実在するゲイの水球チーム“シャイニー・シュリンプス”をモデルに、仲間との絆や成長を描いたロードムービー『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』。今回は本作の監督を務めたセドリック・ル・ギャロさんとマキシム・ゴヴァールさんにお話を伺いました。1作目から続けてタッグを組んだお二人に共同監督のメリットや、コメディとシリアスのバランスの取り方について聞いてみました。
<PROFILE>
セドリック・ル・ギャロ(写真右):監督・脚本
フランス最古のテレビ局TF1のテレビリポーターとしてキャリアをスタート。世界各国を飛び回り、有名アーティスト、映画監督、ファッションスタイリストなどの取材を経験。30歳の時に、テレビ番組“50’s inside(原題)”の監督を任され、同時期にフランスのドキュメンタリーネットワークSPICEEで現代芸術のドキュメンタリーを監督する。さらに、自身の劇団で俳優としても活躍。2012年、友人の紹介でゲイの水球チーム“シャイニー・シュリンプス”に加入。2015年、フランスのテレビ局Canal+で、名作映画の架空の舞台裏を描いた短編テレビシリーズ“Scene de culte(原題)”を製作し、20エピソードの監督、脚本、出演をした。自身初の長編映画で、マキシム・ゴヴァール監督と共同監督した『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』は、ヨーロッパで有数のラルプ・デュエズ国際コメディ映画祭にて審査員賞受賞をはじめ、数々の映画祭で受賞した。
マキシム・ゴヴァール(写真左):監督・脚本
数々の作家コンテストで入賞後、フランスのメジャーなテレビ番組の放送作家としてキャリアをスタート。2015年“I Kissed a Girl(原題)”で、長編映画監督デビューし、ラルプ・デュエ国際コメディフェスティバルで大賞を受賞。2017年、2作目のコメディ映画“Daddy Cool(原題)”を監督。2018年、プロデューサーの紹介により、実在のゲイの水球チーム“シャイニー・シュリンプス”に所属するセドリック・ル・ギャロと出会い、『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』の共同監督と脚本を務めた。また、続編『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』でもセドリック・ル・ギャロ監督とタッグを組んだ。
ゲイの世界には愛が溢れていて、友情が芽生える場所があることを伝えたい
シャミ:
まず、セドリック監督にお伺いしたいのですが、2012年に友人の紹介で“シャイニー・シュリンプス”と出会ったそうですが、チーム加入の決め手はどんな点だったのでしょうか?
セドリック・ル・ギャロ監督:
1番の理由は普通にスポーツをしたかったということです。学生時代はゲイとしての自覚があるなか、体育の授業を受けることがとても辛かったんです。それがトラウマになっていて、スポーツの良い思い出がありませんでした。でも、何かスポーツをやりたいと思っていたところ、友達から水球のことを聞きました。はじめは水球のことがよくわからなかったのですが、とりあえず興味本位でやってみたら、メンバーの雰囲気がとても良かったんです。それに前の嫌な思い出とは全然違う守られた環境だと感じました。僕はスポーツにおいて、勝つことよりも皆で何かをすることが1番大事だと思っていて、まさにそれを実行しているチームだと思ったので、加入を決めました。今はメンバーと大親友で、試合で一緒に世界を回っているわけですが、僕にとっては単なる水球チームというだけでなくて、生き方にも関わっていて、本当に愛に溢れたチームだと思います。
シャミ:
なるほど〜。実際にチームに入ってから、 “シャイニー・シュリンプス”を映画にしたいという気持ちはどの段階で生まれたのでしょうか?
セドリック・ル・ギャロ監督:
僕はジャーナリストとして仕事をしていて、演劇の仕事も並行してやっていました。だんだんとテレビの仕事もするようになり、ミニドラマのシリーズをやったりしていて、水球はプライベートで始めました。僕自身仕事でフィクションの世界に入ってみたいという気持ちがあったので、チームで衝撃を受けた友情や旅など、その素晴らしさを仕事でも伝えたいと思い、映画を作ろうと考えました。
この数年で状況が変わったと思いますが、5年前まではゲイの映画はすごくネガティブなこと、人から受け入れられない、売春をせざるを得ないといった暗い話ばかりでした。僕はドラマ『フレンズ』が好きだったので、ゲイ版『フレンズ』のような作品を作りたいと思いました。単に恋愛だけではなく、ゲイ同士の友情などを明るく楽しく描きたいと考えました。もし僕が若い時にそういった作品があったら、あんなに苦しまずに済んだと思います。当時はお手本となるモデルがいなかったからこそ辛かったので、ゲイの世界には愛が溢れていて、友情が芽生える場所があるということを映画で伝えたいと思いました。
シャミ:
ありがとうございます。マキシム監督にもお伺いしたいのですが、セドリック監督と出会って、“シャイニー・シュリンプス”の存在を知った時はどんな印象を持ちましたか?
