2人の男⼥の愛を探す旅が描かれたロードムービー『遠くへ,もっと遠くへ』。今回は本作で主人公と惹かれ合う洋平役を演じた吉村界人さんにインタビューしました。本作のいまおかしんじ監督とお仕事をされた感想や、役との向き合い方について聞いてみました。
<PROFILE>
吉村界人(よしむら かいと):設楽洋平 役
1993年2月2日⽣まれ。東京都出⾝。2014年、映画『ポルトレ PORTRAIT』で初主演を飾る。2018年に『モリのいる場所』、『悪魔』、『サラバ静寂』.『ビジランテ』にて第10回TAMA映画賞にて最優秀新進男優賞を受賞した。主な出演作に、映画『太陽を掴め』『ミッドナイトスワン』『異物 -完全版-』『プリテンダーズ』『灰⾊の壁 -⼤宮ノトーリアス-』などがある。今後は『⼈』『人間、この劇的なるもの』などが公開を控えている。また、趣味のグラフィティアートで松濤美術館公募展に⼊選するなど、アーティストとしても才能を発揮している。
お芝居をする上で、常にフェイクとリアルの間を意識しています
シャミ:
初めて脚本を読んだ時の洋平の印象を教えてください。
吉村界人さん:
すごく昔気質な男性を現代に落とし込んだキャラクターで、情けなくて、誰かに執着している男だと感じました。完成した作品を観て、いまおか監督がやるからこういう人物になるんだなと思いました。やっぱり20代や30代の監督が描く恋愛とは年季が違うというのでしょうか。いろいろなことを経てこの人が良いと思ったり、好きな人の嫌なところを言えない恋愛模様は監督ならではだと思います。今の若い人達は、嫌いなところも好きなところも言えますが、昔は「言葉では表現できないけど、何か良いよね」という抽象的な恋愛もあったと思うので、そういうところがある意味新鮮でした。
シャミ:
洋平とご自身を比べて似ていると思ったところや共感できたところはありますか?
吉村界人さん:
歯止めが利きづらいところや冷静になりづらい部分は少し似ているのかもしれません。もし僕が洋平のような恋愛をしていたら、頭に血が上って「このやろう!」とか言いつつ、内心は怖いと思います(笑)。理由もわからずずっと1人の人を3年間待ち続けるという経験が僕にはないので、すごいなと思いました。僕だったら3年も待てません。
シャミ:
もっと早く探しに行きますか?
吉村界人さん:
そうですね。結果を求めて探しに行くと思います。
シャミ:
洋平と小夜子(新藤まなみ)は同じような境遇の持ち主で、戦友でありながらも愛情が芽生えていく展開がおもしろいなと感じました。吉村さん自身はこの2人の関係をどのように捉えていましたか?
吉村界人さん:
行きずりのアクシデントのような関係ですよね。すごくドラマチックで、現実にこういうことはあるのかなと思いました。
シャミ:
小夜子は明るく天真爛漫な人物でありながら、実は内面では悩みを抱え、繊細さもある女性でしたが、もし彼女のような人が近くにいて相談されたらどのようなアドバイスをしますか?
吉村界人さん:
僕はあまりものを言えないので、聞いてあげることくらいしかできないかもしれません。そういう人って自己がしっかりあるので、もし何か言ったとしても聞かない気がします。
シャミ:
劇中、小夜子と洋平が「ヤッホー」や「ホホホイ」などと言い合っているシーンもありましたが、あの台詞や動きなどは監督の演出だったのでしょうか?
吉村界人さん:
はい、監督の演出です。台本にもチラッと書いてあり、「どうなるのかな?」と思って現場に入ったら、監督が演出してくださり、「こういうことか」と思いました。あの台詞や行動には特別な意味はないんです。僕も最初は意味や理由を解いていたのですが、そんなにシリアスに理屈立てて洋平の行動を理解しなくても良いのかなと思ったので、途中からは流れに身を任せていました。
シャミ:
プレス資料のコメントで「いまおか監督はファンタジーな方でした」とあったのですが、監督とお仕事をしてみてどんなところが1番ファンタジーだと感じましたか?
吉村界人さん:
理屈ではない演出が多いところですね。「ヤッホー」もそうですが、「何か良いね!それ、やろうよ」というところが、ファンタジーというか子ども心のある方だなと思いました。最近の監督だともう少し理論で固めて、説明やプレゼンをしてからやると思うのですが、いまおか監督にはそれがなく、本当にノーガードな方だと感じました。
シャミ:
洋平という人物を作り上げていく過程で監督と話し合ったことなどはありますか?
吉村界人さん:
あまり肩肘張らずカッコつけず、情けない感じにしようと話していました。あとは、振り回されることに対して大人の対応をせず、常に「何で?」という気持ちを忘れないキャラクターにしようということでした。
シャミ:
なるほど〜。ご自身ではどのように役作りをされましたか?
吉村界人さん:
洋平は常に余裕がない状況にあると感じたので、すがりついているような余裕のなさを見せたいと思って演じました。
シャミ:
吉村さんは本当に作品ごとに印象が変わるなと感じます。いろいろな役を演じる上で、毎回役に対する向き合い方は違いますか?
