新型コロナウィルス感染症によって、私達の生活は大きな影響を受けています。これまでの生活に戻ることは難しく、新しいスタイルをこれからどんどん模索する必要性を皆さんも日々感じてらっしゃるのではないでしょうか。そんななか、テレビ東京では「withコロナ時代に必要な新・性教育〜セクシャルマインドセットをバージョンアップせよ!!〜」というオンラインイベントを開催するとのことで、プロデューサーの工藤里紗さんに緊急メールインタビューをさせて頂きました。
性にまつわる問題に直面したときに必要なこと
マイソン:コロナ禍でさまざまな問題が起きているなかで、性について取り上げようと思ったきっかけは何でしたか?
工藤里紗さん:コロナ禍の未成年の妊娠相談が増えていると宋美玄先生に聞きました。また、セクハラや今まで声が出せなかった性に対するモヤモヤ問題が周りで、「わ!」っと増えていました。トラブルの多くは悪意があるものではなく、マインドセットのギャップであるなと。同じ時期に、小3の息子もNetflix『梨泰院クラス』を観て、トランスジェンダーの人について考えるようになったり。「今だからこそ延ばし延ばしに、うやむやにしていた“性に関すること”と向き合う時なのでは?」と。「今、セクシャルマインドセットをバージョンアップせずに、いつするのか!」と。
マイソン:「大人の性教育」という言葉がキャッチフレーズに使われていますが、子どもが学校で受ける性教育と比べて、大人になってから受けたほうが良い性教育にはどんなテーマがあるでしょうか?資料には工藤さんの息子さんのことが少し掲載されていましたが、子どものうちに教えたほうが良いこと、大人になってから改めて教えたほうが良いことの違いはあるでしょうか?
工藤里紗さん:“性教育”と一言にいっても、生理、精通などの第二次性徴とセックス(どう子どもができるか)や避妊の話だけではないと思うのです。今、ジェンダーの問題やまだまだ世界では#MeTooに関しての話題がたくさん出ています。セクシャルマイノリティーに対しての理解もそうですし、性犯罪やプライベートゾーンに関しての事、「どう自分も他人も守るか?」という事は子どもも大人も必要な知識です。ただし、子どもは最初“性に対する知識”がまっさらな状態なので、年齢に合わせて段階を踏むべきです。現在悩んでおりますが、息子はまだどう子どもができるかは知りません。しかし、どこから生まれるか、プライベートゾーンは見せない触らせないはもちろんのこと、見せてくる人がいたら間違ったことだからすぐ逃げる、大人に知らせる等は教えています。また、見た目の性と心の性が違う人、同性が好きな人など、いろんな人がいることはふんわりと知っています。
大人は、自分の身を自分で守るだけではなく“加害者”になる可能性が子どもより高いので、男女共に、人の気持ちも絡めた知識と想像力を広げる必要があります。ビジネスにおいても、セクハラ、マタハラ、妊活ハラスメントなど様々な言葉があるように「性に対するマインドセット」がバージョンアップされていないと、人を傷つけるだけでなく、自分の仕事人生の命取りにもなります。会社としても、このようなトラブルは大きなダメージに。これを言っていい、これは言ってはダメと、研修で出てくるような例の丸暗記では意味がありません。例えば、私はレズビアンの人をテレビで取り上げる際“レズ”ではなく“レズビアン”というテロップにするのですが、これがなぜかが肌感覚でわからないとダメです。男性だけではなく、女性も知らないうちに古いマインドセットのままがあるから要注意。大人がわからずして子どもに教えられないので、今回はまず“大人の性教育”と題してみました。
マイソン:枕営業という言葉があり、テレビ業界、芸能界だけでなく、どんな業界でも未だに無縁ではないと思います。枕営業を促されること、枕営業をしたのではないかと噂を立てられることなど、いろいろな意味で女性が追い詰められる可能性がエンタメ業界では特に多いのではないかと思いますが、差し支えのない範囲で業界のセクハラ問題についてお話できることがあればお願いします。
工藤里紗さん:いわゆる、「わははは、俺と寝れば今度のドラマで主演にしてやるよ」「脚本頼むよ」「MCにならない?」みたいな話は聞いたことがありません。自分が前述の“俺”のポジションであっても、そんなことはしません。そんな仕事の決め方をして、番組が当たらなかったときのほうが100倍怖く責任が取れないからです。
しかし、無言の圧力はあるかも知れません。若い女性が、例えば男性プロデューサーの飲み会に行く、そこで変なゲームをしてもノリノリで答える、連絡先も教えるし、もしかすると性的な関係にもなるかもしれない。「俺と寝れば~」と言われていないけど、無意識的に気に入られていれば仕事のチャンスに繋がるかもとの打算が働くことも。
