映画にドラマと数々の話題作で名演を見せてきた仲野太賀さんにインタビューをさせて頂きました。『静かな雨』では、足の悪い物静かな青年を演じた仲野さん。本作を含め、演技や作品に対する向き合い方についていろいろとお話を伺いました。
<PROFILE>
仲野太賀(なかの たいが):行助(ゆきすけ)役
1993年2月7日東京都出身。2006年に俳優デビューし、2008年、映画『那須少年期』で初主演を飾る。『桐島、部活やめるってよ』(2012)、『私の男』(2014)、『あん』(2015)などの話題作に出演し、2014年には第6回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞を受賞、『淵に立つ』(2016)では、第38回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した。また、2016年、TVドラマ『ゆとりですがなにか』では、ゆとりモンスター山岸を演じ注目を集めた。その他の主な映画出演作に『50回目のファーストキス』『母さんがどんなに僕を嫌いでも』『来る』『町田くんの世界』『タロウのバカ』などがある。2020年の劇場公開作品としては『静かな雨』『今日から俺は!!劇場版』などが控えている。
コンプレックスを抱えている人って、誰かの痛みにすごく敏感なんだと思うんです
マイソン:
資料に「監督とたくさんの言葉を交わし、悩み考え抜いて現場に臨んだ」とありましたが、行助を演じる上で一番苦労した点とやり甲斐を感じた点を教えてください。
仲野太賀さん:
1番良かったのは、撮影日数が短かいなかで立ち止まる時間がなかなかないだろうというのもあって、クランクイン前にいろいろな方向性だったり、思いみたいなものを共有していきたいと思って挑んだことです。疑問点をぶつけたりして、そういう意味で監督をはじめ、Tokyo New Cinemaの皆さん、撮影スタッフの皆さんといろいろな角度から、すごく豊かなディスカッションができたと思います。だから、クランクインする頃にはすごくチームワークができていたし、皆のベクトルが定まった状態で、撮影がすごく順調でした。苦労した点は、中川監督とすごく年齢も近いし、距離も近かったので、意見が合わない時もあり、そういう時は立ち止まってしまうこともありました。でも、最終的には良い形になったんじゃないかなと思います。
マイソン:
現場で刺激を受けたことはありましたか?
仲野太賀さん:
キャストの皆さんが本当に素敵な方ばかりで、撮影は1日ずつくらいでしたが、今日は村上淳さん、今日は河瀨直美さん、今日は萩原聖人さん、今日はでんでんさんと、その連続はすごく楽しかったです。
マイソン:
1日1日の撮影がすごく濃厚そうですね。
仲野太賀さん:
やっぱり超プロ中のプロばかりで、古舘寛治さんも川瀬陽太さんも。皆さん1日でもしっかり映画にして帰っていってくださるので、何と頼もしいことか、心強いことかと思いました。
マイソン:
本当に演技派揃いの豪華キャストですよね。あと、鯛焼きとか美味しそうな食べ物が出てきたましたが、主人公の立場から食べ物の役割みたいなものは、どんな風に感じていらっしゃいましたか?
仲野太賀さん:
物語の中で「記憶が腸にある」っていうのもあったので、食べ物のシーンもすごく多かったと思うんですけど、食べることに限らず、こよみさんと過ごしている行助の時間がとにかく幸せに映って欲しくて。こよみさんと出会っていなかった時間に行助の暗部みたいなものがあるとしたら、こよみさんといるあの瞬間っていうのは恐らく明るく優しい時間でありたいなっていうのがあって、その1つとして鯛焼きっていうのがあると思いました。鯛焼きを焼いてもらってそれを食べる、そこがすごく幸せに映れば良いなという思いでやっていました。
マイソン:
なるほど〜。こよみとの帰り道の階段のシーンも印象的でした。その後の展開も含めて、あのシーンが活きていた部分があったと感じたのですが、2人の距離感についてはどう感じてらっしゃいましたか?
仲野太賀さん:
2人の優しさが前面に出ている距離感だなと思いました。行助には足が不自由というコンプレックスがあって、それを抱えている人って、誰かの痛みにすごく敏感なんだと思うんです。そういう意味で行助は人の痛みに寄り添える人間で、2人でいる時はそういう優しさを見せ合っている瞬間だなって思います。こよみさんもそういうコンプレックスがどこかにあって、それが2人でスッと近づける何かだったのだと思います。
マイソン:
恋愛だけじゃなくて、人間的に近づいていくみたいな。
仲野太賀さん:
そうですね。
マイソン:
朝、目覚めるたびにこよみが記憶を失くしていて、同じことの繰り返しみたいな描写を観ていて、記憶を失くしていなくても、カップルが一緒にいると同じようになっていくのではと思いました。そういう意味で、すごく普遍的でリアリティを感じました。太賀さんが、このストーリーで印象に残っているテーマは何でしょうか?
仲野太賀さん:
今おっしゃって頂いたシーンで言うと、やっぱりどれだけ優しい人間でもああいうことを繰り返していったら、耐えられなくなると思うんです。それまで我慢していたことがあるなかでひずみが生まれるし、そこに行助の人間味みたいなものが宿ったんじゃないかと思います。優しいだけじゃ嘘みたいだし、どうしようもない器の限界があって、そこに人間を感じられたら良いなって。同じ台詞の連続、同じシチュエーションの連続のなかで行助の変化というか機微が見え隠れすれば、良いラストに向かっていけるんじゃないかなと思いました。行助が思いを吐露するシーンが特に撮影していても印象的で、1番長いシーンなんですけど、1カットで撮っていて、撮影の塩谷大樹さんが本当に知恵とアイデアを振り絞ってくれて、それが上手くいったので良かったです。
マイソン:
これまで、すごくいろいろな役を演じられてきて、難しい役とか、わりとすんなり入れる役とか、何か違いはありますか?
