前回に引き続き、新型コロナウィルスの問題が人の心理に及ぼす影響について考えてみたいと思います。2020年3月現在、マスクの品薄状態が続いていますが、トイレットペーパーもなかなか買えない状況が続いています。トイレットペーパーについては、在庫が充分あり、買えなくなるという情報はデマであることが広く報道されたにも関わらず、まだ買えない状態が続いていますが、その背景には人のどんな心理が働いているのでしょうか。
<参考・引用文献>
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
堀洋道・吉田富二雄・松井豊・宮本聡介ほか(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところを含め、一部本記事筆者の考察を加えています。
誰もがデマに流されているわけではないからこそ厄介
人は他者の存在により、判断や態度など、他者や集団が示す標準や期待にそって、同一あるいは類似する行動をとることがあり、これを同調と言います。そこには本来の自分の判断、行動とは異なった態度をとるという意味も含まれています。
アッシュは、7人のグループの中で1人だけが実験参加者、他6人はサクラという状況で、見本となる標準線分と、長さが異なる3つの比較線分を用意し、標準線分と同じ長さのものを比較線分から選ばせるという実験を行いました。標準線分と同じ長さのものは見た目に容易に判断できるように設定されていたにも関わらず、サクラが故意に誤った選択をすると、実験参加者は多数派に同調する行動を示しました。この実験では、123人の実験参加者のうち、誤答のなかった者はたったの25%、全体として誤答率は37%となりました。この実験結果のように、明らかに正答がわかっていても、一部の人には集団、他者に同調する行動が見られます。
そこには、情報的影響、規範的影響が働いているとされています。情報的影響下では、より適切な判断、行動を起こそうとして、他者から得た情報を客観的事実の基準として受け入れます。一方、規範的影響下では、自己を集団規範に従わせることによって、周囲の状況に適合しようとします。
同調の大きさを左右する要因はいくつか考えられますが、今回の新型コロナウィルスの問題から、課題の性質という要因に着目してみます。課題の重要性、困難度、曖昧さが増すにつれて同調率は上がるとされていますが、まさに新型コロナウィルスの問題は重要度が高く、問題解決が困難で、飛び交う情報も曖昧なものが多数あります。こういった状況の中では、たとえ噂がデマだったとしても、“念のため”と思ってトイレットペーパーを買っておくという人が増えてしまうのもわかります。
また、大勢の人々の間で同調が起きる時、集合的無知の影響も考えられます。例えば、授業の中で「わからないことはありませんか?」と聞かれて、誰も手を挙げないとします。手を挙げると理解できていないことがバレてしまうからという同じ理由で、誰も手を挙げていないとしても、個々には「皆は理解できてるんだ。理解できていないのは私だけなんだ」と、自分と他者が同じ行動を取っているのに異なる結論を導き出してしまうような状況を、集合的無知と言います。
ここからは私の考察になりますが、デマに流されてトイレットペーパーを買うためにお店へ急行した人達がいるのはもちろんですが、それがデマだったと公表されてからしばらく経った今でもトイレットペーパーが容易に買えない状況なのは、「買えてないのは自分だけ?」という不安が増幅して、急を要してないのに買っておく人達が多いからということも考えられます。一方で、この状況を悪用して買い占めている人がいる、値上げを狙って故意に出し惜しみをしている業者や店があるということも考えられますが、非常事態だからこそ、皆判断力を失い、普段だったら絶対に許されない悪人の行為もまかり通ってしまうのでしょう。
感染系のパニックを描いた映画やドラマなどには、「なぜそんなことをしてしまうのかわからない」「なぜ、そんな理不尽な支配に従うかわからない」といった状況が多く描かれていますが、こういった人間の心理から考えると合点がいきます。そんなおかしな世の中にならないように、今私達個々が冷静になる必要性を感じます。
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視力を失うという深刻な感染症が発生し、患者達は強制的に隔離施設に収容されるが、施設内は患者で溢れかえり、食糧不足などの問題も生じてしまう。そんななか、ある男が“王”と名乗り、独裁政治を始める。目が見えない、何が起こっていて、この先どうなっていくのかがわからない状況下で、人はどういう反応を起こすのかを観ることができる。
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)