日本各地で起きた村八分事件をもとに、実際に存在する“村の掟”の数々をリアルに描いた物語『嗤う蟲』。今回は本作で主演を飾った深川麻衣さんにインタビューさせていただきました。
<PROFILE>
深川麻衣(ふかがわ まい):長浜杏奈 役
1991年3月29日生まれ。静岡県出身。2017年、舞台“スキップ”で初主演を飾る。2018年、主演映画『パンとバスと2度目のハツコイ』でTAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。その他の主な出演作に、『愛がなんだ』(2019)、『水曜日が消えた』(2020)、『今はちょっと、ついてないだけ』(2022)、 『パレード』(2024)などがある。『おもいで写眞』(2021)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(2023)では主演を飾った。また、舞台“他と信頼と”、朗読劇“ハロルドとモード”(2024)など、幅広く活躍中。
杏奈の気持ちをすごく理解できました
シャミ:
田舎に移住した夫婦が、最初はスローライフを楽しみつつも、次第に村人と村の掟に縛られていく物語が描かれていました。最初に本作の脚本を読んだ時に物語や杏奈というキャラクターにどんな印象を持ちましたか?
深川麻衣さん:
元々ミステリーやサスペンス作品が好きでよく観るのですが、この物語で村人達が隠している秘密や展開は、今までありそうでなかったと思いました。一見非日常的にも感じますが、城定監督と脚本の内藤さんが観る方に物語をリアルに感じてもらいたいという想いから良い塩梅を探って作り上げた作品なんです。だから、もしかしたら本当にどこかで起こっているかもしれないと感じられる不穏さがあり、その着眼点がすごくおもしろいと思いました。
杏奈については、彼女が見ている目線がわりと中立的というか、村人達に対して少し怪しいなという目線を送っているんです。そして、途中から夫も信用できない状態になっていくなかでも、結構冷静に物事を見ているなと思いました。後半は、大切なものを守り抜く母としての強さに変わっていくので、そういう部分は演じる上でも意識していました。
シャミ:
杏奈がどんどん頼もしくなっていく姿は、とても応援したくなりました。本作は、日本各地で起きた村八分事件をもとに、実際に存在する“村の掟”の数々をリアルに描いた物語となっているそうですが、監督と事前に物語や役について話し合ったことはありますか?
深川麻衣さん:
衣装合わせのタイミングで作品について監督とお話をする機会がありました。その時に杏奈と輝道という夫婦を完全な善人に見せたくないというお話を聞きました。もしこの夫婦が完全な善人だったら、村人達に追い詰められて可哀想な2人という見え方になると思いますが、監督や内藤さんとしては白黒はっきり描くよりも、どちらにもグレーな部分があるという風に描いたそうです。だから、村人も少し度を越しているところがあるし、杏奈達夫婦も完全な善人ではなく、どちらにも同情できる部分があるんです。例えば杏奈が村人の親切に対して失礼な行動をとってしまう場面がありますが、見方によっては「そういう行動をしても仕方ない」と思う方もいれば、「そんなことをしなくてもいいのに」と思う方もいると思います。そういったことを監督から事前に聞いていたので、演じる上でも常に頭にありました。
シャミ:
確かにそうですね。観ていてとても考えさせられました。
深川麻衣さん:
そうなんです。杏奈達も普通に嫌悪感を顔に出すし、逆に2人が移住してこなければ村人達にとっての平和が保たれたまま変わらずにいられたのかもしれません。
シャミ:
杏奈を演じる上で、事前に準備したり、特に気をつけたことは何かありますか?
深川麻衣さん:
準備面では、母親としての所作を一番意識しました。今までも何度か母親役を演じたことがありますが、赤ちゃんとここまで長い時間を一緒に撮影で過ごしたのは今回が初めてでした。泣いている赤ちゃんを抱っこしてあやす際、まだ首も据わってないぐらいの月齢なので、絶対に安全に抱っこしないといけないわけです。赤ちゃんにとっても居心地が悪い状態で抱っこしていると泣いてしまうので、スタッフの方が用意してくださった実際の赤ちゃんと同じ重さの人形で練習しました。劇中に赤ちゃんを抱っこして走るシーンがありますが、そういった場面では安全のために人形を使っています。そういう所作は準備不足だとぎこちなくなりわかる人にはわかってしまうし、それで観ている方が冷めてしまうことは絶対嫌だったので、体に動きが馴染むよう意識しました。
シャミ:
杏奈が最後まで諦めない姿勢は特に印象的でした。深川さんご自身が杏奈に特に共感した点や、ご自身と似ていると感じた点はありますか?