マキシム・ゴヴァール監督:
最初にあるプロデューサーからセドリックの話を聞いて会うことになりました。僕自身はゲイではなく異性愛者なのですが、以前にもLGBTQをテーマにした作品を撮っていたので、そのテーマについても知っていました。でも、またそういった企画をやるのかと思い、正直あまり前向きではありませんでした。だけど、セドリックと会って水球チームの話を聞いたら、あまりにもおもしろくてすごく興味を持ちました。それで映画をやろうと思いましたし、僕自身も水球を始めました。
シャミ:
マキシム監督も水球をやっているんですね!お二人は1作目と2作目の両方でタッグを組まれていますが、一緒に組むことの最大のメリットはどんな点でしょうか?
マキシム・ゴヴァール監督:
まずデメリットからいうと、ギャラを半々にしないといけないことです(笑)。
一同:
ハハハハハ!
マキシム・ゴヴァール監督:
もちろん今話したようなデメリットはあるのですが、メリットのほうが本当にたくさんあります。僕は人間としての冒険だと思っていて、時間や価値観を2人で共有することが大事だと感じています。例えば脚本を書く時に、2人でたくさん話し合うのですが、当然意見が違うこともあります。そういう時に良い案が取り入れられていくんです。つまりどちらが正しいというのではなくて、どちらの案が映画にとって良いのかという選択ができるんです。そうやってより良い映画が作られるという点は共同監督の良い点だと思います。
そして、これは一種の対話でもあるんです。LGBTQの世界と僕のような異性愛者の世界の2つが対話をしたことでこの作品は出来上がっています。例えばセドリックが案を出した時にあまりにLGBTQに偏り過ぎていると感じたら、僕が「もっと多くの人に観てもらうにはもう少しバランスを取ったほうが良いと思うよ」と話して、2人の間で上手くバランスを取っていました。
シャミ:
お二人で役割分担されたことは何かありますか?
セドリック・ル・ギャロ監督:
2人で監督をする場合、よく1人が画作りに集中して、もう1人が俳優に演技をつけるという分担をする方達がいますが、僕達はすべての工程を一緒に相談して決めました。脚本からカット割り、俳優の演技、美術に至るまで本当にすべてを一緒に考えました。
シャミ:
ありがとうございます。1作目も楽しい作品でしたが、2作目もさらにパワーアップしているなと感じました。
セドリック・ル・ギャロ監督&マキシム・ゴヴァール監督:
(日本語)ありがとう!
シャミ:
2作目を作るにあたりお二人が1番描きたかった部分やパワーアップさせたいと思った部分はどんな点でしょうか?
マキシム・ゴヴァール監督:
2作に共通しているのが、深刻なことよりもそれを乗り越える心の軽やかさが勝つということです。簡単にいうと1作目はチームの中に同性愛者を嫌うコーチがいるという物語でした。2作目では、その後どうなったのかという続きを描きたかったので、今度はチーム全員が同性愛者を嫌う人達がたくさんいる環境に置かれたらどうなるのかという部分に話を持っていこうと思いました。でも、どんなに大変な状況でも彼らがユーモアを忘れず、客観的にどう見つめていくのかという部分を描きたいと思いました。人間は辛い環境のなかでこそ本性が出て試されると思うので、そういう環境に置かれた彼らに何ができるのかと考えました。
シャミ:
LGBTQというテーマがありつつも、友情物語、コメディとしても楽しめる作品でした。コメディとシリアスのバランスはどのように考えていったのでしょうか?
