母を亡くし、1人で生きる12歳の少女と、突然現れた父親の愛おしい共同生活が描かれた映画『SCRAPPER/スクラッパー』。今回は本作を手掛けたシャーロット・リーガン監督にお話を伺いました。
<PROFILE>
シャーロット・リーガン:監督・脚本
1994年6月19日生まれ、イギリス出身。10代の頃からミュージックビデオの監督として活躍。これまでに撮影したMVは合計100本以上。また同時期、パパラッチカメラマンとしても活動していた異色の経歴を持つ。初の短編映画『Standby』(16)はトロント国際映画祭でプレミア上映。2作目の短編『Fry-Up』(17)は、ロンドン映画祭、サンダンス映画祭、ベルリン映画祭で上映された。3作目の『Dodgy Dave』(18)はトロントとロンドン映画祭で上映された。マイケル・ファスベンダーの製作会社DMCフィルムに才能を見出され、本作を制作する。
子どもの目から見た喜びや楽しさに焦点を当てて描きたいと思いました
シャミ:
本作は、母を亡くして1人で生きる12歳の少女と、突然現れた父親の物語となっていました。物語のアイデアは監督ご自身の体験から生まれたそうですが、映画にする上で気をつけた点や特に意識された点はありますか?
シャーロット・リーガン監督:
この映画ではワーキングクラスの真実を見せたいと思っていました。また、私自身と父親や、友人と父親の親子関係などを通して、父親との複雑な距離感を描きたいと思いました。ジョージー(ローラ・キャンベル)の父であるジェイソン(ハリス・ディキンソン)は、子どもを作ろうと思って作ったわけではなかったので、まだ大人になりきれていない青春時代の男の子のような人物なんです。反対にジョージーは自分のことをよくわかっていて、子ども時代を過ごすことも楽しんでいるキャラクターなので、そういう部分をきちんと描きたいと考えました。
シャミ:
ジョージーは子どもだけど大人びていて、ジェイソンは大人だけど子どもっぽいところがあるという点はとても印象的でした。
シャーロット・リーガン監督:
私達はジョージーを子どもの体をしたおばあちゃんのように考えていました。ジョージーは私達大人よりも自分のことをすごくよくわかっている子どもなのですが、それと同時にスマホの世界を信じていたりと、子どもらしい部分もあります。私はワーキングクラスをテーマにしたドキュメンタリーを作ったことがありますが、大人と子どものバランスというものが非常に興味深いと感じていました。
それから、この状況をどうしたら良いのかわからない父親のジェイソン役を誰に演じてもらうか非常に迷いました。ジェイソンのキャラクターについては、どのくらい変わり者で、どのくらいジョージーの気持ちを理解しようとしているのか、そのバランスを考えることがすごく大変でした。ジェイソンを演じてくれたハリスは、撮影中も編集中もそのバランスについて一緒に考えてくれました。ジェイソンは、自分自身をなかなか見つけられずにいて、そういう点も含めてジェイソンのキャラクターを考えることが1番難しかったです。
シャミ:
ハリスさんは編集にも参加されていたんですね!では、ジョージーを演じたローラ・キャンベルさんについて、監督が特に演出された部分や話し合いをされたことは何かありますか?
シャーロット・リーガン監督:
ローラの場合は子どもなので、あまり台本を気にせず直感的に演技をしてもらうことが重要だと思いました。例えば怒るシーンがあれば、大人の場合は台本があり背景がこうと説明しますが、子どもの場合はそうではなく、もっと直感的に演じてもらうようにしていました。ローラは非常に賢い子で、ジョージーが何を経験しているのかをちゃんと理解していたので、とてもスムーズに演じてくれました。彼女はアドリブも上手いので、私の思う型にはまらず自然に演じてくれたのが良かったです。
シャミ:
本当に初演技とは思えないくらい自然な演技でした。
シャーロット・リーガン監督:
私が今まで出会った中で最高の俳優の1人だと思います。彼女は、この映画を撮り終えた後も演技を続けていて、今はテレビ番組『イーストエンダーズ』に出演しています。そうやって演技をおもしろいと感じて続けてくれて本当に良かったです。
シャミ:
映画の資料によると、ローラさんに役が決まった後にご本人がやりたくなくなってしまい、監督が会いにいったというエピソードもあったので、こうやって最終的に演技を続けてくれたという状況はとても嬉しいですね。
シャーロット・リーガン監督:
夏休み中にこんなのやりたくないと言っていました(笑)。彼女自身本当に大人びていて、朝食を食べることにさえ怒っている時があり、とてもおもしろい子なんです。
シャミ:
ローラさんとジョージーは似ている点が多いのでしょうか?
