ネタバレ注意!
今回は、『窓辺にて』を例に考えてみました。
浮気を知っても怒りや哀しみがわかないのは、おかしい?
皆さんに交際中もしくは結婚しているパートナーがいたとして、その人が浮気をしたら腹が立ったり、悲しくなりますか?ここで一度、リアルに想像してみてください。どんな気持ちになったとしても、その上で『窓辺にて』を観てみると、自分を客観視できるでしょう。ただ、ここから先は内容に少し触れるので、真っ新な状態で映画を観たい方は、観終わってから下記を読んでいただければと思います。
映画『窓辺にて』の主人公、フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、誰にも言えない悩みを抱えていました。彼は、妻の紗衣(中村ゆり)が浮気をしていることに気付いていながら、見て見ぬふりをしています。でも、彼の悩みは、妻の浮気ではありません。問題は彼が妻の浮気を知った時の自分の反応でした。
この作品には、他にもカップルが出てきます。そのキャラクター達は恋愛感情として想像される通りの例として観ることができます。「好きな人が浮気をしているのを知ったら、ショックを受けるに決まってる!」という感覚の人達です。でも、彼等の中でも反応はいろいろあります。異性との関係を勘ぐってわかりやすくヤキモチを焼くタイプもいれば、事実を知ってショックを受けても心に秘めておくタイプもいます。相手を好きだから怒る、相手を好きだから別れを恐れて黙っている、どちらもいるのです。だから、浮気の事実を知ってもそのままにしておくというだけでは、好きではない証拠にはなりません。
主人公の本当の問題は、妻の浮気を知っても怒りや哀しみのような感情がわかなかったことです。多くの方はここで「それは、好きじゃない証拠じゃない?」と思うかもしれません。でも、本当にそうなのでしょうか。劇中では、彼のこの感情の解釈を巡って、さまざまなキャラクター達のやり取りが描かれています。
ここからは、私の解釈です。妻に浮気をされても動じなかった主人公のパーソナリティを考えてみました。
A:彼は何でも物事を俯瞰して見てしまう。
自分のことなのに、俯瞰して見てしまうことで、あまりに客観的になってしまう。感情より先に物事を解釈してしまう。
B:人の感情や思考に寛容
作家として小説を書いたことがあり、フリーライターである彼は、人や人の心情について興味や理解がある。だから、人のどんな感情や思考も理解しようとしたり、受け入れようとする。それゆえに、相手の心情を汲み取って「それなら仕方がない」という結論を出してしまう。
AとBどちらかなのかもしれないし、単純に本当に妻を愛していなかったのかもしれません。でも、私の解釈では、AとB両方で、彼は彼なりに妻を大事に思っていたのではないかと思います。
だから、「浮気を知った時の反応は、自分の本心の表れなのか?」の結論として、私の答えは「ノー」です。人間はそんなに単純なものではないといったらそれまでですが、本当にそうだと思います。
『窓辺にて』は、主人公が抱える悩み=謎に迫る見事な会話劇です。燃えるような恋をしたことがないとか、あまり感情が動かないというような悩みがある方は特に共感する内容なのではないでしょうか。同時に、そういうタイプの人を好きになって悩んでいる方にもオススメです。ぜひ観ながら自分の気持ちも見つめ直してみてください。
『窓辺にて』
2022年11月4日より全国公開
東京テアトル
公式サイト
©2022「窓辺にて」製作委員会
TEXT by Myson