映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』来日ジャパンプレミア:ウィレム・デフォー、ジュリアン・シュナーベル監督/リリー・フランキー(花束ゲスト)
名優ウィレム・デフォーと、『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュナーベル監督がタッグを組んだ『永遠の門 ゴッホの見た未来』が2019年11月8日より劇場公開。今回、本作のPRのために、2人が来日しました。登壇したシュナーベル監督は「アリガトウ(日本語で)。ゴッホはずっと日本に来たがっていました。彼の代わりに私が日本に来ました。ある意味でゴッホを一緒に連れてきました。私の隣の人(ウィレム・デフォー)はスーツを着ていて麦わら帽子じゃないんですけどね」と挨拶しました。そして、脚本を書いて演出を一緒にやった奥様のルイーズさんが3階席にいたので、彼女の功績を称えました。監督ご自身が「美女と野獣ですけども」というジョークを飛ばしていましたが、舞台挨拶中のお話には愛妻家ぶりが溢れていました。
画家としても著名なシュナーベル監督は、ゴッホをテーマに映画を撮ろうと思ったきっかけを聞かれると、「作らざるを得なかったんです。実は最初はフィンセント・ファン・ゴッホの作品は作りたくなかったんです。というのは既にゴッホについての映画がたくさん作られていたので、それ以上必要ないと思ったんです。でも必然的にやらなければいけないということになりました。彼の作品は何かとても純粋なものにたどり着くまでの乗り物だと思うんです。妥協が全くない。それがアートの本質だと思うんです。純粋にそれをやりたいという欲望だけ。このゴッホについての映画を作るプロセスのなかで、芸術を作るプロセスについての映画を作りました。絵画であれ、演技であれ、映画作りであれ、私達は自分達をその本質に差し出すんですね。それが芸術です。つまり芸術があり、それ以外があるということです。皆さんはこの映画を観て、フィンセント・ファン・ゴッホの映画ではないとおわかりになると思います。皆さんがフィンセント・ファン・ゴッホになるんです。なので皆さんご自身の映画です。フィンセント・ファン・ゴッホの映画を観るというのではないんです。それがこの映画を作るのに重要な理由だと思いました」と答えました。
世界中誰もが知るゴッホを演じたウィレム・デフォーは、感想を聞かれると「ジュリアンとは長いこと友人関係です。実際に撮影に入ったら、自分で絵を描かなくてはいけない。絵を描くシーンがたくさんあるんですが、吹き替えの方がやっているのではなく、自分でやっています。そして実際にゴッホがいた場所で撮影ができるということを知っていました。ジュリアンに絵を描くことを教えてもらったのですが、そのプロセスのなかで、自分はモノの見方が変わりました。それがこの役を演じる上で、核の部分となっていったんです」と振り返りました。
37歳のゴッホを演じたことについて、現在64歳のデフォーは「まったく年齢差のことは考えませんでした」と話すと、シュナーベル監督も「私も考えませんでした」と返答。デフォーは「彼は若い男ではなかったからです」と付け足しました。現場での印象的な出来事については「ジュリアンに絵を描くことを教わった時に、光を捉える、描くということを教わりました。1マークずつ絵筆を使っていく(印をつけていく)、自分で確固たる意志をもったマークを重ねていきます。そうするとマーク同士がお互いに振動し、語り合い始めるんですね。そこから何かが生まれてくる、自分の想像を超えたような。だから絵を描く時は、1つの印を1回ずつ重ねていくのだと学びましたし、何かモノを見た時に、その形状っていうことではなく、その光をまず見るようになりました。それを経験するということが、この映画作りでも自分にとって、同じようなものでした。作品自体も実際にゴッホがいた風景に我々は身を置いて、その風景を見ながら、このゴッホはどんな人物だったんだろうと我々なりに想像して作っていき、それを表現したのがこの映画になっています」と語りました。
デフォーをゴッホ役に起用したシュナーベル監督は、その理由を聞かれると「彼は素晴らしい役者で、私が信頼する人でもあります。彼みたいな人は他にいません。彼しかいないんです。協力的な仕事ですよね、自分ではゴッホはできません。彼は私以外に2番目に良いと。30年来の友人なんですね、お互い良く知っているし、信頼し合っていて、頼りにしています。そして親交を持って、信頼を持って、一緒に作り上げることができました。彼は私を失望させませんでした。このテーマを取り扱うのであれば、彼がこういうことができるんだというのを見せるのが私の責任だと思ったんです。それをやるなかで、彼は私が見たことがない誰かに変身しました。見れば彼だとわかるんですけどね」とデフォーを絶賛しました。
