シングルマザーや無戸籍者といった現代社会にも通ずるテーマが描かれた映画『空のない世界から』。今回は本作で主人公の麻衣香役を演じた兒玉遥さんにインタビューさせていただきました。本作で初挑戦した母親役のお話や、元HKT48ということでアイドル経験が俳優活動に活かされている点について直撃しました。
<PROFILE>
兒玉遥(こだま はるか):藤井麻衣香 役
1996年9月19日生まれ。福岡県出身。2011年、HKT48の第1期生オーディションに合格し、活動を開始。HKT48ではセンターポジションを務め、2016年開催の第8回AKB48選抜総選挙では、自身最高の第9位に輝いた。その後、2019年6月にHKT48を卒業し、俳優活動を本格始動する。2019年、舞台“私に会いに来て”に出演。その他にも舞台、映画など、さまざまな分野で活躍中。映画『空のない世界から』では、主演を飾り、夫のDVが原因で妊娠中に家を出たシングルマザー役を好演。
自分が思っている以上に他人は優しくて、助けてくれる人がたくさんいるはず
シャミ:
最初に本作の脚本を読んだ時、麻衣香というキャラクターにどんな印象を受けましたか?
兒玉遥さん:
麻衣香は本当に極限状態にいる女性だと感じました。夫から逃げて生きることはすごく辛いと思いますし、社会的に弱い立場にいて、それを自分でもわかっているからこそさらに隠れようとする意識が強くなっているのかなと思いました。
シャミ:
麻衣香を演じる上で難しいと感じた点や、挑戦だった部分はどんなところですか?
兒玉遥さん:
まず母親役が初めてだったので、それが1番の挑戦でした。私にとって母親は偉大で尊敬できて、明るくて元気なイメージが強かったのですが、麻衣香はシングルマザーで、厳しい状況にいる人物だったので、私に演じられるのか半信半疑でした。
シャミ:
本編を観ていても麻衣香の苦しい心境が伝わってきました。なので、演じるのもすごく大変そうだなと感じました。
兒玉遥さん:
そうですね。麻衣香にとって娘のさくらがいることが1番の原動力になっていて、どんなに辛くても娘のために頑張りたいという気持ちが大きかったと思います。だからこそ演じる上でもそこはしっかり表現したいと思いました。
シャミ:
役づくりはどのようにしていったのでしょうか?
兒玉遥さん:
役のイメージは、小澤監督が何度もディスカッションをする機会を作ってくださったので、そこで自分のわからないことや、ここはどう表現したら良いのかということを話してイメージを擦り合わせました。そういった話し合いのおかげもあり、不安なく自信を持って撮影本番を迎えることができました。どうやって役作りをしたのかというと少し難しいですが、無戸籍やシングルマザーをテーマにした作品を観たりして、イメージを深めていきました。
シャミ:
なるほど〜。無戸籍やシングルマザーといった社会的なテーマについても監督と話し合いをされましたか?
兒玉遥さん:
最初に周りにそういった方がいるかどうかの確認がありました。私の周りには、結婚や出産をしたことがある方、シングルマザーもいますが、麻衣香ほど辛い状況ではありません。結婚や出産は、本来ハッピーなイメージが強いと思いますが、なかなか現実で麻衣香のような人に目を向けたり、考える機会がなかったので、だいぶ苦戦しました。麻衣香になりきれたかどうかは自分ではわからないので、観た方にしか正解がわからないのかなと思います。
シャミ:
本編を観ていてもしっかり伝わってくるものがありました。
兒玉遥さん:
ありがとうございます!
シャミ:
この作品に出る前と後とで母親像やシングルマザーに対する見方で変わったところはありますか?
兒玉遥さん:
私は元からお母さんのことが大好きで尊敬していましたが、この作品を経てそれ以上に偉大だということを感じました。今まで以上にお母さんに感謝して生きよう、親孝行しようという気持ちが強くなりました。それと正直、今までは結婚や出産にあまり興味がなかったんです。自分の人生を謳歌したいという気持ちが強くて、結婚も出産もまだまだ考えられないと思っていました。でも、この作品に参加して、少しずつ価値観や考え方が変わり、子どもを持つことの素晴らしさを感じました。子どもの存在自体が尊くて、本当に愛でしかないし、私がお母さんに対して感謝しているのと同じように、その気持ちを母として受け取ることができるのであれば、子どもを持つことも良いのかもしれないと感じました。
シャミ:
麻衣香とご自身とで似ているところや共感できた部分はありますか?
