PROFILE>
古川雄輝(ふるかわ ゆうき):狐塚光臣(こづか みつおみ)役
1987年12月18日生まれ。東京都出身。7歳の時に家族とカナダへ移住し、中学卒業後に、カナダからアメリカのニューヨークへ単身で渡る。帰国後、慶應義塾大学理工学部に入学し、2011年にシステムデザイン工学科を卒業。大学在籍中の2009年に、“ミスター慶應コンテスト”でグランプリに輝き、翌2010年には“キャンパスターH★50withメンズノンノ”にて審査員特別賞を受賞した。2011年、映画『高校デビュー』で映画デビューを飾り、2013年には、主演ドラマ『イタズラなKiss~Love in TOKYO』が日中を中心にアジア圏で配信され大ヒットを記録。その後、ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~』や、連続テレビ小説『べっぴんさん』、『ラブリラン』などに出演。2020年春に放送された『LINEの答えあわせ〜男と女の勘違い〜』では主演を務めた。その他にも映画『曇天に笑う』『となりの怪物くん』『屍人荘の殺人』などの大ヒット作に出演。舞台では、“イニシュマン島のビリー”“神の子どもたちはみな踊る after the quake”などで主演を務め、国内外から評価を得ている。特に中国での人気が高く、中国版Twitterとして知られるSNSサイト“Weibo”でのフォロワーは450万人を超える。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
日本と海外、ここが違う!
記者A:
心が温まる作品でした。最初にこのオファーが来た時の心境を教えてください。
古川雄輝さん:
男性同士のキスシーンは以前やったことがありましたが、BL作品は演じたことがなかったので、おもしろそうだなと思いました。でも実際に台本を読んでみたら、BLということよりも人が人を好きになる純愛ものだとわかり、元々同性愛の役でもないですし、都会で挫折した人間が人と出会うことによって徐々に成長していく模様、いろいろな愛の形があることを描く映画だとわかったので、すごくおもしろそうだなと思いました。あと、これは井上竜太監督の初監督作品なんですけど、普段はプロデューサーをされていて、デビュー当時からお世話になっていて、監督をやりたいというのはずっと聞いていたんです。なので主演のお話があった時はすごく楽しみで、ワクワクというか、良いものにしたいなという思いで作品に入りました。
マイソン:
東京から実家に戻ってきた光臣が、仕事とは何かを見直す部分がテーマにあったと思います。農家の手伝いをしていた光臣が「週休2日が良い」という台詞もありましたが、古川さんのお仕事観としてはどうでしょうか?
古川雄輝さん:
僕は仕事が好きなので、コロナの自粛期間はすごくストレスでした。常に仕事をして動いていたいタイプなので、自分のしたい仕事ができる人って幸福度が高いんじゃないかなと思います。嫌々仕事をやっていると、やる気も起きないと思いますし、だから自分の好きな仕事に就ける人って良い人生を送れるんじゃないかなと思います。
マイソン:
自粛期間は良い充電になった部分もあるでしょうか?何か自粛期間にやったことはありますか?
古川雄輝さん:
充電にはならなくて、早く働きたいという思いでした。でも、運転の練習をして、ペーパードライバーを脱しました。普段だと東京を運転するのは怖いけど、ポジティブな期間にしたいなと思って、ただ自粛をしているだけだともったいなくて。だから勉強もすごくしたんです。心理学の勉強をして自分をちょっと見直そうと、毎日お風呂に入った後はとにかく寝るまで勉強の時間にして、自分が興味のあったものとか、知らないものを勉強したりしていました。
マイソン:
すごい!充実しましたか?
古川雄輝さん:
働きたかったですね(笑)。
記者A:
大和を思う気持ちはどう考えていましたか?
古川雄輝さん:
やっぱり人としての魅力ですよね。人生で2人だけすごく影響を与えられた人がいて、こんな人いるんだみたいな。僕はコミュニケーションがコンプレックスなので、コミュニケーション能力が高い人にすごく惹かれるんです。人の懐に入るのが上手だったり、相手に好かれるトークができる人とか。そういう人に過去に2回出会ったことがあって、大和はそういう人だったんでしょうね。自分とは正反対で最初は嫌がるんだけど、気付いたら魅力的な人だなって、人として好きになってしまうという行程があるんだと思います。
記者A:
その魅力的だったお2人はどんな方だったんですか?
古川雄輝さん:
1人目は大学生の時に出会って、その方は例えば1回も授業を受けていないのに、最後の授業だけ来て教授の目の前に座って話を聞いて頷いて、教授に「君、すごくよく話を聞くね。飲みに行こうよ」って言われて、そのまま飲みに行って単位を取ったんですよ。
一同:
えー!!
