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あのこは貴族
良家に生まれた華子は、20代後半にして結婚を考えていた恋人と別れ、家族に早く相手を探して結婚するように促されていた。切羽詰まった華子は、いろいろな手段で恋人を探そうとするがなかなか見つからず諦めかけていた矢先、理想の男性に出会い、とんとん拍子に話が進んでいくが…。
医者の娘である華子は、東京で何不自由なく育てられ、親が望む道を歩むことに素直に応じているように見えます。周囲の友達も裕福な人ばかりで、通う店も上品なところばかり。そういう意味で華子が意識的に上流階級の人を相手に選ぶつもりでなくても、生理的なところで上流階級の人としか付き合えないようになってしまっています。それがある意味彼女の選択肢を狭めている要因にもなっているのですが、だからといって良家の子息であれば誰でも良いわけではなく、華子がちゃんと恋愛をして相手を選ぼうとしているところで、彼女も他の女の子と同じです。
でも、彼女のなかでは家族に反対されるような人を選ばないというのは恐らく徹底されていて、かなり条件が厳しくなっている状況。それでも理想の男性に出会うという展開はまさにシンデレラストーリーですが、そこで終わらないのが現実です。前半は素敵なラブストーリーに見えますが、途中からどこからどこまで恋愛感情があったのかが曖昧に見えていきます。相手にとっても華子は条件に見合う女性ということで、縁談はとんとん拍子に進んでいきますが、華子が目をつむっておけない疑惑が浮上し、問題は一旦物理的に解決したように見えつつ、華子のなかで別の感情が芽生え、どこかに違和感を持ったまま生活しているのだということが伝わってきます。
彼女に何が起きるのかは、本編を観ていただくとして、本作ではあくまで良家のお嬢様という設定になってはいるものの、この状況は誰にでも起こりえることだと感じます。一昔前は、高身長、高学歴、高収入といった条件の男性がもてると言われたり、今でもステータスで相手を選ぶというスタンスの人はいますが、条件で選ぶということは、条件を出した自分もその条件に縛られるということではないかと思います。裏を返すと「お互いにその条件を満たしていれば良いということですよね」という契約を交わしたようなもので、相手に愛は二の次三の次と思わせてしまう可能性もあります。本作のストーリーは、良家に生まれ育った男女の運命を描きつつ、華子以外にもさまざまな背景を持った女性キャラクターが登場することで、階級の話だけではない部分も描かれています。なので、本作はただ家柄だけのお話というわけではなく、ラストの展開を観ると、周囲が押し付ける価値観や条件から解放されてはじめて、一人の人間として自分が本当に望むものが見えてくることを教えてくれます。条件に縛られない、自立した人間になった時、改めて自分が望む恋愛が見つけられれば、本当にハッピーになれるのかもしれませんね。
『あのこは貴族』
2021年2月26日より全国公開
東京テアトル、バンダイナムコアーツ
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
TEXT by Myson