仲野太賀さん:
何て言うんでしょう、自分の範疇にあるものって感覚としてあるじゃないですか。でもそれじゃおもしろくなくて、それをどうにかより良い形に外側に持っていくのかみたいな…、どの役も難しいです(笑)。
マイソン:
そうですよね(笑)。まだ演じていない役で、例えば第三者的に映画などを観ていて、こういう役をやりたいなと思うことはありますか?
仲野太賀さん:
いっぱいありますね。「こんな役をやりたいな」「この役カッコ良いな」って。基本的に自分がこんな役をやると思わなかったっていうオファーだと、発見が多いんですよね。こんなことになるんだとか、そういう時に自分の中で広がるものがあるというか、そういう役と出会いたいんですよね。「こういうコメディがやりたい」とか「こういうシリアスなのがやりたい」とか何となくあるけど、自分のイメージじゃないところからいきなり「ここにあるよ」みたいな引き出しを引っ張ってもらって、「あ!こんなところに!!」みたいな発見が重要なんだなって、最近思います。
マイソン:
すごく影響を受けた監督とか俳優さんとか、映画ってありますか?
仲野太賀さん:
いっぱいあって1つ挙げるのは難しいんですが、毎回思うのは、ホアキン・フェニックスは最高ですよね。
マイソン:
どういうところに魅力を感じられますか?
仲野太賀さん:
いつも「こんな芝居をするんだ!」って、想像を越えてくる感じがやっぱり偉大な俳優だと思います。
マイソン:
本当にすごいですよね。では今後海外に行きたいという思いはありますか?
仲野太賀さん:
行きたいですね。いろいろな国の人と映画を作りたいです。
マイソン:
良いですね!いろいろな国の映画をたくさん観ていらっしゃると思いますが、映画を観る時はどんなところに目が行きますか?
仲野太賀さん:
目が行きがちなのは何を描いているのかですけど、その映画の世界がいかに自分が生きている世界と地続きにあるのかっていうところに目が行きますね。
マイソン:
ジャンルがどうであれ…。
仲野太賀さん:
ジャンルがどうであれ、本来描こうとしているストーリープラス、この監督は何を拾って描いていくのか、どういう側面を持ってこの世界を切り取っていくのかっていうのは、やっぱり気になりますね。それが雑な人もいれば、全く関係ないところでやる人もいるし、すごく深い眼差しを持ってこの社会を切り取ろうとする人もいるし、それは監督の色によって全然違うので、それがやっぱり映画を観る楽しみでもあるし、魅力だと思います。
マイソン:
では、今は映画を映画館で観たり、スマホやタブレットでも観られますが、俳優さんの立場からはどういう風に観てもらいたいですか?
仲野太賀さん:
やっぱり映画は映画館で観てもらいたいですね。でもどこでも観られるっていうことのメリットももちろんあると思うし、それは絶対否定できないじゃないですか。作っている側としては、大画面で観ることを前提にして作っているので、そこは1番良い環境で観てもらいたいですけどね。
マイソン:
それは細かい演技だったり、一体感というか映画館の世界観自体も含めてですかね。
仲野太賀さん:
そうですね。あの没入感があってこそのものだと思うんです。あと音で表現できるものって本当に違って、良い環境で聞く音は臨場感が全然違うし、伝わり方が違うと思うので、映画は1番良い環境で観て欲しいです。でも、そういう環境で観てもらうにはお金がかかるので、高い料金を払ってでも観たくなる映画を作り続けていかなくてはいけないなって思います。
マイソン:
やっぱり映画館で観るのは格別ですよね。では最後に、うちのサイトにデート向き映画判定というコーナーがあるのですが、この映画はどんなシチュエーションで観ると楽しめそうでしょうか?誰かと一緒に観るのがオススメとか、1人でじっくり観るのがオススメとか。
仲野太賀さん:
恋人とか好きな人と観て欲しいです。ラブストーリーなので。
マイソン:
普段太賀さんが映画を観る時は、作品によってシチュエーションが違いますか?
仲野太賀さん:
全然違いますね。1人で観たい映画もあれば、友達と観たい映画もあるし、恋人と観たい映画もあるし、全然違いますね。
マイソン:
映画を観終わった後に語るほうですか?
仲野太賀さん:
観終わった後の感動は共有したいタイプなので、やっぱり誰かと話せるほうが楽しいですね。「あそこ良かったね!」とか言い合うのが楽しいですね。
マイソン:
解釈が難しい映画も語り甲斐があっておもしろいとか?
仲野太賀さん:
それはあるんじゃないですかね。難しい映画の定義がまた難しいと思うんですけど、いろいろな解釈があって語り甲斐がある映画は確かにあるので、それはなおさら楽しいですよね。いろいろなヒントというか、答え探しをしているわけでもないけど、いろいろな要素が散りばめられている映画って豊かで良いと思います。
マイソン:
本日はありがとうございました!
2019年12月20日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『静かな雨』
2020年2月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
監督:中川龍太郎
出演:仲野太賀/衛藤美彩/三浦透子/坂東龍汰/古舘寛治/川瀬陽太/村上淳/河瀨直美/萩原聖人/でんでん
配給:株式会社キグー
足の悪い行助は、大学の研究室で働き、仕事帰りにたいやき屋に立ち寄るのが日課だった。たいやき屋に通ううちに店主のこよみと徐々に親しくなっていくが、ある日こよみは事故に遭い、記憶障害を抱えてしまう。そんなこよみを放っておけなくなった行助はこよみと生活を共にすることを決意するが…。
©2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