古川雄輝さん:
すごいですよね。彼は知らない人相手に生活が苦しいって話をして仲良くなって、お米を送ってもらったり、とにかく人間力がすごくて。彼は岡山弁を喋っていたのですが、気付いたら周りが皆岡山弁で喋っていたり、それってミラーリングというらしいですが、とにかく人に与える影響がすごくて、トーク力もすごいんです。だけど、頭が良いにも関わらず、1年生の時に取るはずの授業を4年まで取らずにいて、4年で大学を退学になったり、めちゃくちゃな人で、そんな人いるんだみたいな。そういう人に魅力というか、自分が持っていないものを感じます。
マイソン:
アジアでも活躍されていますが、映画への反応などで、普段お国柄の違いを感じることはありますか?
古川雄輝さん:
そうですね、システムが違いますね。例えば本読みの時に、日本では主演はここ、監督はここ、2番手の人はここってきっちり席順が決まっているのですが、イギリスで舞台をやった時は、「座りたいところに座ってご飯を食べながらやろう」という感じでした。「ソファに座っても良いよ」「だって番手関係ないじゃん、皆で良いものを作るんだから」っていうスタンスなんですよ。日本では芝居以外の要素が多いんですが、その文化の違いをイギリスの舞台で主演だった方に言ったら、「そんなの別に関係ないじゃん。今は僕が主演だけど、次は君が主演かも知れないんだよ」って。あと、日本で舞台を観る時は、静かにするのがマナーですが、海外だと「ワオ!」と歓声が上がったり、拍手が起きたり、生の反応があります。新聞も日本では良いことしか書かれないけど、向こうは1つ星にして悪いことを書かれたりもするし、そういう表現の自由度が全然違って、日本でやるのとイギリスでやるのとでは全然楽しさが違います。これが中国だとまた色々違います。撮影中に普通に一般の方がすれ違うけど制作を止めないとか、結構大変です。運転しているシーンで野良犬が入ってきちゃうということもあります。でも中国の方はそれが「何でダメなの?」っていうスタンスなんですよね。日本人がきっちりし過ぎているだけで、こっちが普通だと思い込むのは失礼な話で、考え方が違うだけなので、そこは全然OKですよって合わせてやるしかないなと思います。
おもしろさより真剣さが上回って、常に戦闘モード
マイソン:
中学を卒業した後に単身でアメリカに移られたそうですが、きっかけは何だったんでしょうか?
古川雄輝さん:
日本への憧れがすごかったので、日本に行きたいという思いがあったんです。でも当時の僕は敬語も喋れないし、漢字も書けないくらいがっつり帰国子女になってしまっていて、そんななかニューヨークに日本人が行く学校があるよって聞いて、急遽受験して自分からすすんで行きました。
マイソン:
じゃあワンクッション入れて、アメリカ経由で日本へと考えられていたんですね。
古川雄輝さん:
そうですね。でも行ってみたら、すごく日本人らしい学校で、すごくカルチャーショックを受けて、大変だったんです。僕は9.11後に行ったんですけど、9.11前は倍率もすごく高くて簡単に入れなかったのが、9.11後に一気に倍率が下がって、元々帰国子女じゃないと入れない学校でしたが、日本から来た方も受け入れ始めたんです。ものすごく上下関係の厳しい学校になっていて、敬語を話せない帰国子女の僕はすぐに目を付けられてしまって(笑)、すごく大変でした。なので、そこで敬語とかに触れて日本ってこういう感じなんだってことを初めて学びました。
マイソン:
憧れていたけれど、大変な思いもして、日本に対してのイメージは変わりましたか?
古川雄輝さん:
難しいのは海外に行くと日本人扱い、アジア人扱いで、日本に行くと帰国子女扱いされるんですよね。どっちに行っても変な人扱いなのがものすごく大変だなと思いました。でも今思うと日本のほうが生きづらさは感じましたね。友達を作るのも苦手でしたし、コミュニケーション能力もなかったから、すごく大変で生きづらい感じでした。
マイソン:
さっきイギリスのお話もありましたが、欧米のほうが素のまま思ったことを話せるという感じでしょうか?
