『四畳半タイムマシンブルース』の脚本や、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』日本語吹替版脚本を手掛ける上田誠率いる劇団ヨーロッパ企画のタイムループコメディ『リバー、流れないでよ』。今回は本作で主人公のミコト役を演じた藤谷理子さんにお話を伺いました。藤谷さんの地元でもある貴船での撮影についてや、本作と同じようにもし2分間ループしてしまったらどうするか直撃しました。
<PROFILE>
藤谷理子(ふじたに りこ):ミコト 役
1995年8月6日生まれ。京都府出身。幼少期にバレエを学び、英国ロイヤルバレエなどに短期留学。2016年、ヨーロッパ企画による“来てけつかるべき新世界”に出演し、2021年にヨーロッパ企画に入団。近年の主な舞台出演作に、“たぶんこれ銀河鉄道の夜”“もはやしずか”“M.バタフライ”、こまつ座“日本人のへそ”などがある。ドラマでは、『ももさんと7人のパパゲーノ』『カンパニー 〜逆転のスワン〜』などがあり、『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』では声の出演をしている。
今ヨーロッパ企画に入っていることはすごく幸せなことだと思います
シャミ:
本作は、2分間のループから抜け出せなくなった人々の混乱を描いた群像劇でした。たった2分でこんなにいろいろなことができるのかと驚いたのですが、藤谷さんが最初に脚本を読んだ時はどんな印象を受けましたか?
藤谷理子さん:
この作品はヨーロッパ企画の時間映画の第2弾で、最初に2分のループものだと聞いていました。第1弾の『ドロステのはてで僕ら』も2分という縛りがありましたが、その時は2分前or2分後の自分と話せるという少し複雑な設定でした。今回は、ひたすら2分を繰り返す設定だったので、本当にずっと同じことを繰り返すのかなと心配になりました(笑)。おっしゃっていただいたように、同じ場所なのに2分間で物語が展開していくので、すごくストイックだけど、おもしろい映画になりそうだなと思いました。
シャミ:
最初からワクワクされていたんですね。
藤谷理子さん:
ワクワクしました。私は普段台本を読むことがあまり得意ではなく、台本をもらって読み進めていくのがすごく遅くて、じっくり読まないと理解できないタイプなんです。でも、この作品は読み物としてもおもしろくて一瞬で読めました。
シャミ:
本編を観ていても続きが気になって、あっという間に感じました。
藤谷理子さん:
ありがとうございます!
シャミ:
実際に京都、貴船の老舗料理旅館“ふじや”で撮影されたそうですが、初めて撮影現場に行った時の印象はいかがでしたか?
藤谷理子さん:
私は貴船が地元で、小さい頃からずっと過ごしていた場所なんです。なので、知っているところに撮影機材があったり、仕事仲間がいることがとても不思議でした。
シャミ:
地元として見ていた貴船で撮影をして、今回新たに発見した貴船の良さはありますか?
藤谷理子さん:
撮影中に雪がすごく降って撮影が中止になった時は貴船を嫌いになりかけました(笑)。でも、いざ撮影をして映像として観ると、こんなに綺麗な場所だったんだという発見がありました。小さい頃は観光客の方とかに「空気が美味しいね」「綺麗なところですね」と言われても、本当にそうかなと思っていたのですが、いざ映像として観ると、私はこんなに美しい場所で育ったんだなと思いました。
シャミ:
今、雪のお話もありましたが、劇中で2分間戻ると天候が変わっていることにも驚きました。今年の1月から3月に撮影をされたそうですが、撮影は順撮りではなくバラバラに撮影されたということでしょうか?
藤谷理子さん:
そうです。スケジュールの関係で短い期間で撮り終えなければならず、さらに日照時間も短い時期で、効率を考えると順撮りは難しく、監督とスタッフチームが相談して撮影スケジュールを組んでくださいました。
シャミ:
なるほど〜。最初は雪が少し積もっている程度だったのに、どんどん積もっていましたよね。その状況下で走る場面もありましたが、転んだり怪我などは大丈夫でしたか?
藤谷理子さん:
転びませんでしたが、ツルッと滑ることはたくさんありました。一緒に走っていたタク役の鳥越裕貴さんの体幹が良かったので、何とかなった気がします。でも実は監督が1番転んでいて、雪が降っていない初日から転んでいました(笑)。
一同:
ハハハハハ(笑)!
シャミ:
怪我がなかったのなら良かったです。旅館の別館から本館のほうへ行ったり、たくさん階段を上るシーンが何度もありましたが、実際はさらに何度も上っているということですよね?
藤谷理子さん:
そうです。本番の1回で決まることはほとんどなく、テストも綿密に行っていたので、20回近く撮ったシーンもありました。1番しんどかったのが、神社に向かって走るシーンで、何回も撮りました。途中で一度脚を休めるために休憩をとったりしていました。でも、日が沈んでしまうので、撮らなければならず、カットを重ねるたびに確実に体力は奪われていきました(苦笑)。
シャミ:
かなり体力勝負ですね。
藤谷理子さん:
はい。2分を1カットで撮影していたので、5秒オーバーしただけでも撮り直しになってしまうんです。なので、誰かがセリフを間違えるとかよりも時間との勝負で、本当にループしていました(笑)。
シャミ:
無事にループから抜け出せて良かったですね!では、ミコトとご自身とで似ているところや特に共感できたところはどんな点でしょうか?
藤谷理子さん:
上田誠さん作品の“あるある”でもありますが、ミコトは状況を受け入れるのがすごく早いんです。最初は戸惑っているのに、自分より驚いている人や、困っている人がいると、ヘラヘラとしながらわりと状況をすんなりと受け入れていくんです。私自身、物事を深刻に受け止めるタイプではないので、そういうところは少し似ていると思います。
シャミ:
もし藤谷さんご自身が2分間ループしてしまったら、どうすると思いますか?
