SEL(社会性と情動の学習)は、特定の型がある学習法を指すのではなく、社会性や情動に関するスキルを向上させる目的で行われる学習の総称です。幼児から高校生までそれぞれを対象としたプログラムの例を見ても、発達段階に合わせて、生活習慣、人間関係の形成、問題防止、ストレスマネジメント、お金の管理、もっと絞ると、いじめ予防など、さまざまなプログラムがあります。つまり、一つひとつは、具体的な目的を掲げたプログラムとして組まれています。
社会情動的スキルは子どものうち早ければ早いほど効果的とされるものの、大人になっても有用である点に反論する方はいないでしょう。これで完璧だという社会情動的スキルの頂点はありません。生きている限り学び続ける必要があるスキルです。大人向けのSELとした場合でも、ストレスマネジメントなど共通したテーマがあると同時に、子どもとは異なるシチュエーションとして、職場での人間関係やマナー、キャリアデザイン、恋愛関係、夫婦関係などのテーマが挙げられます。
このように具体的なテーマに合わせて、たとえば今回は特に向上させたい社会情動的スキルとして「自己への気づき」と「他者への気づき」「自己のコントロール」にフォーカスする、というようにプログラムを構築し、実施していきます。
SEL(社会性と情動の学習)の定義とSELで向上を目指す8つの社会的能力についてはこちら
ただ、SELを積み重ねた先にどんな未来が待っているのかという点が気になるでしょう。そもそもSELが必要とされる背景には、社会情動的スキルがウェルビーイング実現の要となり得るという期待があります。よって、SELを積み重ねた先にあるのは、人それぞれのウェルビーイングです。
とはいえ、自分にとってのウェルビーイングがどのようなものかを自覚するのが難しいからこそ、ウェルビーイングを目指す道のりが五里霧中となっている方が多くいると思います。
でも、ウェルビーイングの研究者はもちろん、社会心理学者など人や社会について、とことん考え続けている方々の言葉には、表現の仕方は異なるものの共通点が見られます。
それは、自分らしくあることです。

たとえば、社会心理学者の加藤諦三先生(早稲田大学名誉教授)は、ご自身の公式YouTubeチャンネルの他、多種多様なチャンネルにゲスト出演し、「本当の自分」を知り、自分らしく生きることの重要性を説いています。加藤先生の著書は何百冊に及ぶなか、「自分に気づく心理学(愛蔵版)」では、自己と他者の関係についてあらゆる視点が示されています。
同著書の第3章「不安なのは本当の自分が見えないからである」の中の「にせの道徳や規範にしばられることはない」という節では、「ひとつの道徳や規範で人間をしばるから、心の病んだ人はいつまでもたちなおれないのである。/それ故に心の病んだ人は、実際の自分の感情に接することを恐れる。親や同胞への怒りを心の底に持っているのに、それを意識することはできない」(p.87)として、「心の健康な人達の間の道徳や規範は、時に、心の病んだ人達の間の搾取を正当化する理論となる」と述べられています。
以上の言を引用してここで伝えたいのは、本当に必要な社会情動的スキルは、周囲の空気を読んだり、忖度して世渡り上手になるスキルではないということです。
私が考える社会情動的スキル、【映画でSEL】で向上させたい社会情動的スキルとは、自分らしく生きるために、自分、他者、社会とどう向き合い、付き合っていくかを自分で決められるようにするスキルです。映画には、本当の自分を見つけるヒントが隠された作品が多くあります。だから【映画でSEL】を薦めたいと考えたのです。
「本当の自分になること」の重要性と根拠については、次回さらに深掘りします。
<参考・引用文献>
加藤諦三(2006)「自分に気づく心理学(愛蔵版) 」PHP研究所
TEXT by 武内三穂(認定心理士)