映画『ベイビー・ブローカー』来日記念舞台挨拶:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨン、是枝裕和監督
第75回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞(ソン・ガンホ)、エキュメニカル審査員賞を受賞した『ベイビー・ブローカー』のキャスト、スタッフが、劇場公開から3日目となる2022年6月26日に舞台挨拶を行いました。
ソン・ガンホは「この物語は日本と韓国に限った特別な話ではなく、私達が生きているなかで感じうるさまざまなことを伝えている物語だと思います。この映画を皆様に届けることができて、本当に今日は意味のある1日になっていると思います。アリガトウゴザイマス」と挨拶。カン・ドンウォンは、「コンニチハ、オヒサシブリデス。カン・ドンウォン、デス。キテイタダイテ、アリガトウゴザイマス。久しぶりに日本に来られて嬉しく思っています。映画をどうぞお楽しみください」と半分日本語で挨拶しました。
是枝監督は、「遡ると15年以上前に釜山の映画祭で、もし韓国で映画を撮るなら誰で撮りたいですかと聞かれた時にソン・ガンホさんのお名前を出させていただきました。そのインタビューを終えてエレベーターで帰ろうとしていたら、エレベーターが開いてソン・ガンホさんがいたんですよね。そんな偶然があって、何かご縁があるのだろうなと思っていたのですが、こういう形で作品に結実して、こんな素敵なキャストと日本の公開を迎えられたことを本当に嬉しく思っております。今日のこの日に集まっていただいた皆さん、ありがとうございます」と、エピソードを明かしました。15年も前の出来事というのが余計に運命を感じますね。
本作でオファーを受けた時の感想を聞かれたソン・ガンホは、「約6年前だったと思うんですが、釜山映画祭で初めてこのお話をうかがった時に、是枝監督の作品はすべて拝見していて、とてもファンでしたし尊敬している監督でしたので、是枝監督の新しい作品ということでとてもワクワクしてときめきました。そして、どんな役でもやらせていただきたい、光栄なことですとお話しました」と振り返りました。
是枝監督はどんな思いでオファーしたのかを聞かれると、「映画の中でソン・ガンホさんが初登場するシーンだけ最初に思い付いて、まずそこだけ書いたんですよね。その時はA4で3、4枚の短いショートストーリーだったんです。でも、その6年前のプロットにはソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさんの名前は書いていたので、それが夢が叶ってこういう形になりました」と明かしました。
カン・ドンウォンは2年続けて是枝監督の誕生日に一緒に過ごした話が出て、「良いことなのか悪いことなのかわからないんですけど、監督が誕生日をお一人でお過ごしになると聞いて、ご飯に誘いました」とコメント。是枝監督は「(お祝いしてもらって)良かったです」と答え、2人から笑顔がこぼれました。カン・ドンウォンの気遣い、素敵ですね。
赤ん坊の母親を演じたイ・ジウンは、「私が演じたソヨンというキャラクターにはさまざまな設定があります。映画をご覧になるとわかると思いますが、ソヨンというキャラクターを説明する修飾語は本当にいっぱいあると思うんです。その1つの修飾語だけではなく、さまざまな設定を立体的に表現できるようにということで、監督ともさまざまな会話をしましたし、そういったところを気にしながら演技をしました」と役作りについて語りました。
ベイビー・ブローカーを追う刑事役を演じたイ・ジュヨンは「私も是枝監督の前作の大ファンです。是枝監督、先輩の皆さんと一緒に仕事をすることができ、現場でたくさんのことを学んで感じる姿勢で臨みたいと思いました。撮影が終わって、プロモーションの時も本当に素晴らしい思い出、経験を積めていると思います。なので私にとっては、長く忘れられない思い出になる作品だと思います」とコメントしました。
是枝監督は、「ソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさんはこの作品を一緒にやる前から映画祭でご一緒したり、来日された時に僕が花束を渡す役をさせていただいたりという関係がもともとありました。ペ・ドゥナさんは前に1度映画を撮ってますし。なので、この3人に関してはアテ書きをしたのですが、イ・ジウンさんとイ・ジュヨンさんは、僕がコロナ禍で家で韓国ドラマにハマりまして、そこで観て本当に印象に残った2人なんです。韓国に渡ってオファーして夢が叶って、「本当にありがとうございます」という感じなんです(笑)。一番僕が幸せだった現場です。本当に理想的な思い描いた通りのキャスティングが実現しました。ありがとうございました(笑)」と照れながら語りました。
