特集

映画に隠された恋愛哲学とヒント集64:条件を付ければ、自分も条件に縛られる

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『あのこは貴族』門脇麦/高良健吾

ネタバレ注意!

あのこは貴族

良家に生まれた華子は、20代後半にして結婚を考えていた恋人と別れ、家族に早く相手を探して結婚するように促されていた。切羽詰まった華子は、いろいろな手段で恋人を探そうとするがなかなか見つからず諦めかけていた矢先、理想の男性に出会い、とんとん拍子に話が進んでいくが…。

映画『あのこは貴族』門脇麦

医者の娘である華子は、東京で何不自由なく育てられ、親が望む道を歩むことに素直に応じているように見えます。周囲の友達も裕福な人ばかりで、通う店も上品なところばかり。そういう意味で華子が意識的に上流階級の人を相手に選ぶつもりでなくても、生理的なところで上流階級の人としか付き合えないようになってしまっています。それがある意味彼女の選択肢を狭めている要因にもなっているのですが、だからといって良家の子息であれば誰でも良いわけではなく、華子がちゃんと恋愛をして相手を選ぼうとしているところで、彼女も他の女の子と同じです。

映画『あのこは貴族』高良健吾

でも、彼女のなかでは家族に反対されるような人を選ばないというのは恐らく徹底されていて、かなり条件が厳しくなっている状況。それでも理想の男性に出会うという展開はまさにシンデレラストーリーですが、そこで終わらないのが現実です。前半は素敵なラブストーリーに見えますが、途中からどこからどこまで恋愛感情があったのかが曖昧に見えていきます。相手にとっても華子は条件に見合う女性ということで、縁談はとんとん拍子に進んでいきますが、華子が目をつむっておけない疑惑が浮上し、問題は一旦物理的に解決したように見えつつ、華子のなかで別の感情が芽生え、どこかに違和感を持ったまま生活しているのだということが伝わってきます。

映画『あのこは貴族』門脇麦/高良健吾

彼女に何が起きるのかは、本編を観ていただくとして、本作ではあくまで良家のお嬢様という設定になってはいるものの、この状況は誰にでも起こりえることだと感じます。一昔前は、高身長、高学歴、高収入といった条件の男性がもてると言われたり、今でもステータスで相手を選ぶというスタンスの人はいますが、条件で選ぶということは、条件を出した自分もその条件に縛られるということではないかと思います。裏を返すと「お互いにその条件を満たしていれば良いということですよね」という契約を交わしたようなもので、相手に愛は二の次三の次と思わせてしまう可能性もあります。本作のストーリーは、良家に生まれ育った男女の運命を描きつつ、華子以外にもさまざまな背景を持った女性キャラクターが登場することで、階級の話だけではない部分も描かれています。なので、本作はただ家柄だけのお話というわけではなく、ラストの展開を観ると、周囲が押し付ける価値観や条件から解放されてはじめて、一人の人間として自分が本当に望むものが見えてくることを教えてくれます。条件に縛られない、自立した人間になった時、改めて自分が望む恋愛が見つけられれば、本当にハッピーになれるのかもしれませんね。

映画『あのこは貴族』門脇麦/水原希子

『あのこは貴族』
2021年2月26日より全国公開
東京テアトル、バンダイナムコアーツ
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『HERE 時を越えて』トム・ハンクス/ロビン・ライト HERE 時を越えて【レビュー】

映像作家としてあらゆる挑戦を行ってきたロバート・ゼメキス監督は、本作でも新たな挑戦の成果を見せてくれています…

映画『アンジェントルメン』ヘンリー・カヴィル/エイザ・ゴンザレス/アラン・リッチソン/ヘンリー・ゴールディング アンジェントルメン【レビュー】

本作は「近年機密解除された戦時中の極秘ファイルを後ろ盾にしたダミアン・ルイス著 『Churchill’s Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWII』」を原作としており…

映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年3月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年3月】のアクセスランキングを発表!

映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス 社会的成功が本当の幸せをもたらすとはいえない事例【映画でSEL】

昨今、ウェルビーイングという概念が広まりつつあり、社会的な成功は必ずしも幸福をもたらすとは限らないという見方も出てきました。その背景を、「自己への気づき」(SELで向上させようとするスキルの一つ)に紐づけて考えてみます。

映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶 片思い世界【レビュー】

広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務める本作は、『花束みたいな恋をした』の脚本を手掛けた坂元裕二と、土井裕泰監督が再タッグを組んだ…

映画『神は銃弾』マイカ・モンロー マイカ・モンロー【ギャラリー/出演作一覧】

1993年5月29日生まれ。アメリカ出身。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』 ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース【レビュー】

“ハッピー”や“ゲット・ラッキー”をはじめとする大ヒット曲を多数生み出し、他のビッグ・アーティストへの楽曲提供やプロデュースでも並外れた偉業を成してきたファレル・ウィリアムスの人生が初めて映画化…

映画『ANORA アノーラ』ユーリー・ボリソフ ユーリー・ボリソフ【ギャラリー/出演作一覧】

1992年12月8日生まれ。ロシア出身。

映画『片思い世界』公開直前イベント、広瀬すず/杉咲花/清原果耶/土井裕泰監督 存在するということに対しての肯定を、ここまで実験的に描いた物語もなかなかない『片思い世界』公開イベントに広瀬すず、杉咲花、清原果耶が揃って登壇

劇場公開を目前に控え、本作でトリプル主演を務めた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶と、土井裕泰監督が舞台挨拶に登壇しました。

映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ おいしくて泣くとき【レビュー】

タイトルを聞いただけで泣いちゃいそうな作品だと予想できるので、逆に泣かないぞと…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス
  2. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  3. 映画『風たちの学校』

REVIEW

  1. 映画『HERE 時を越えて』トム・ハンクス/ロビン・ライト
  2. 映画『アンジェントルメン』ヘンリー・カヴィル/エイザ・ゴンザレス/アラン・リッチソン/ヘンリー・ゴールディング
  3. 映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬
  4. 映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶
  5. 映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

PRESENT

  1. 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード
  2. 中国ドラマ『北月と紫晴〜流光に舞う偽りの王妃〜』オリジナルQUOカード
  3. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
PAGE TOP