そして、この日はリリー・フランキーが登壇し、ゴッホにちなんでひまわりを贈呈。リリーはまず「最初に皆さんにお伝えしておかなくてはいけないんですが、花を持ってくるのが女優でなくてすみません」とお詫びし、会場を沸かせました。すると、監督とデフォーは「大丈夫ですよ、嬉しかったですよ」「帽子がステキです」とフォロー(笑)。おじさま達の優しいやり取りに、観ている側も癒されました。
リリーは「監督の映画、アート、音楽とさまざまなことですごく影響を受けてますし、デフォーさんの映画を観る度に役者を超えた人間の可能性を毎回教えてくれるし、今回すごく嬉しいです。最近毎日家で寂しい生活をしてるんですけど、今日はお2人に会えて、ゴーギャンが来てくれた時のゴッホの気持ちです」とコメントし、シュナーベル監督が「美しいことを言って頂いてありがとう」と返しました。シュナーベル監督がリリーについて「『万引き家族』のなかで素晴らしい演技だったと思います」と褒めると、リリーは「僕の話はいいです」と謙遜しましたが、シュナーベル監督は「褒め言葉を受け取るのは難しいけど、出したから受け取らないとね。私はあんまりそんなに軽々しく褒めるタイプじゃないので。あれは素晴らしい演技で、本当に深い映画だったと思います」と続けました。
リリーは本作について、「日本人はすごく美術館に行く民族だし、その中でも印象派が好きで、とりわけゴッホが大好きな国だと思うんです。僕この映画を3日前に観たんですけど、未だにまだ映画の中から出てこられないというか。今もゴッホの目線の先にいるのか、ゴッホの絵の中にいるのか、わからなくて、こんなにゴッホの映画を愛おしく感じたのは初めてです」と絶賛しました。
次にリリーもイラストを描いているということで、話を振ると、「監督の前で絵の話するのやめて!俺おでんの絵を描いてる人だから」と司会の言葉を制止し、また会場から笑いを誘いました。改めて、本作でゴッホの印象が変わったかと聞かれたリリーは、「ゴッホは皆さんもそうだと思うんですけど、いろんな画家の中で一番知ってるつもりだったけど、このお2人の視線を通したゴッホを知ることで、一番にひまわりの見え方が違うというか、でも何かデフォーさんが日の出を待って、スケッチに出かける時に微笑んだゴッホの顔が、ゴッホの寂しいエピソードを救ってくれて、すごくハッピーになりました」とコメント。するとデフォーは「ほんと美しい言葉でずっと聞いていたいです」と喜びと感謝を表現しました。シュナーベル監督は「あそこは映画の中でも特に重要なんですね。私はゴッホを可哀相な人とは思っていないんです。あの瞬間にデフォーが演じるゴッホは、まさに自分がいたい場所にいたということがわかります。ですが、誰にとっても見つけるのが難しい場所なんですね。私達皆、あのシーンがすごく好きなんですけども、そこを観ててくださってとても嬉しいです。実はあそこにいる妻のルイーズに感謝しなければいけないんですけど、あそこの場所まで私達を引きずり出してくれたのは彼女なんです。デフォーの顔に浮かんだ微笑みは計りきれないですよね」と語りました。すると、デフォーは「なんか自分のお葬式にいるような気分になりました」と照れた様子でした。
シュナーベル監督は表情はクールながらジョークを交えながらの会話が印象的で、デフォーは穏やかな笑顔がとても素敵でした。本作はシュナーベル監督とウィレム・デフォーという最強のコンビの他に、ルパート・フレンド、マッツ・ミケルセン、オスカー・アイザック、マチュー・アマルリックなど実力派俳優が勢ぞろいしているので、美術ファンだけでなく、映画ファン必見です!
映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』来日ジャパンプレミア:
2019年9月26日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『永遠の門 ゴッホの見た未来』
2019年11月8日より全国公開
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
ギャガ、松竹
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