藤谷理子さん:
まず確実に上田さんに電話をします。2分で話せることを話して、「上田さん、私は今タイムループをしています。どうしたら良いですか?」と相談して、抜け出す段取りをすると思います。私1人だったら慌ててしまって、とりあえず行けるところまで走るとか、そういうことをする気がします。
シャミ:
今上田さんのお話もありましたが、上田さんはこれまでも『サマータイムマシン・ブルース』(脚本)など、時空関係の物語を作られていますが、普段はどんな方なのでしょうか?
藤谷理子さん:
上田さんはすごく穏やかな方です。映画の撮影現場でも舞台の稽古場でも本当に穏やかで、怒ったところは見たことがありません。周りの空気を読んでくださり、常に皆を笑わせようとしてくれます。人としてすごく尊敬しています。
シャミ:
タイムループものを作っていらっしゃるということで、藤谷さんから見て、上田さんの頭の中はどうなっていると思いますか?
藤谷理子さん:
覗いてみたいですよね!上田さんは台本やプロットを説明する時に図解を書いてくださるんです。例えば棒人間を書いて、吹き出しで「ループしている…?」とセリフを書いたり、時間の軸や世界線がズレていくという図を書いてくださいます。上田さんは理系なので、頭の中がコンピュータのようになっているんだと思います。
シャミ:
そのお話を聞くと、物語からも理系の緻密さを感じますね。藤谷さんは普段舞台でも活躍されており、舞台と映画とでは表現方法が異なると思うのですが、どんな風に演じ分けているのでしょうか?
藤谷理子さん:
今回は監督から「映像作品なので、舞台とは違うお芝居を意識してみてください」と言われていたので、自分でもその違いについて考えました。舞台の場合は、目の前にお客さんがいるので、最後列のお客さんに観てもらっていることを前提に、いわゆる大きいお芝居をしないといけない場面もあります。でも、映画の場合はカメラが切り取ってくれるので、目の前のことに集中していたら良いんだと思いました。舞台は目の前のことプラスお客さんのこと、先のことを考えないといけませんが、映画の場合は目の前に起きることに対してもっと繊細にリアクションをする必要があると感じました。その解釈が合っているかわかりませんが、そういうことに注意をして、今回は今起きていることに集中して臨みました。
シャミ:
少し作品の話から離れますが、藤谷さんご自身のお話も聞かせてください。幼少期よりバレエを学び、英国ロイヤルバレエなどに短期留学された経験もお持ちのようですが、俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか?
藤谷理子さん:
私は中学3年生くらいまではバレリーナになりたいと思っていました。でも、反抗期や、留学したことによる挫折もあり、若かったので頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって、逃げ出したいと思った時期がありました。でも舞台に立つことは好きだったので、お芝居はどうだろうと思った時に、父が「京都で演劇を観るならヨーロッパ企画なんじゃない?」と言って、劇のチケットを家族全員分取ってくれました。そこでヨーロッパ企画の劇を観て、こんなにおもしろい世界があるんだと感じました。私もバレエをやっていて舞台に立っていたので、全然種類は違うのですが、根本的には同じなのかもと。私にももしかしたらできることがあるかもしれないと思ったことがきっかけでした。そのご縁もあり、今ヨーロッパ企画に入っていることはすごく幸せなことだと思います。
シャミ:
2016年にヨーロッパ企画の『来てけつかるべき新世界』に出演され、その後2021年にヨーロッパ企画に入団されていますが、劇団に入る前と後とで何か印象の変化はありましたか?
藤谷理子さん:
上田さん達は少しがっかりしますが、本当に印象の変化はないんです(笑)。私は初舞台がヨーロッパ企画の舞台で、高校生くらいの頃から面倒をみていただいていたので、勝手にヨーロッパ企画をホームのように思っていました。その後付かず離れずの時期もありましたが、やっとこの方達の一員になれたという嬉しさがありました。良い意味で先輩方も何も変わらず接してくださったので、劇団に対して何か印象が変わったということはありません。でも、私の気持ちとしてはすごく嬉しいし、これからどこに行くにも「ヨーロッパ企画の藤谷理子」と劇団の名前がくっついてくるので、きちんとしなくてはとより思うようになりました。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
藤谷理子さん:
悩みますが、最初の劇体験をさせてくれた諏訪雅さんです。私の初舞台の映像を観ると本当に声が小さいんですよ。でも諏訪さんはその小さい声を利用して、劇団で1番声の大きい石田剛太さんを相手役にしてくださり、石田さんに小さい声でお芝居をさせることで沸かせるというすごく素敵な演出を付けてくださいました。そういう魔法のようなことをしてくださり、演劇の可能性を最初に見せてくださったのが諏訪さんです。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2023年6月6日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『リバー、流れないでよ』
2023年6月23日より全国順次公開
原案・脚本:上田誠
監督・編集:山口淳太
出演:藤谷理子/永野宗典/角田貴志/酒井善史/諏訪雅/石田剛太/中川晴樹/土佐和成/鳥越裕貴/早織/久保史緒里(乃木坂46)<友情出演>/本上まなみ/近藤芳正
配給:トリウッド
舞台は、京都の貴船にある老舗料理旅館。仲居のミコトは、貴船川のほとりに佇んでいたが、やがて仕事に戻る。しかし、その2分後、なぜか再び先ほどと同じように貴船川の前にいた。ミコトだけではなく、番頭や仲居、料理人、宿泊客達は皆異変を感じ始めた。そして、自分達が2分間ループしていることに気づき…。