吉村界人さん:
一緒です。とにかく真剣にやるだけです。お芝居は結局フェイクなので、常にフェイクとリアルの間を意識するようにしています。今の時代は嘘がバレやすく、「これはやらせだろうな」「これはドッキリだろうな」と、皆が裏を読む時代だと思うんです。でも、事実を湾曲して出したら、「これはどっちだろう?」「本当なのかな?」となるわけです。今は情報が溢れていてネットニュースや出回っている情報が本当かどうか実際確かめようがないじゃないですか。だけど、お芝居なら本当に悲しいのか、楽しいのかがわかると思うんです。だから、そういう狭間でお芝居をやるんだと思っています。嘘をつくならすごく大胆な嘘じゃないとバレてしまいますし、嘘をつけないならつかないほうが良いと思います。
シャミ:
すごく奥深いですね。その探求していく作業は難しくないですか?
吉村界人さん:
本当に難しいです。毎回頭を抱えていて、熱くなって冷えピタを貼っています(笑)。その都度「明日が初日だけどどうしよう」と思って、最後は心と体が揺さぶられるほうに行くしかないと腹をくくります。それで、監督に怒られたらそれは仕方がないかなって。
シャミ:
時期によってはいくつかの役を同時進行で演じる時もあると思うのですが、そういう時の切り替えはどのようにされていますか?
吉村界人さん:
集中力です。例えば、冬に寒いなと思った時に僕は暖房を28度くらいにして、風量も1番強くするんです。少しずつ部屋を温かくしようなんて考えは僕にはありません。逆に暑い時も一気に涼しくしたいと思っていて、それと同じように役にも一気に集中しています。それで、最後のシーンでカットがかかって「今日はおつかれさまでした」と言われた瞬間に、フッと抜けてオフになります。両方の役が頭の片隅にある状態だと難しいので、全くゼロにします。そのくらい没頭して、パッと切り替えて次はこっちとしています。役に限らず何でも極端に考えることが多いです。
シャミ:
その分、集中力もすごそうですね。
吉村界人さん:
どうでしょうね。努力、感性、才能、若さとかいろいろな要素があると思いますが、集中力が1番怖い気がします。だから僕は集中したほうが良いのかなと思います。
シャミ:
なるほど〜。吉村さんご自身のお話も伺いたいのですが、映画は子どもの頃から好きでしたか?
吉村界人さん:
そこまで好きではなかったのですが、実家のテレビで半強制的に流れていたので観ていました。僕の部屋にはテレビがなくて、リビングの大きなテレビを皆で観ていたので、そこで流れているものを観ないといけないという環境でした。父はバラエティがあまり好きではなく、観ることを禁止されていたので、大体相撲かボクシングか映画が流れていました。だから、映画自体は近い存在でしたが、当時興味があって観ていたわけではありませんでした。
シャミ:
どの時点から俳優のお仕事をやってみたいと思ったのでしょうか?
吉村界人さん:
僕が俳優に興味を持ったのは結構遅くて、20歳か21歳の頃だったと思います。その前は引きこもりのような感じでしたが、映画を作りたいなとパッと思ったんです。
シャミ:
映画を作りたいとなると監督や脚本家の道もあったと思いますが、最初から俳優志望でしたか?
吉村界人さん:
そうですね。調べてみたら監督は、ある程度の知識を付けるために学校に入る必要があるなと思ったんです。でも、僕はその前に学校を辞めていて、母親に「知らないからね。自分で責任をとってね」と言われていたので、もう1回学校に入り直すなんて言えなくて、学校に入らなくても良いとしたら俳優かなと思いました。それで、前の事務所に電話したという流れでした。
シャミ:
吉村さんはもうすぐ30代を迎えると思いますが、何か30代になってからの目標や野望などはありますか?
吉村界人さん:
僕の中では全部やったなと思っていて、野望はそんなにありません。でも、これまでやったことのない役をやってみたいです。あとは、今まで会ったことのない人と対峙して芝居をしてみたいです。例えば劇団四季の方とか、演劇界のお芝居の上手な方と対峙するとか、とにかく新しいことをやってみたいです。
シャミ:
プロフィールによるとグラフィティアートが趣味で、賞の入選経験もあるようですが、アートと俳優というお仕事に共通する点などは何かありますか?
吉村界人さん:
どちらも自由が1番必要なのかなと思います。例えば「このペットボトルを書いてください」と言われて、上手く模写するのも1つ芸術で、それでお金になったり人生が変わる人もいますよね。でも、色がどんな緑なのかとか、そういう自由さは映画にもアートにも通ずると思います。
シャミ:
では、最後の質問でこれまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
吉村界人さん:
たくさんいますが、樹木希林さんです。いわゆる俳優の樹木希林さんというよりも、そこにいる存在感というか、行動とか言動、姿勢が好きだったなと思います。
シャミ:
わかりました。本日はありがとうございました!
2022年6月15日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『遠くへ,もっと遠くへ』
2022年8月13日より全国公開
R-15+
監督:いまおかしんじ
出演:新藤まなみ/吉村界⼈/和⽥瞳/川瀬陽太/⼤迫⼀平/佐渡寧⼦/⿊住尚⽣/広瀬彰勇/佐藤真澄/茜ゆりか
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
結婚5年⽬の⼩夜⼦は、⼼が通じない夫との将来を描けず離婚を考えていた。離婚後の住まいを探すために不動産屋に行くと、そこで担当の洋平と出会う。2人は物件を見ていくうちに打ち解け、⼩夜⼦は離婚を考えていること、洋平は3年前に妻が出て行ってしまったことを互いに話す…。
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