シャーロット・リーガン監督:
ユーモアのセンスは似ていると思います。あといつも少し機嫌が悪いところも似ています(笑)。ただローラはスポーツ嫌いですが、ジョージーはスポーツ好きなトムボーイみたいなキャラクターなので、その部分は違います。おもしろいシーンはローラと一緒に作ったシーンもあり、どちらかというとローラにジョージーを乗せた部分があります。というのも私は子ども達には自分らしく、安全に自由に演技ができると思ってもらえる環境を作りたいと思っていたので、役柄に入るというより自分自身を役として表現してもらうようにしていました。
シャミ:
本作は、社会福祉のテーマも盛り込まれた作品でした。現実でもジョージーのような生活を送る子どもがいるのではないかと感じました。こういった社会的なテーマと物語のバランスはどのように取っていったのでしょうか?
シャーロット・リーガン監督:
私はジョージーの視点を大切にしてこの映画を作りました。もちろん社会的な問題もテーマとしてあるのですが、それよりも子どもの目から見た喜びや楽しさに焦点を当てて描きたいと思いました。『パリ、テキサス』などの映画では、客観的な状況が描かれていると思いますが、私の場合は社会問題を全面的に押し出すのではなく、12歳のジョージーとしての喜びに徹し、そこから外れないように作りました。それから観客の方にこの映画を観た後にハッピーな気持ちになって欲しいと思いました。私自身子どもの頃から笑って楽しくて感動できる映画が好きだったので、そういう映画を作りたいと考えていました。
シャミ:
本作は、マイケル・ファスベンダーさんの制作会社DMCフィルムと組んで制作されていますが、どんなきっかけで一緒にお仕事をすることになったのでしょうか?
シャーロット・リーガン監督:
プロデューサーのテオ・バロウクラフがDMCにいたことがきっかけでした。テオは私の世界一の親友で、若い頃からショートフィルムをずっと一緒に作ってきました。なので、DMCにテオがいたことで私に自由に映画を作らせてくれました。1本目の作品というのは、いろいろな方の影響を受けたり、意見を聞いたりして、それがあり過ぎると困る部分もあると思うんです。特に1本目の映画は多くの方の意見が入ったことによりよくわからない作品になってしまうこともありますが、今回はそういうことはなく、本当に自由にやらせていただいたので、1本目としてはすごく良い映画になったのではないかと思います。
シャミ:
なるほど〜。では、今後映画作品として取り組みたいテーマはありますか?
シャーロット・リーガン監督:
どんな映画を作りたいかは毎日コロコロと変わるのですが、ワーキングクラスが私の映画の中心にあるので、若い俳優や子役の方、そして初めて映画に出るような方とお仕事ができたら良いなと思います。
実は次の映画は2つ控えていて、それぞれエイリアンの話と復讐とロマンスの話なのですが、どんな作品にしようかいろいろと考えているところです。それからテーマとして変わらないのは、私の犬が映画に出るということです。今回の『SCRAPPER/スクラッパー』にも出ているんですよ。これから作る映画にも私の犬を出したいと思っています。
シャミ:
監督のわんちゃんも出演されていたんですね!今後も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
2024年6月10日取材 TEXT by Shamy
『SCRAPPER/スクラッパー』
2024年7月5日より全国公開
PG-12
監督・脚本:シャーロット・リーガン
出演:ローラ・キャンベル/ハリス・ディキンソン
配給:ブロードメディア
母を亡くした12歳のジョージーは、大人顔負けの話術と図太さで近隣住人やソーシャルワーカーの介入や詮索をかわし、日銭を稼ぎながらアパートで独り暮らしをしていた。そんな彼女のもとにある日突然、父だと名乗るジェイソンが現れる。信頼関係ゼロの2人が見つけたものとは…。
© Scrapper Films Limited, British Broadcasting Corporation and the The British Film Institute 2022
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情報は2024年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。