まっすぐでひたむきな主人公が、不器用ながらも周囲の人々を巻き込み、マスカット農家の存続に挑む物語『しあわせのマスカット』で、主演を務めた福本莉子さんにインタビューをさせていただきました。いろいろなお話に、福本さんの研究熱心な一面と強いチャレンジ精神がうかがえました。
<PROFILE>
福本莉子(ふくもと りこ):相馬春奈 役
2000年11月25日生まれ。大阪府出身。2016年、第8回東宝シンデレラオーディションでグランプリ&集英社賞(セブンティーン賞)を受賞。主なドラマ出演作に『CHEAT チート 〜詐欺師の皆さん、ご注意ください〜』(2019)、『パパがも一度恋をした』(2020)などがあり、『歴史迷宮からの脱出 ~リアル脱出ゲーム×テレビ東京~』(2021)では主演を務めた。主な映画出演作には『のみとり侍』(2018)、『センセイ君主』(2018)、『屍人荘の殺人』(2019)、『映像研には手を出すな!』(2020)、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)などがある。2021年公開の『しあわせのマスカット』では主演を飾る。
夢がなくても、そのことで無理に悩まなくても良い
マイソン:
今回は岡山県でずっとロケをされていたんですか?
福本莉子さん:
1日だけ東京のスタジオで撮影をして、それ以外は全部岡山で撮影で、2週間いろいろなところに行きました。ほとんど最後のほうはビニールハウスと吉兆庵さんの本社で撮影をしていて、あとは、百貨店の吉兆庵さんの販売フロアと工場でも撮影をしました。
マイソン:
今回マスカットにまつわる映画となっていますが、他にも印象に残った美味しかったものを教えてください。
福本莉子さん:
最終日にプロデューサーさんや演者さん達と地元のいろいろな料理があるお店に行きました。全然岡山に関係ありませんが(笑)、海鮮も美味しかったし、卵焼きが異様に美味しかったです。そのお店の卵サンドが名物だそうで、それがすごく美味しくて、岡山に行ったらまた食べたいなと思います。マスカットもすごく美味しくて、ビニールハウスで撮影をしていた時に農家さんがたまに差し入れてしてくださったんです。まず形が綺麗で、1粒1粒が大きくて、さすがマスカット・オブ・アレキサンドリアだなって。マスカットの女王のような存在で、百貨店で見ると高級でなかなか食べられませんが、自分へのご褒美とか、家族に贈るとか、贈り物としても良いなって思います。
マイソン:
映画の最初のほう、百貨店内のシーンで出てきたマスカットの箱に書いてある金額を見て、1粒いくらなんだろうって考えちゃいました(笑)。
福本莉子さん:
すごいですよね。あの形にするってそれほど大変なんだなって。間引きとか、そういう詳しい作業を私は知らなかったので、映画を通して農家の方達って本当にすごいなって思いました。
マイソン:
ところで福本さんは20歳になられたばかりですよね(取材:2021年11月27日時点)?
福本莉子さん:
はい。2日前(11月25日)でした。
マイソン:
おめでとうございます!
福本莉子さん:
ありがとうございます。生まれたてホヤホヤの20歳です(笑)。
マイソン:
ほんとホヤホヤですね(笑)。劇中で主人公は就職面接を受けていて、福本さんと同じ20歳頃ですと進路を考えたり、就職活動を始める時期でもありますよね。もし進路に迷っているお友達とか同世代の方がいたら、どんなことを助言されますか?
福本莉子さん:
私自身もこの世界に入る前も入った後も、高校生の時はずっと親友と学校帰りにご飯を食べながら「将来どうなるんだろうね?」って話していました。「大学の入試もどんどん難しくなっていて、入れるかわからないし。かといって大学に入っても就職ができるかわからないし」とか、「本当にどうする?本当大変だよね」って、そういう話をずっとしていました(笑)。口を開いたらその話っていうくらいしていた時期もありました。高校を卒業して、皆それぞれの道を歩き出して、でもやっぱり夢がある人って少ないんじゃないかなって。私自身も高校生の時に夢とかなかったんですけど、そのことで無理に悩まなくても良いんじゃないかって思います。その時にやりたいことをやれたら幸せだし、ある時友達に「人生、楽しんだもん勝ちだから」って言われて、そうだよねって思いました。自分の人生だし、人生一度きりだし。SNSでいつでもどこでもいろいろな情報に触れられて、他の人の目が気になる厳しい時代ですけど、人に迷惑をかけないことなら、楽しかったらそれで良いんじゃないかなと思います。
マイソン:
今すぐ無理矢理見つけなきゃっていうのじゃなくて、とりあえずいろいろやってみて。
福本莉子さん:
気になるものをやれば良いと思いますし、他の人に言われるよりも自分のしたいことをできるんだったらして、それでその人が幸せだったら良いなって思います。
マイソン:
福本さんが東宝シンデレラオーディションを受けたのは、何がきっかけだったんですか?
福本莉子さん:
友達の推薦で、「こういうオーディションがあるけど受けてみたら」って言われたんです。その時も今後のことを悩んでいて、人生一度きりだしなって。音楽が好きなのでその時は音楽関係の仕事が良いなとか、本当に漠然としていて、でも1歩踏み出せないみたいな時に、上手くタイミングが合って受けることにしました。
マイソン:
絶妙なタイミングだったんですね!