男性側も、主役やMCは無理だけど、ちょっと賑やかしでいる1人ならいっかと、数字や成果に繋がらないところならまた会いたいし繋ぎとめておきたいので選抜するというような可能性はゼロではないかも知れません。逆を言うと、若い女性はノリがよくなかったり、誘いを断ると、そのポジションが手に入らない、前は良かったけどもうプライベートで関係は持ちたくないけど言うと外されそうで怖いという恐怖に支配され追いつめられます。ノリノリのLINEも、飲みの席でのボディタッチも、身体の関係を持つのも「嫌われたくない」「切られたくない」からの可能性も。
このように、無言の圧力や、その様に無意識に捉えてしまうことはあるかもしれません。しかし、これは業界、男女間に限ったことではなく、どこにでもあることかも知れません。だからこそ、決定権を持つ側は、マインドセットをバージョンアップして、誰よりも相手への想像力を働かせる必要があるのです。
マイソン:上記に続けて、そういう被害や未遂があった場合、テレビ業界で働く女性達の処世術があれば教えてください。
工藤里紗さん:理想論かもしれません。しかし、“言語化する”“声を出す”これ以外にありません。衝突する必要やキツイ言い方をするのは得策ではありませんが、「〇〇はイヤなんです…、ごめんなさい」とか「そういうつもりではなかったんです。でも上司として尊敬してて、ダメですか?」みたいに言うしかありません。経験談として「いやいやいやいや…」や「こらこらこらこら」は、単なるノリツッコミとしてとらえられ相手の耳に届いてないことが。“一言で簡潔に”、そして深刻化する前に“周りにも話す”です。意外と、困ったさん(加害者)は、いろんな人に対して困ったさんである率が高く、それが見えてくると自分だけ特別でないことにハッ!と目が覚めたり、皆で話せば然るべき部署や上司に報告できるように。
恋愛やセックスになだれ込ませることにおいて、すべてのリアクションや言葉をスーパーポジティブに変換するイケイケモンスターも世の中にいることを知るべきです。また、そのポジティブモンスターを誤解させておいたほうが気に入られて仕事もうまく進むということもありますが、それに甘んじる自分のせいで、誰かが傷ついているかも知れないという自覚を女性側も持つべき時代に来ているのかなと感じます。男性の中にも、女性の上司、後輩などに対して、男“性”を匂わすことで、何となくコントロールさせる、ビジネスホストがよく見受けられます。匂わすだけ匂わして、何ならちょっと何かして、相手がハマってくると、「ヤバいよ!ヤバいよ!」となる訳です。ヤバいのは事実でしょう、女性の心情も良きにも悪きにも変化します。でも、原因は自分にあることをまず知らねばなりません。
マイソン:エンタメには、“性を売る”ジャンル(アダルトだけでなく、テレビでいうとセクシャルな内容を含むドラマや番組など)があり、そこにはニーズがあるからだと思いますが、そういったニーズについて、テレビ業界にいらっしゃる作リ手としてはどう受け止めていらっしゃいますか?
工藤里紗さん:確かにあります。アダルトも、セクシャルな表現が多いドラマだってそうですよね。それ自体の良い悪いはなく、食べ物のこってりが好き、さっぱりが好きの個人の好みの話だと思います。ただ、これからの制作者として気を付けなければなと思うのは、撮影においても一種の“性的同意”を事前に取ってから撮影すること。アメリカとかだと、性表現の契約書や、“性”という目線で撮影の仕方を専門にチェックする人も現場によってはあるそうです。「ノリで頼んだら、意外と脱いでくれた」「台本よりも過激な表現が撮れた」は今の時代はNGです。私自身、現場のノリで様々なことを押し切った経験があり、今考えるとアウトだなと思うことも。事前の細かい同意もそうですし、もし事前と違うことがあったらうやむやにせず確認するべきですね。
子どもがいる身としては、性表現や暴力描写などのレイティングがやはり気になります。Netflixの『13の理由』は事前に性暴力表現があるので注意するように等の注意喚起をドラマ前にしています。“選べる”ことこそが大事だと思っています。そんななか、1つ懸念しているのはネット広告の性描写。タダでインターネットという素晴らしいツールを使っているなか、広告は仕方ないのですが、急にドギツイ性表現の広告(漫画、ゲーム、動画、未成年に関するもの等)が出ると私にとっては“セクハラ”や時に“性暴力”を受けるのと同じくらいダメージを食らいます。見たいものと、見たくないものがあり、見たい時はあくまで“自主的に選択”するのが良いと思います。
マイソン:今回オンラインイベントをどんな人に1番届けたいですか?そしてどんな反応を期待しますか?