兒玉遥さん:
似ているところは素直に助けを求められないところです。本当は困っているけど、声を上げて助けを求められないことは、私もそうですが、どんな人でも共感できる部分があるのかなと思います。困った状況になった時、本当は誰かに助けてもらったほうが楽なのに、どうしても「迷惑をかけてしまうかもしれない」と、他人のことを考えてしまい、1人で解決しようとするところがあると思います。でも、自分が思っている以上に他人は優しくて、助けてくれる人がたくさんいるはずですし、1人で抱え込んで辛い想いをするくらいなら、皆で助け合って生きていくほうが良いと思うんです。そういったメッセージがこの作品を通して伝わったら良いなと思います。
シャミ:
ありがとうございます。では、兒玉さんご自身のことも伺わせていただきたいのですが、映画は子どもの頃からご覧になっていましたか?
兒玉遥さん:
子どもの頃は好きな作品ばかりを繰り返し観ていました。ディズニー作品をよく観ていて、特に『くまのプーさん』はすり切れるくらい観ていました。
シャミ:
アイドルや俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか?
兒玉遥さん:
芸能界に興味を持ち始めたのは中学生くらいです。最初はファッションのキラキラした世界に憧れて、読者モデルのオーディションに応募していました。だけど、当時は福岡を出てまで活動をする気合いがありませんでした。それで諦めていたら、博多で活動するアイドルグループができるという情報が入ったので迷わず応募しました。
シャミ:
HKT48ではグループ活動が主でしたが、卒業を経てお1人になって、グループでの経験が個人の活動に活かされていると感じる部分はありますか?
兒玉遥さん:
アイドル時代のスケジュールや仕事のスピードが本当に目まぐるしかったので、あの時に鍛えられたからこそ1人になってどんなに過酷なことを要求されたとしてもへっちゃらです。例えば、ダンスを即興で覚えないといけない時や生写真撮影など、アイドルだった時の経験があるので、あれ以上のことはないだろうと無敵な気分です(笑)。
シャミ:
アイドル時代にかなり鍛えられたんですね。今はYouTubeチャンネルもお持ちで、本当にいろいろなことに挑戦されていて驚きました。激辛ペヤングにも挑戦していて、すごいなと思いました。
兒玉遥さん:
完食するんだって感じですよね(笑)。余裕で食べてしまいました。
シャミ:
普通の人だと一口二口でリタイアしますよね。企画もご自身でされているのでしょうか?
兒玉遥さん:
はい。辛い物は元々好きなのでやっています。YouTubeは本当に好きでやっていることが多いんです。制約なしに伸び伸びと自分の好きなことができるので、仕事とはまた違った楽しさがあります。編集はすごく大変ですが、自由に表現できる場所があることはありがたいので、これからも続けていきたいと思っています。
シャミ:
今後も楽しみにしています!あと、プロフィールにヨガインストラクターや温泉ソムリエ、臨床心理カウンセラーなどの資格が書いてあったのですが、勉強は元々得意なのでしょうか?
兒玉遥さん:
勉強は好きです。学校の勉強も好きで、結構優等生でした。好きなことを見つけると、一旦極めたくなる癖があるんです。ヨガも最初は趣味でやっていたのですが、教えられるくらいになりたいと思って資格を取りました。でも、実は熱しやすく冷めやすいんです。熱がずっと続くのは俳優業とか芸能のお仕事で、本当に好きなことだからこそずっとやれるんだと思います。
シャミ:
では、俳優として今後挑戦してみたいジャンルの作品や役などはありますか?
兒玉遥さん:
アクションをやってみたいです。女性が強くてカッコ良い作品がすごく好きで、最近だとNetflixの『マイネーム:偽りと復讐』という作品を観ました。ハン・ソヒさんがナイフを使ったり、アクションをやっているのを観て、私もやってみたいと思いました。
シャミ:
カッコ良いですね!では最後の質問で、これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
兒玉遥さん:
『すばらしき世界』を観て、主演の役所広司さんのお芝居にすごく感動しました。かんしゃく持ちの主人公の役がすごく自然に見えて、役者として影響を受けました。ああいう芝居はちょっとやそっとの研究では出せないと思うので、大尊敬しています。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2022年8月26日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『空のない世界から』
2022年10月21日より全国順次公開
監督:小澤和義
出演:兒玉遥/つむぎ/佐藤江梨子/上村侑/根岸季衣/窪塚俊介/本宮泰風/小沢仁志
配給:ライツキューブ
妊娠中に夫からDVを受け、逃げ出した麻衣香は郊外にあるラブホテルに辿り着いた。そこで北岡に助けられたことをきっかけに、住み込みで働かせてもらうことになった。そして月日が経ち、麻衣香は娘のさくらの存在を誰にも知られないようひっそりと暮らしていた。しかし、さくらが小学校に通う年齢になり…。
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