福本莉子さん:
本当に人生いろいろあるなって。まだ20年しか生きていないのに(笑)。「19歳なんてまだ若い若い」とか言われるのも嫌で、そんなに変わらないでしょって思っていたんですけど、20歳になって突然出来ることが増えたりして、19歳は子どもだったんだなって、この3日で思いました(笑)。いろいろ思う年頃だなと我ながら感じます(笑)。
マイソン:
でも、19と20歳の差は気持ち的には大きいですよね(笑)。先ほど「気になることを楽しんでみたら良い」というお話もありましたが、俳優の仕事を続けていけると思ったきっかけはありましたか?
福本莉子さん:
私はオーディションで初めてお芝居をしたんです。その時は5人グループでお芝居をしたのですが、本当に難しいなという印象で、普段こうやって喋るのは簡単なのに、いざ本番がスタートすると途端に棒人間になってしまうのって何でなんだろうって。物を取るだけの動きにも意外と気持ちが一つひとつ表れていて、そういうことを意識していなかったので、一つひとつの動きに意味があるんだなって発見があって、すごくおもしろいなと思いました。どの役も毎回自分にとって壁があって、今回の役だと春奈は太陽のように明るく元気な性格で、昔の自分にはあったであろうことなんですけど、今の自分は忘れかけているところでもあったんです。そんな風に、役によって自分の中にあるはずの引き出しを探してお芝居をして、自分の新たな一面を見つけられることは楽しいなと思います。今回この役を通じていろいろなことを経験させていただいて、普段生きているだけだと体験できないことが体験できるって毎回楽しいです。それが自分の引き出しになって、また次に繋がるし、絶対に見てくれている人がいるんだなって感じる瞬間が最近増えてきて、そういうのを感じるとお仕事を頑張ろうって思えますし、そういうのが目に見えてくると一層頑張ろうってなります。
マイソン:
難しさも含めておもしろいという感じですかね。
福本莉子さん:
そうですね。最近エッセイにハマっていて、石田ゆり子さんのエッセイを読ませていただいたのですが、言葉や感性が素敵なんです。そういうのって豊かじゃないとダメだなと思って、最近日記を始めました。忙しいとあまり周りが見えなくなりますが、日記を書くぞって思ったら、今日は星が出てるなとか、本当に些細なことですが、小さい発見ができるかなと思ったんです。あと、2、3日前のことでも意外と忘れちゃいますけど、「今日はいろいろ動いたな」「疲れたな」「めっちゃ楽しかった」っていうのを忘れちゃうのが寂しくて、そういう気持ちをノートに書き留めておくと、いつか将来の自分が見た時に「あの時、こういうことを思っていたんだな」という発見にもなるし、おもしろいと思ったんです。さきほどお話した「19歳が子どもで嫌だな」みたいな感覚と同じです。そういう感覚を25歳くらいになると忘れるじゃないですか。だから記録するようにしています。
マイソン:
お話をお聞きしていて、すごく研究熱心だなと感じたのですが、いろいろなことを追求していくタイプですか?
福本莉子さん:
そうかも知れないです。自粛中に料理をしていて、料理本を買いに行ったんですけど、「そもそも食とは?」となって、食べることは生きることじゃないですか。だからそういう本を買っちゃって(笑)。それと、レシピに書いていない当たり前のことっていうがあって、料理の基本の辞典みたいなのがすごく良いじゃんと思って買いました。「ほうれん草は、蓋をして茹でない」とか、料理もいろいろあるじゃないですか。普段意識しないでやっていることにも科学的な理由があって、そういうのがちゃんと書いてある本で、これを知ったらもっと料理が楽しいなと思って買いました。
マイソン:
すごい!!知識もいっぱい増えて良いですね。この先もいろいろな役を演じられると思いますが、こういう俳優さんになりたいみたいなイメージはありますか?
福本莉子さん:
何でもできる人になりたいです。「こういうお芝居もできるんだ」って新たな発見が毎回ある、多面性がある俳優になりたいです。「この人はこういう感じだよね」っていう風にはなりたくないし、新しい役に挑戦し続けたいという気持ちがあります。
マイソン:
では最後の質問で、いち観客として大きな影響を受けた映画、監督とか俳優がいたら教えてください。
福本莉子さん:
難しいですね!選びきれないです(笑)。でも、観た時にすごく衝撃を受けたのは、『セブン』です。ラストシーンの芝居が、もうあれだけで泣けます。「こんなことある?」っていう衝撃がすごくて、今でも覚えています。グロテスクなところもありますけど、観て良かったなって思います。わりと衝撃的な思い出の1つです。
マイソン:
あれはすごく衝撃的な映画でしたよね。本日はありがとうございました!
2020年11月27日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『しあわせのマスカット』
2021年5月14日より全国公開
監督:吉田秋生
出演:福本莉子/中河内雅貴/本仮屋ユイカ/竹中直人
配給:BS-TBS/配給協力:トリプルアップ
修学旅行で岡山を訪れた女子高生の相馬春奈は、病床の祖母のお土産に岡山の名産品マスカット・オブ・アレキサンドリアを買おうとするが、財布を落とし、わずかなお金しか持っていなかった。でも、そんな時に目に入ったのは、そのマスカットを使った“陸乃宝珠”という和菓子。祖母はそのお菓子を喜んでくれて、それを機に春奈は“陸乃宝珠”を作った会社に就職しようと考え…。
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
©「しあわせのマスカット」製作委員会