工藤里紗さん:まず今までモヤモヤしていた、けど世の中そんなもんか…と思っていた女性の方、特に若い女性の方に観てほしいです。そのモヤモヤ、実は間違っていたら?声にしてもよいと知れたら?これからの人生が変わってくるかもです。
次に若い男性と、おじさんに観ていただきたいです。伝わるかは不安ですが、おじさんの多くは管理職だったり、リーダー的ポジションの人が多いはず。そのポジションの人が変われば、チームが変わる、働き方が変わる、メンタルが変わる、家庭が変わる。いい事尽くめのはず。もちろん、女性もですが、男女のマインドセットギャップが#MeTooやいろんな社会的ムーブメントにより、逆にどんどん開いてきていると感じ、そんな風に思います。
お父さんお母さんの影響も子どもの無意識への影響が絶大なので、ぜひ!!このイベントそのままを話さずとも、少しずつ開けた会話をすることで、何かあったらすぐ相談できる親になるかもです。
2020年6月26日取材 TEXT by Myson
踏み込んだ質問にも率直に回答してくださった工藤さん。そんな工藤さんが手掛けるオンラインイベントでも、きっとパネラーの皆さんの本音がたくさん聞けるはずです。性にまつわることは人には話しづらいですが、1人で悩んでいるだけではずっと辛いですよね。こういったイベントを含め、周囲の声にも耳を傾けてみることから始めると、少しずつ打開策が見つかるかも知れませんね。
【テレ東無観客フェス2020】
2020年6月27日から7月5日まで開催
関連サイト
配信プラットフォーム:PIA LIVE STREAM
※動画配信プラットフォーム「ULIZA(ウリザ)」を使用した配信公演
※ライブ配信終了後翌日の23:59までアーカイブ配信
※配信期間中は何度でもアーカイブ視聴可能
「withコロナ時代に必要な新・性教育〜セクシャルマインドセットをバージョンアップせよ!!〜」
■配信日時:2020年6月30日(火)21時~22時30分終了予定
■オンラインイベント視聴券:1500円(税込)
■チケット販売はこちら
出演(五十音順):SHELLY/鈴木涼美(作家・社会学者)/宋美玄(産婦人科医・性科学者)/峰なゆか(漫画家)/ゆきぽよ(モデル・タレント)
家庭で、会社で、社会で…コロナ中に露わになった“性認識のズレ”ゆえに巻き起こった数々のトラブル。子どものための性教育はもちろん、私達大人も今こそ「性にまつわる認識を更新」しなないと大変なことに!そこで!テレビ東京が“性と向き合ってきたプロ”達と本気で考える!現代人に必須科目、大人の“新・性教育”!!
下記のオンラインイベントも要チェック
演劇「女のみち特別編~アンダーコロナの女たち~」
■配信日時:2020年7月4日(土)配信
■オンラインイベント視聴券:1800円(税込)
■チケット販売はこちら
作・演出:ペヤンヌマキ(ブス会*)
出演:内田慈/もたい陽子/高野ゆらこ/尾倉ケント
ペヤンヌマキ(ブス会*)の代表作である「女のみち」シリーズの特別編。舞台は緊急事態宣言が明けた後、久しぶりに行われるAV撮影の控室。外出自粛でうっぷんが溜まりまくった女たちは怒涛のようにしゃべりまくる!そしてコロナ厳戒態勢下で行われるAV撮影…一体どうなる!?
©テレビ東京
acworksさんによる写真ACからの写真
FineGraphicsさんによる写真ACからの写真