ネタバレ注意!
週末婚、事実婚という言葉が生まれたように、結婚のスタイルも多様化してきました。とはいえ、依然として“結婚”という概念には縛りがあります。今回は、『夜、鳥たちが啼く』『散歩時間~その日を待ちながら~』を例に考えてみました。
結婚してるのに
『散歩時間~その日を待ちながら~』は、2020年のコロナ禍を舞台に、年代も職業も異なるキャラクター達の日常を描いています。登場人物の1人、亮介(前原滉)は、ゆかり(大友花恋)と婚約したものの、コロナの影響で結婚式を挙げられず、友人宅でお祝いをしてもらうことに。でも、友人宅に向かおうとする2人には何だか不穏な空気が流れています。ゆかりは、亮介に対して何か不満を抱いている様子。その真相が徐々に明らかになっていきます。
端から見ると亮介はゆかりを気遣い、努力しているように見えます。でも、ゆかりは亮介のそういった態度で余計に彼の本心がわからなくなっているようです。また、ひょんなことからゆかりは自分が亮介からまだ聞かされていない事実を友人達から聞いてしまい不安に陥ります。
きっと、ゆかりからすると結婚したのになぜそんなに大事なことを私には言わないのかと思っていることでしょう。一方、亮介からすると奥さんだからこそ心配をかけたくなくて言いづらいという思いがありそうです。亮介からすると、ずっと黙っているつもりではなくタイミングを見計らっているとも考えられます。でもゆかりからすると、大事なことなのに自分よりも友人達が先に知っているということが腹立たしいと感じたのもわかります。
まだ2人が恋人同士の関係だったら、どうだったのでしょうか。もちろん、結婚しているからといっていつどうやって報告、相談するかは人それぞれでしょうし、恋人同士だから1人で何でも決めてよいということでもありません。ただ、夫婦という関係性に変わったことで、恋人同士だった時とは違う期待や不安、不満が生まれてしまう可能性はあるでしょう。
結婚していないのに
『夜、鳥たちが啼く』は、半同居生活を送ることになった、彼女に去られた慎一(山田裕貴)と、夫に裏切られ離婚したシングルマザーの裕子(松本まりか)の物語です。この物語には、慎一とかつての恋人(中村ゆりか)との回想シーンが織り込まれいます。ここでは慎一と元彼女の関係にフォーカスしたいと思います。小説家としてまだ生計を立てられていない慎一は、恋人と一緒に暮らしていましたが、彼女と彼女の勤め先の店長との関係を疑い、嫉妬に狂っていきます。
嫉妬で彼女に一方的に不満をぶつける慎一と彼女のやり取りに興味深いセリフがあります。結婚を前提に一緒に暮らしているつもりの彼女は、このまま自分達が関係を続けられるのか不安だということ、自分が生計を支えているのに勝手に嫉妬されて仕事ができなくなれば生活できなくなるということを慎一に伝えます。この2人のやり取りの中で、「結婚していないのに」というキーワードが出てきます。
具体的なセリフは敢えて書かずにおきますが、「結婚していないのに」2人が生活できるように働いている彼女が、慎一に将来への不安を口にしたり、現実を突きつけるのも納得です。一方で、「結婚していないのに」先のことを今聞かれても答えようがない慎一の立場も、わがままだとは思いつつわからなくもありません。ただ、いずれにせよ結婚しているかしていないかというところでお互いに期待していいライン、期待してほしくないラインができてしまっているのでしょう。実は慎一と元彼女との関係だけでなく、後半の物語にも結婚しているかどうかが要になってくる展開があります。本作は自分の結婚観を振り返るスタンスで観ても参考になる作品です。
当たり前のことですが、結局はお互いが結婚という枠組みをどう捉えるかが一致するかしないかの問題です。結婚していること、結婚していないことを、その時点で2人がどちらを前向きに捉えられるか、タイミングも重要なポイントです。日本でも結婚するのが当たり前という時代ではなくなってきています。だからといって単純な問題ではありませんが、“結婚”という言葉に振り回されずに、2人の関係で何を1番大事にしたいかをすりあわせるのが先決ではないでしょうか。
『夜、鳥たちが啼く』
2022年12月9日より全国公開
R-15+
クロックワークス
公式サイト
© 2022 クロックワークス
『散歩時間~その日を待ちながら~』
2022年12月9日より全国公開
ラビットハウス
公式サイト
©︎2022「散歩時間~その日を待ちながら~」製作委員会
TEXT by Myson