是枝監督のコメント受けてイ・ジウンは「監督は私の音楽や作品をご覧になってくださったとおっしゃっていただいたんですけど、私を知る前、実は韓国の食堂で監督を見かけたことがあるんです。その時から私は監督のファンでして、でも、監督は私のことを知らない状況だったので、挨拶したいなと思いながらもそのまま通り過ぎました。1年経った時に監督の映画に参加でき、監督が私の作品や音楽を知っているということで、すごく不思議な感じがしますし、とても気分が良いです」と監督との出会いを振り返りました。
また、イ・ジュヨンは「まだ映画について学んでいた大学生の頃、私は是枝監督の作品を釜山の国際映画祭とか韓国のシネキューブという映画館に観に行くような普通の学生でした。数年経って監督が私の作品を観たことがあるとおっしゃってくださって、私という俳優を知っていること自体、私にとっては本当に不思議な経験です。それだけでも幸せな気持ちになりますし、そのような気持ちで作品に参加することができました」と笑顔を見せました。
今回の来日についてソン・ガンホは、「昨日成田空港に着いたんですけど、イ・ジウンさんは日本でも有名で韓国でもスーパースターで、話に聞いたところ、今回の来日で実際に100人を超えるファンの皆さんが空港に集まっていました。でもカン・ドンウォンさんを見に来たのは3人でした。私は5人来てくださっていたんです。なので、とても気分の良い1日になりました(笑)」とカン・ドンウォンさんをいじり、会場の笑いを誘いました。これに対してカン・ドンウォンは「昨日、ソン・ガンホさんとこのことについてだいぶ長く話したんですが、ファンの皆さん、頑張ってください(笑)」と一言。さらにソン・ガンホは「ドンウォンさんはパリから来ていたんです。韓国からの飛行機ではなくパリからだったから、3人しかいらっしゃらなかったんだと言い訳を話していましたが、いずれにしても私は気分が良かったんです(笑)」と追い打ちをかけました。それに対してカン・ドンウォンは「初日の夕食の場で(ソン・ガンホに)“空港で何人のファンが待ってた?”と聞かれて、僕が3人ですと答えると、“俺は5人だったぞ!”と言われました」と返し、仲の良さを見せました。是枝監督によると、撮影現場でも2人はいつもこんな感じで、とても仲が良かったそうです。この空気感は映画の中でも滲み出ていますよ。
最後にソン・ガンホは、「日本の監督と韓国のキャストが一緒に作ったというのが大事だというよりは、この映画は日本人であっても韓国人であっても私達が生きているこの社会の私達の姿、隣人の姿、人生の価値が描かれた作品となっています。ですので国を超えて誰にとっても共有、共感できる暖かい物語だと思います。今日は貴重なお時間を割いて映画館に来て頂きましたが、皆さんにもその思いを受け取っていただいて共感していただける、そんな意味のある時間として記憶されて欲しいと願っています。今日はありがとうございました」とコメント。
是枝監督は「6年前に書いたプロットはとてもシンプルな話だったんですけど、実際にこの映画を作るためにソウルに渡って、ベビーボックスの周辺にいる方達の取材を重ねました。それがとても良かったと思っています。取材をすればするほど、この物語が人間の命をどういう風に考えるべきなのか、それを登場人物達が悩む話だなと、最初に自分が思い描いた話からちょっとずつ変わっていきました。撮影を始めてからも変わっていくプロセスを経て、今日これから皆さんに観ていただく作品になっています。いつも僕の映画はそうかもしれませんが、明快な答えが最後に待っているというよりは、登場人物達と同じように観た方達も旅を続けながら、1人の赤ちゃんの運命を一緒に考えていただけたら嬉しいです。楽しんでください」と締めました。
本作は、一筋縄ではいかない問題を提起しており、さまざまなキャラクターのさまざまな面を通して、人の幸せにはいろいろな形があることを教えてくれます。今回の舞台挨拶で語られた通り、監督、キャスト皆の夢が叶った作品というところでも、ぜひ多くの方に観て欲しい1作です。
映画『ベイビー・ブローカー』来日記念舞台挨拶:
2022年6月26日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『ベイビー・ブローカー』
2022年6月24日より全国公開中
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
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