深川麻衣さん:
杏奈はイラストレーターの仕事をしていましたが、実は私も小さい頃からずっと絵を描くことが好きで、イラストレーターになることが夢だったんです。なので、今回の役を通して1つ夢が叶ったような感覚があります。あとは、警戒心の強さも杏奈と少しだけ似ているかもしれません。生まれたばかりの赤ちゃんを村人に次々と抱っこされるシーンでは、杏奈は会ったばかりの方にいきなりグッとこられて少し警戒心が働いていたので、私も杏奈と近い感覚があるなと思いました。
シャミ:
距離感を急に詰められると確かに警戒してしまいますよね。都会を離れて村に移住し、村の掟に従っていくことで、順風満帆だった夫婦関係に、少しずつ亀裂が入っていきました。深川さんご自身はこの夫婦関係についてどう捉えて演じていましたか?
深川麻衣さん:
輝道は、ある出来事をきっかけに自分で抱えて隠し通すしかない状態になってしまったので、たぶん杏奈のためにという想いもあったと思います。でも、だんだんと夫婦関係に亀裂が入ってしまい、彼しか頼れる人がいない状況でコミュニケーションがどんどんとれなくなり、自分の話を聞いてくれないとなると、それはそうなるよねと思いました。そういう杏奈の気持ちはすごく理解できました。
シャミ:
夫の輝道役の若葉竜也さんとは何か話し合ったことなどはありますか?
深川麻衣さん:
そんなに細かく話し合ったわけではありませんが、最初のほうに2人で話したのは、今回は村人の行動や発言を受けてリアクションを返す受け身の立場が多いので、私達までさらに強く個性を出そうとすると、そこで衝突してしまうというか、やり過ぎになってしまうので、あくまでリアクションや夫婦間での会話はナチュラルにしたいねという話をしました。なので、観る方がちゃんと自分達の日常の延長線上に感じてもらえるように、言葉遣いなどもリアルになるよう監督と3人で相談しながら作っていきました。
シャミ:
だからこそ異様な雰囲気の村人達と普通の夫婦とのコントラストが上手く出ていたのかもしれないですね。
深川麻衣さん:
そうですね。本当に村人の皆さんはパワフルでした。
シャミ:
田口トモロヲさんが演じられた田久保は村人の中でも特にインパクトが強く、観ていてとても怖かったです。現場で田口さんの演技を目の当たりにしていかがでしたか?
深川麻衣さん:
本当にすごい迫力でした。でも、撮影の合間のトモロヲさんご自身はすごく優しくて穏やかでとても紳士的で、「大丈夫ですか?やりづらくないですか?」と聞いてくださったこともありました。でも、田久保のスイッチが入ると、ガラリと変わるんです。
シャミ:
田久保の迫力があまりにすごかったので、田口さんが普段は優しくて紳士的な方だということがわかって、ちょっと安心しました(笑)。
深川麻衣さん:
本当に優しい方です!トモロヲさんは、元々パンクロックバンドをやられていたので、紳士的な人柄と何か奥底にあるロックさみたいなものが垣間見えて、言葉の使い方やワードセンスがとてもユニークでおもしろくて感動する場面も多くありました。
シャミ:
本作では村八分にならないために何とか村の掟に合わせながら生活をする夫婦の姿が描かれていました。深川さんご自身が普段人間関係を築く上で、気をつけていることや心掛けていることは何かありますか?
深川麻衣さん:
挨拶とコミュニケーションは大切にしたいと思っています。初めての現場や、最初の顔合わせの時に、スタッフの方々が集結してお一人ずつ挨拶してくださる時間があるのですが、初対面の方が大勢いるとすごく緊張してしまって、人の顔を見ているようでちゃんと見ていないなと感じることがあったんです。たぶん緊張を紛らわすためなのか、何か1枚壁を作ってしまっていたんです。それに途中で気がついてダメだと思い、それ以降気をつけています。撮影の合間もなるべくコミュニケーションをとれる時は、作品のことでもそれ以外でもお話できる時間は大事に思っています。そこで生まれるものやアイデアもあるので。コミュニケーションは好きだし、大事にしています。
シャミ:
お仕事柄初めての方と会う機会も多そうですね。
深川麻衣さん:
少し特殊な仕事ですよね。初めましてと出会って1つのものを作ったら解散して、その後に2回目、3回目と会える時もありますが、それ以降なかなか会えない方もいるので、本当に縁だなと思います。
シャミ:
今田舎移住は流行っていて、さまざまな地域に移住される方がいます。もし深川さんの傍に移住を考えている方がいたらどんなアドバイスをされますか?