セドリック・ル・ギャロ監督:
例えば物語全部が悲劇、コメディという映画を作ったほうが簡単だと思うのですが、観客にとっては両方あるからこそおもしろいと思うんです。例えばなぜ泣けるのかというと、その前に笑ったからこそ泣けるんです。逆も同じで、そのバランス感覚はすごく重要だと思いました。脚本の段階からそのバランスを大事にしていて、撮影や最後の編集のところでも、セリフを1つ減らしてみたり、シーンの長さを変えることで少しずつバランスを取りました。でも、バランスの取り方に取扱説明書があるわけではないので、直感的に感じながら決めていきました。すごく深刻なものと軽やかなおもしろい部分を行き来させる、その反復にはかなりこだわって作業しました。
シャミ:
ありがとうございます。本作にはブリアナ・ギガンテさんが出演していますが、彼女のことはどのようなきっかけで知ったのでしょうか?出演をオファーした決め手もあれば教えてください。
マキシム・ゴヴァール監督:
ブリアナさんのことは元から知っていたというよりも日本から共同製作で入っていたフラッグさんから何人か挙げていただいた中のお一人がブリアナさんでした。日本のLGBTQの文化を象徴してくれるような人でかつインパクトがある方ということで候補を挙げてもらい、その中からブリアナさんに決めました。ブリアナさんは、フランスでは見たことのない方で、僕達は観客にも興味を持ってもらえるだろうと思いました。特に気に入ったのは、すごく奇抜でオペラや演劇を思わせるような雰囲気のある方で、すぐにブリアナさんが良いと思いました。
セドリック・ル・ギャロ監督:
それに関連して思うことが1つあります。1作目の時も思ったのですが、日本に限らずフランスでも女性の観客が多いと感じて、実はこの映画は女性に訴えかけられるのではないかと思ったんです。LGBTQの方達やブリアナさん自身もすごく戦っている方だと思うのですが、女性達も男性優位の社会の中で戦わなければならない、そこに何か共通点があると感じました。昨日東京のプレミア上映があったのですが、そこでも女性の方がたくさん来てくださいました。実は映画にはほとんど男性しか出てこないのですが、共通点として“戦う”ということがあるのかなと思いました。
シャミ:
では最後の質問で、お二人がこれまでで1番影響を受けた作品、もしくは監督、俳優など人物がいらっしゃったら教えてください。
セドリック・ル・ギャロ監督:
1番影響を受けた作品は『ショートバス』という作品です。この映画にはいろいろなセクシャリティの人達が出てきて、ニューヨークの雰囲気にも心を打たれましたし、「こういう風に生きて良いんだ」「ルールに従わなくて良いんだ」と個人的にすごく感動しました。それからものを作ることや映画監督としても影響を受けています。この作品は映画製作のルールに則って作られたものではないので、映画製作においてもルールを守らなくても良いんだと感じました。
シャミ:
ありがとうございます。マキシム監督はいかがですか?
マキシム・ゴヴァール監督:
観ていておもしろいと思うのは、韓国映画とイラン映画です。韓国映画については、ポン・ジュノ監督にも代表されるように1つの作品の中でさまざまなジャンルが混在しているのがおもしろいと思います。例えばコメディ、スリラー、悲劇が混ざっていてもエンタメとして成立していて、本当によくできていると感じます。イラン映画についても1つの作品の中でさまざまなジャンルが混ざっていながら、政治的にも戦っている映画が多く、常に自分達の社会について問いを投げかけていて素晴らしいなと思います。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2022年10月6日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』
2022年10月28日より全国公開
PG-12
監督・脚本:セドリック・ル・ギャロ/マキシム・ゴヴァール
出演:ニコラ・ゴブ/ミカエル・アビブル/デイヴィット・バイオット/ロマン・ランクリー/ローランド・メノウ/ジェフリー・クエット/ロマン・ブロー/フェリックス・マルティネス/ビラル・エル・アトレビー/ピエール・サミュエル/ブリアナ・ギガンテ
配給:フラッグ
歌とダンスが大好きなお騒がせ水球チーム“シャイニー・シュリンプス”は、ゲイゲームズ出場のため開催地の東京を目指す。しかし、飛行機の乗り継ぎに失敗してしまい、ゲイ差別が横行する異国の地で一晩を過ごすことに。危険な街だと知りながらも、楽しい時間を過ごそうと夜の街に繰り出すメンバー達は、やがて大騒動に巻き込まれ…。
© 2022 LES IMPRODUCTIBLES – KALY PRODUCTIONS – FLAG – MIRAI PICTURES – LE GALLO FILMS