古川雄輝さん:
いや、日本には日本の良さがありますし、日本は大好きなんです。でも、海外にも海外の良さがあって、やっぱり自分の意見をちゃんと主張して良いという点が何よりも良いと思うんです。言い方が悪いかも知れませんが、日本はやっぱり本筋ではないところの労力が多いんですね。本来だったら作品のこと、役柄のことだけを考えてやりたいんだけど、それ以外のことにもものすごく気を遣って現場に入らないといけなくて、且つそれを器用にできないといけないので。それがすごく根強くなっているのが難しいなと思います。
マイソン:
表現をするっていうところでは、俳優さんってコミュニケーションにおいてすごく高度なことをするというか、誰かになりきって、現実とは違う世界に入ってコミュニケーションをとるわけですが、俳優さんになる時に、ハードルを感じませんでしたか?
古川雄輝さん:
元々学生時代にダンスをやっていて、それとすごく似ているんです。ダンスは意外と地味な人、普段自分を主張したくてもできない人、認められたいという思いがある人が入ってくることが多いんです。だからそういう人達がダンスを踊ると、普段は静かで地味なのにめちゃめちゃカッコ良いんです。本番だけ、その瞬間だけそうするみたいなところが芝居と似ていて、その良さに僕は最初「良いなこれ。これでお金がもらえるってすごいな」っていう魅力を感じました。とはいえ、奧が深いので、掘れば掘るほど、「いや、違う。これは厳しいんだ。こういうのがある大変な職業に就いてしまった」と思いました(笑)。いざやってみるとすごく大変でした。最初はわからないですからね(笑)。
マイソン:
でもハマっていったというか、難しいところがおもしろいみたいな感じになっていったのでしょうか?
古川雄輝さん:
おもしろいというよりはとにかく真剣ですね。現場に行ってただおもしろいと思えたら、それは余裕があるということですから、それは上手い人だと思います。僕はおもしろさよりまだ真剣さが上回るので、「よし、上手くいった。次はもっと上手くするぞ」って、常に気を張っている感じです。妥協もしたくないので、常に戦闘モードって感じですね。「イェーイ!」みたいな感じにはできないですね(笑)。
マイソン:
なるほど。じゃあ撮影中はかなり集中したいですよね?
古川雄輝さん:
だからジャッジを厳しくしてしまって、「そこで怒らなくて良いでしょ」みたいなところでこだわってしまいます。好きなこととか真剣に考えているとそうなってしまうんです。
マイソン:
良いものを作りたいからこそそうなりますよね。さっき影響を受けた方のお話が出てきましたが、今までで人生観とか価値観に影響を与えた映画はありますか?一観客として。
古川雄輝さん:
「好きな映画は何ですか?」って聞かれていつも答えるのは、『シンドラーのリスト』なんですけど、影響を受けたとは違いますね。僕は80年代の映画が大好きで、“インディ・ジョーンズ”“バック・トゥ・ザ・フューチャー”“ダイ・ハード”“ターミネーター”シリーズとかが子どもの頃大好きで、影響を受けていた定番です。もっと古い作品だとVHS時代に観た『大脱走』とか、子どもの頃に観ていた作品のほうが刺激的で印象に残っています。当時はネットとか携帯がなかったので、とにかくビデオを何回も観て、当時の映画は好きですね。あと、今だとやり尽くされた感があるけれど、当時は新しいからそれが定番であってベタですごくおもしろいんですよね。ドラマも昔のベタな作品が好きです。今再放送もしていますけど、『やまとなでしこ』は1番好きです。1つに絞れない、どうしよう(笑)。
マイソン:
ハハハハ、1作品に絞るのは難しいですよね。今出てきたものだとアクションが多かったですね。
古川雄輝さん:
男の子なので当時はそうでしたね。
マイソン:
最終的にアメリカのアクション映画に出たいとか?
古川雄輝さん:
アクション映画をやったことはありますけど、あんまり得意ではなかったです。でも海外の作品はやりたいなと思っています。いろいろやらせて頂いているなか、それは武器にしたほうが良いと思いますし、コンテンツが増えているなかで日本だけに縛られているのも時代的にどうなのかなと思っていて。チャンスがあれば、もちろんやりたいです。
マイソン:
楽しみにしています!ありがとうございました。
2020年7月14日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『リスタートはただいまのあとで』
2020年9月4日(金)より全国順次公開
監督:井上竜太
出演:古川雄輝 竜星涼
村川 絵梨 佐野岳/中島ひろ子 螢雪次朗 甲本雅裕
配給:キャンター
上司に人間性を否定されたのを機に会社を辞め、10年ぶりに地元に帰ってきた光臣は、明るく元気な大和に駅で出迎えられる。初対面にも関わらず馴れ馴れしい大和を最初はうっとうしく思っていた光臣だったが、一緒に過ごす時間が増えていく毎に彼の優しさと明るさに癒されていく。
©2020映画「リスタートはただいまのあとで」製作委員会