深川麻衣さん:
「いいね!」と言うと思います。楽しそうですよね。環境を変えることは、すごく勇気のいることだけど、すべてがガラッと変わりますし、人生において結構大きな転機になると思うんです。だから迷っているなら、背中を押してあげたいです。実際に海外に移住した友達が多くいて、皆楽しそうにしています。私自身田舎が好きなので、国内の田舎移住も憧れますし、友達が引越したら遊びに行かせてもらうと思います。
アイドルとしてステージに立つこととお芝居をすることは別物
シャミ:
アイドルとして活躍された経歴もお持ちですが、最初に俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
深川麻衣さん:
最初にこの仕事がいいなと思ったのは、中学生の時に地元でドラマの撮影があり、それを見て興味を持ったのが1つのきっかけです。その後、明確に俳優としてやっていこうと思ったのは、グループ活動中にミュージックビデオの撮影でいろいろな映画監督とお仕事をする機会があったので、撮った映像がこういうテイストのものになるんだとか、作る過程にすごく魅力を感じました。皆で1つのものを作るという作業も好きです。グループの時にはお芝居できる機会が少なかったので、一からお芝居の勉強をして、映像のお仕事に携わりたいと思ったのがきっかけです。そうやって仕事をしていくうちに、どんどん気持ちが固まっていきました。
シャミ:
先ほどのイラストレーターのお話もそうですが、もの作りそのものに興味をお持ちなんですね。
深川麻衣さん:
そうですね。もの作りは結構好きです。
シャミ:
今は俳優のお仕事をされていますが、監督や他の裏方のお仕事にも興味があるのでしょうか?
深川麻衣さん:
監督を自分がやっているのは全然想像できません(笑)。でも、コピーライターや広告のアイデアを出したりといったお仕事はやってみたかったです。
シャミ:
グループを卒業されて実際に俳優のお仕事を始める前と後で印象が変わったことはありますか?
深川麻衣さん:
アイドルとしてステージに立ってたくさんのお客さんに見られるということと俳優のお仕事は、ジャンルは違うけど一見同じ部分があると思います。よく「ライブを何回もやったことがあるから全然緊張しないでしょ」と言われることがありますが、本当にそんなことはなくて、自分の中では別物なんです。お芝居は役を作るということでは、自分ではないけど役の中にどこか自分の考えていることや自分自身が透けて見えるような気がするんです。もちろんアイドルの時も自分を作っていたという感覚はありませんでしたが、お芝居のほうがより恥ずかしく感じます。
シャミ:
なるほど〜。では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
深川麻衣さん:
映画なら『リトル・ダンサー』が好きです。自分が関わった作品でいうと、ドラマ『日本ボロ宿紀行』です。まだ今の事務所に入ったばかりの時に出演させていただいたドラマなんです。撮影日数やスケジュールは結構タイトだったのですが、皆で何か良いものを作ろうという熱量がすごくあるチームで、撮影中皆でいろいろなことを乗り越えた大変さも含めてすごく楽しかったんです。だから、この先自分が仕事をしていく上でもし辛いことがあったり迷ったりしたら、この作品のことを振り返ろうと思っています。原点回帰できるような大切な作品です。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2025年1月16日取材 Photo& TEXT by Shamy
『嗤う蟲』
2025年1月24日より全国公開
PG-12
監督:城定秀夫
脚本:内藤瑛亮/城定秀夫
出演:深川麻衣/若葉竜也/松浦祐也/片岡礼子/中山功太/杉田かおる/田口トモロヲ
配給:ショウゲート
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈は、脱サラした夫の輝道と共に都会から麻宮村に移住する。2人は、自治会長の田久保をはじめ、村民達の度を越えたおせっかいに辟易しながらもスローライフを満喫していた。そんななか杏奈は、村民達に不信感を抱くようになり…。
公式サイト
ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも
© 2024映画「嗤う蟲」製作委員会
本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年1月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。