今回は、2023年邦画ベストの投票で得たデータをもとに、因子分析を行いました。なかなか興味深い結果が出たように思います(笑)。
※説明が専門的になってしまう部分がありますので、ざっくりとした結果が知りたい方は、「まとめ」をご覧ください。
※データや方法については最後に記載しています。
因子分析結果
Figure1のスクリープロットをもとに2因子構造を想定して、最尤法、プロマックス回転で因子分析を行いました。下記Table2が結果です。
二重線は第1因子の因子負荷量が高く出た作品と第2因子の因子負荷量が高く出た作品の境界です。いずれかの因子負荷量が0.35以上ある作品について、第1因子を緑、第2因子を水色で色付けしています。ただし、どちらか一方だけの因子から影響を受けているわけではなく、程度や正負は違えどもう一方の因子からも影響(=負荷)を受けています。そして、参考までに因子負荷量が両因子で0.35未満の作品や、第1因子と第2因子両方の因子負荷量が同程度のものは黄色で色付けしました。
それから、第1因子、第2因子にはどのような特徴があるか考えてみました。なんとな〜くそれぞれに傾向がありそうな匂いがします(笑)。そこで、作品毎の配給会社、監督、俳優、R指定やPG-12の有無と照らし合わせてみました。
まず、作風や、監督の知名度、主演やメインキャストの年齢層、R指定やPG-12の有無に違いがあるかを検討しました。一見、第1因子の作品はトーンが暗め、第2因子の作品はトーンが明るめで分かれているように見えながら、第2因子にもシリアスな作品やホラーが含まれています。出演俳優の年齢層や知名度からターゲットの年齢層で考えても、違和感が残ります。
次に配給会社に着目したところ、一番わかりやすい傾向が見えました。Table2の一番右の列をご覧ください。第1因子にはインディペンデント系配給会社の作品が多く含まれ、第2因子にはメジャー系配給作品が多く含まれています。よって、第1因子を「インディペンデント系好き」、第2因子を「メジャー系好き」と命名しました。敢えて「〜企業」ではなく「好き」と加えた意図は後述します。
※正確には(〜系企業配給の作品が好き)の意味で命名していますが、長くなるので略しています。
どこまでを「メジャー系」企業に入れるかは諸説あるなか、ここでは邦画メジャー系を、一般社団法人日本映画製作者連盟の主体となる大手4社【東宝・東映・松竹・KADOKAWA】と定義します。ワーナー・ブラザース映画は洋画メジャーでありながら邦画にも力を入れています。ここでは全部含めて「メジャー系」と捉えて、以下説明を続けます。
まず、「インディペンデント系好き」は超大作以外にも中規模作品やミニシアター系作品、少しクセのある作品まで好む因子と考えました。「メジャー系好き」は、主に超大作映画を好むと仮定します。
第1因子にも、メジャー系企業の配給作品があります。ただ、『首』は北野武監督作、『ミンナのウタ』は清水崇監督作、『シン・仮面ライダー』は、庵野秀明が監督を務め、池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、塚本晋也、松尾スズキといった映画領域で主に活躍する俳優がメインキャストである点で、「インディペンデント系好き」に入っていても自然です。
一方、「メジャー系好き」側に入っている、ハピネットファントム・スタジオ配給の『隣人X -疑惑の彼女-』は、上野樹里が主演、パリュスあや子の原作「隣人X」は小説も漫画もある点で、メジャー系配給作品の特徴を有していると考えられます。
また、黄色の色付けをした『正欲』『レジェンド&バタフライ』『怪物』『銀河鉄道の父』『ちひろさん』『春に散る』『大名倒産』には、インディペンデント系、メジャー系両方の企業が配給している作品が混在しており、ハッキリと特徴が出なかったと考えられます。
因子名を「〜系企業」ではなく、「〜系好き」と付けたのは、インディペンデント系企業の配給でもメジャー系企業の配給でも一部毛色が異なる作品があり、実際のところ一般の映画ファンの皆さんが配給会社まで意識して映画を選んでいるとは考えにくいからです。とはいえ、上映館や館数、宣伝規模などから大作感を感じたり、監督や俳優陣から鑑賞頻度が高めの映画ファンに好まれたりと、何となく匂いを嗅ぎ分けている可能性はあると考えられます。
作品同士の相関分析、映画鑑賞頻度、出演者・監督の参考度との相関分析結果→こちら
まとめ
- 2023邦画ベスト50作品を因子分析した結果、「インディペンデント系好き」「メジャー系好き」の2因子が見られた。
データ:映画研究4:映画好きが選ぶ2023邦画ベスト
回答期間:2023/12/25〜2024/01/30
回答数:10代を含む367名の女性
<方法>
アンケートの中で下記の問いに対して、6択で答えていただきました。
Q:それぞれの作品について、該当する項目にチェックを入れてください
5点=観た上でとても好き
4点=観た上でやや好き
3点=観た上でふつう
2点=観た上であまり好きではない
1点=観た上でまったく好きではない
0点=観ていない
上記の回答データをもとに、因子分析(最尤法、プロマックス回転)と相関分析を行いました。
※帰無仮説の有意水準:0.05(=5%)
※効果量の参考文献:水本篤,竹内理(2008)「研究論文における効果量の報告のために―基礎的概念と注意点―」英語教育研究,31:57-66
※HADを使った分析
HAD開発者及び著作者:清水裕士 (2016 ). フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提案 メディア・情報・コミュニケーション研究, 1, 59-73
注目の作品
『ほつれる』
2024年4月3日ブルーレイ&DVD発売
監督・脚本:加藤拓也
出演:門脇麦/田村健太郎/染谷将太/黒木華/古舘寛治/安藤聖/佐藤ケイ/金子岳憲/秋元龍太朗/安川まり
映画に隠された恋愛哲学とヒント集72:浮気の根源はどこにある?
Amazonでブルーレイを購入する Amazonプライムビデオで観る U-NEXTで観る
©2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINÉMAS
『ミンナのウタ』
監督:清水崇
出演:GENERATIONS(白濱亜嵐/片寄涼太/小森隼/佐野玲於/関口メンディー/中務裕太/数原龍友)/早見あかり/穂紫朋子/天野はな/山川真里果/マキタスポーツ
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定 恐怖の波が押し寄せる!2023年ホラー特集
Amazonでブルーレイを購入する U-NEXTで観る
©2023「ミンナのウタ」製作委員会
TEXT & ANALYSIS by Myson(武内三穂)
本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年3月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。