学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画33:わかっていてもやめられない心理【強迫症】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『整形水』

映画『整形水』は、容姿に強いコンプレックスを持つ主人公が、ある事がきっかけで瞬時に変身を遂げられる怪しい薬“整形水”を手に入れ、人生を狂わせてしまう物語です。

心も身体も健全な状態で自分を変えられるなら良いですが、本作の主人公が劇的に変身を遂げた背景には、暗い事情があります。エンタテインメントとしては、美への執着という広範な捉え方でストーリーを楽しむということで良いと思いますが、現実社会でここまでの精神状態に陥っている方がいたとしたら、心の病気を心配したほうが良いかもしれません。これはあくまで私の解釈ですが、主人公の状態は強迫症に近いと思います。

映画『整形水』

強迫症(Obsessive-compulsive disorder:OCD)とは、強迫観念や強迫行為からなる障害。強迫観念とは、「反復的、持続的な思考、衝動または心像」、強迫行為は、強迫観念に伴って出現する「反復的行動、心の中の行為」と定義されています(丹野ほか,2015)。強迫行為の例としては、1回に2時間かけて何度も手を洗うといった行為が挙げられます。

強迫観念自体は健常者でも体験するものですが、精神疾患といえるレベルかどうかの判断基準の1つとして、「1日1時間以上の時間を消費するもので、学業や職業上の社会的機能を阻害し、治療の対象になるような強い苦痛が生じる」ということが挙げられます。強迫症は男性では6〜15歳で発症、女性では20〜29歳で発症することが多く、3分の1から3分の2は何らかのストレスの後に発症するとされています。成人40人に1人の割合で見られ、半数以上は女性であると言われており、世界的に見ても有病率はほとんど同じで、文化差はあまりないと見られています(丹野ほか,2015)。

端から見れば些細に思える外見の特徴(本人にとっては欠陥)にとらわれ、それが臨床的に意味のある苦痛を与え、社会的、職業的な領域など重要な領域において機能障害を起こしている“醜形恐怖症”も強迫症の中に分類されます。『整形水』の主人公は前述したような事柄に多く当てはまり醜形恐怖症であると考えられ、“整形水”への依存が強まるほど、その症状が強く出てきます。

映画『整形水』

『整形水』の主人公については客観的に見て不健康で異常なのは明らかなので、気持ちの持ちようで解決できることを期待してしまいますが、本人がそれまでに体験してきた辛さは他人には計り知れません。だからこそ安易に「そのままのあなたで良い」と言うのは、他人事だから言えることであり、本人にとっては何の解決にもならず余計に孤立させることになり、無責任であるようにも思います。

また、強迫症は本人がおかしなことをしていると自覚していることも多く、他者との関係も悪くなるケースが多いことから、治療を求めづらいとされています。治療を受けるまでの期間は平均7年と長く、それほど長い期間苦しんでいるとなると想像を絶します。日常生活は何とか送れている状態だとなおさら精神疾患レベルなのかは判断しづらいですが、上記のような判断基準に近いなと思ったら迷わず専門家に相談してみることをオススメします。

<参考・引用文献>
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣

映画『整形水』

『整形水』
2021年9月23日より全国公開
PG-12

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

途中までは強迫症の症状などが出てきますが、ラストはもうその域を超えたところまでぶっ飛ぶ内容になっています。

©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年3月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年3月】のアクセスランキングを発表!

映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス 社会的成功が本当の幸せをもたらすとはいえない事例【映画でSEL】

昨今、ウェルビーイングという概念が広まりつつあり、社会的な成功は必ずしも幸福をもたらすとは限らないという見方も出てきました。その背景を、「自己への気づき」(SELで向上させようとするスキルの一つ)に紐づけて考えてみます。

映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶 片思い世界【レビュー】

広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務める本作は、『花束みたいな恋をした』の脚本を手掛けた坂元裕二と、土井裕泰監督が再タッグを組んだ…

映画『神は銃弾』マイカ・モンロー マイカ・モンロー【ギャラリー/出演作一覧】

1993年5月29日生まれ。アメリカ出身。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』 ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース【レビュー】

“ハッピー”や“ゲット・ラッキー”をはじめとする大ヒット曲を多数生み出し、他のビッグ・アーティストへの楽曲提供やプロデュースでも並外れた偉業を成してきたファレル・ウィリアムスの人生が初めて映画化…

映画『ANORA アノーラ』ユーリー・ボリソフ ユーリー・ボリソフ【ギャラリー/出演作一覧】

1992年12月8日生まれ。ロシア出身。

映画『片思い世界』公開直前イベント、広瀬すず/杉咲花/清原果耶/土井裕泰監督 存在するということに対しての肯定を、ここまで実験的に描いた物語もなかなかない『片思い世界』公開イベントに広瀬すず、杉咲花、清原果耶が揃って登壇

劇場公開を目前に控え、本作でトリプル主演を務めた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶と、土井裕泰監督が舞台挨拶に登壇しました。

映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ おいしくて泣くとき【レビュー】

タイトルを聞いただけで泣いちゃいそうな作品だと予想できるので、逆に泣かないぞと…

劇場版『トリリオンゲーム』今田美桜 今田美桜【ギャラリー/出演作一覧】

1997年3月5日生まれ。福岡県出身。

中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』オリジナルQUOカード(500円分) 2名様プレゼント

中国ドラマ『このロマンスはフィクションだから』オリジナルQUOカード(500円分) 3名様プレゼント

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス
  2. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  3. 映画『風たちの学校』

REVIEW

  1. 映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬
  2. 映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶
  3. 映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』
  4. 映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ
  5. 映画『ベイビーガール』ニコール・キッドマン/ハリス・ディキンソン

PRESENT

  1. 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード
  2. 中国ドラマ『北月と紫晴〜流光に舞う偽りの王妃〜』オリジナルQUOカード
  3. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
PAGE TOP