死刑囚として収監された女性“品川ピエロ”こと品川真珠(黒島結菜)と、児童相談所の職員である夏目アラタ(柳楽優弥)が獄中結婚し、事件の謎を解明していく『夏目アラタの結婚』では、知能検査が出てきます。ここでは代表的な知能検査をいくつかご紹介しましょう。
※ネタバレ注意!
知能検査と聞くと、多くの方はIQという単語が思い浮かぶかもしれません。ただ、支援のために心理臨床領域で使われる知能検査には目的や対象者によって異なる検査が複数あり、いわゆる勉強のテストで測るような“かしこさ”のテストではありません。また、巷にある心理テストとも全く違います。だから、受けたいといって誰でも受けられるテストでもなければ、検査する側が使いたいといって誰でも自由に使えるものでもありません。どのような場合に使われるかといえば、発達障害、精神疾患、認知症性疾患などの疑いがあり、有資格の臨床家が検査を必要と判断した場合に、アセスメントの一環として用いられます。
ちなみに心理臨床領域でいう「心理アセスメント」では、「医師の『診断』とは異なり、クライエントの利益の優先を第一義とした心理臨床家特有の作業」と定義されています。心理アセスメントは、「遺伝要因や身体的既往、人格や発達といった心理学的視点、そして当人や集団を取り巻く社会的な視点」、つまり、「生物・心理・社会」の3つの側面で捉え、さらに「3つの要因が重なる部分を検討することで、全体像をとらえることが可能になる」とされています(丹野ほか,2015)。
次に代表的な知能検査を紹介します。
以下、各知能検査の概要は、小海宏之(2019)より抜粋・要約したものです。
ビネー式知能検査
改訂版鈴木ビネー知能検査/田中ビネー知能検査Ⅴ
フランスのビネーとシモンは、「知的素質の正常児と異常児の鑑別診断を目的として、世界で初めての知能検査」を開発した。その後、ビネーの方法論を継承したターマンにより、スタンフォード版として「精神年齢÷生活年齢×100=知能指数」で算出されるよう再構成された。言語性IQ、非言語性IQともに、ワーキングメモリー、視空間処理、量的論理的思考、知識、結晶性論理的思考の5因子で構成される。日本では、鈴木ビネー知能検査と、田中ビネー知能検査がある。田中ビネー知能検査Ⅴは、2歳から成人まで適用でき、年齢の低い子どもが取り組みやすい問題から年齢が上がるにつれて徐々に難しくなるよう問題が配列されている。
※『夏目アラタの結婚』では検査の様子は出てきませんが、セリフからビネー式が使われたと考えられます。
ウェクスラー知能検査
ウェクスラー式幼児用知能検査(WPPSI)
日本版WPPSI(Wechsler,1967;日本心理適性研究所,1969)は、3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月を適用年齢として開発された。言語性検査(知識、単語、算数、類似、理解)と補充問題の文章、動作性検査(動物の家、絵画完成、迷路、幾何図形、積木模様)と再検査の「動物の家」で構成されていた。しかし、検査内容が時代にそぐわなくなり改良され、2017年に敢行された日本版WPPSI-Ⅲでは、適用年齢が2歳6ヶ月から7歳3ヶ月とされた。WPPSI-Ⅳは適用年齢が2歳6ヶ月から7歳7ヶ月である。
ウェクスラー式児童用知能検査(WISC)
WISC-Ⅳは、言語理解指標(VCI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、知覚推理指標(PRI)、処理速度指標(PSI)の4つの群指標とそれらの指標から全検査FIQを算出する。ただし、発達障害の中には読み書きに障害が見られるケースもあるため、WISCシリーズに読み書きに関する課題がない点は欠点と考えられている。そこで必要に応じて「改訂版 標準 読み書きスクリーニング検査」(宇野ほか,2017)などを併用することが望まれる。WISC-Ⅳの適用年齢は、5歳0ヶ月から16歳11ヶ月である。
言語理解指標(VCI):類似、単語、理解、知識、語の推理
ワーキングメモリー指標(WMI):数唱、語音声列、算数
知覚推理指標(PRI):積木模様、絵の概念、行列推理、絵の完成
処理速度指標(PSI):符号、記号探し、絵の末梢
ウェクスラー式成人知能検査(WAIS)
WAIS-Ⅳは、言語理解指標(VCI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、知覚推理指標(PRI)、処理速度指標(PSI)の4つの群指標とそれらの指標から全検査FIQを算出する。適用年齢は16歳から90歳。
言語理解指標(VCI):類似、単語、知識、理解
ワーキングメモリー指標(WMI):数唱、算数、語音声列(16〜69歳)
知覚推理指標(PRI):積木模様、行列推理、パズル、バランス(16〜69歳)、絵の完成
処理速度指標(PSI):記号探し、符号、絵の末梢(16〜69歳)
このように、知能検査と一言でいっても、何を目的としているかも違えば、構成や方法も違います。だからこそ、検査結果だけではなく、「生物・心理・社会」の3つの側面で捉えることが必要となります。
『夏目アラタの結婚』の結婚では、ある人物が子どもの頃に知的検査を受け、その結果が謎を解く鍵となっています。つまり、知能検査の不可解な点が真相にたどり着くヒントになります。検査結果以外の面で事実が隠されていたからこそ見えていなかった真相があります。まさに「生物・心理・社会」の3つの側面で捉え直すことで真相に近づいていきます。この点で、夏目アラタが児童相談所の職員である設定がとても効いています。どんな風に謎が解かれていくのか、乞うご期待。
<参考・引用文献>
小海宏之(2019)「神経心理学的アセスメント・ハンドブック 第2版」金剛出版
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣
Wechsler,D.(1967)Wechsler Preschool and Primary Scale of Inteligence. The Psychological Corporation, U.S.A. (日本心理適性研究所(1969)WPPSI 知能診断検査手引.日本文化科学社)
『夏目アラタの結婚』
2024年9月6日より全国公開
ワーナー・ブラザース映画
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
©乃木坂太郎/小学館 ©2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。