映画業界人インタビューVol.12独立行政法人 国際交流基金 映像事業部 寺江瞳さん【前編】
Category : 映画業界人インタビュー , 大学生・専門学校生
今回は、エージェントのミミミと、おこめとパンが取材しました。2回に渡ってお届けします。
国際交流という視点でみた、映画の可能性
ミミミ:普段のお仕事としては具体的に何をされてるんですか?
寺江さん:国際交流基金というのは、外務省所管の独立行政法人で、美術や言語など文化を通して国際交流を行っている組織です。その中で映画を通じた文化交流として、映画祭の開催を中心に調整や準備作業などをやっています。全世界で年間100件以上を分担して担当しているので、複数同時に準備しています。多くの国では日本の大使館とか総領事館と共催しているので、現地での運営は共催機関のほうでやっていただいて、こちらでは随時進捗を聞いて、素材の準備、字幕制作やポスターやHP制作などの費用の支払いなどの準備をやっています。また、国交樹立〇〇周年など、節目の年には特定の国や地域で大きな映画祭を行います。こちらは私達で企画から素材手配、広報制作、ゲスト招へいや現地での運営まですべてこなします。今年度は東南アジア地域、ロシア、そして私が担当した中国で大きな映画祭を実施しています。
局長:海外の方とのやり取りで、英語だけではないと思いますが、言葉はどうされているんですか?
寺江さん:中国での上映に関しては、2017年の日中国交正常化45周年、2018年の日中平和友好条約締結40周年と記念の年でメイン事業になっていて現地とのコミュニケーションも多いので、一人中国映画事業専門スタッフがいます。英語圏だったら基本的に職員が担当しています。
局長:他の中東とかはどうなんでしょう?
寺江さん:基本的には大使館の方とのやりとりになるので、日本語がやり取りできますし、現地職員の方とは英語でやり取りをしています。スタッフはロシア語やフランス語などいろいろな言葉を話せる人もいますよ。
ミミミ:今のお仕事に就こうと思ったきっかけは何ですか?
寺江さん:私は大学卒業後10年くらい、全国紙の新聞社で記者をやっていました。取材をきっかけに、現代アーティストやキュレーターたちの面白い活動に出会い、彼らと行動を共にするうちに、アートの奥深さに興味を持ち、国内外のいろんな展示やイベント、アートスポットなどをリサーチしに行くようになりました。プライベートでアートイベントを実施したり、新聞社の中で文化の記事を発信したりと活動していましたが、ご縁があって2016年から国際交流基金に来ることになりました。新聞記者の時はずっと社会問題に接していた訳なんですけど、いろいろな立場の人々には、どうしてもわかり合えないものがすごくあるなと日々感じていたんです。そういったところで社会の常識や固定観念にとらわれないアートの可能性は大きいのではないかと思いました。新聞は社会をよくするために報道という形でいろいろな人や物事をつなぐ「メディア」ですが、人やアートをつなぐ文化事業に携わることも同じ目的で可能ではないかと考え、ここでのお仕事をやることにそんなに違和感はありませんでした。映画はミニシアター系などを中心に観ていましたが、専門的に勉強したこともなく詳しいわけではなかったので、映像事業部に配属となってからいろいろ勉強しました。お仕事を通じて、配給さん、映画祭を運営されている方、監督やプロデューサーさんなど、映画に一生をかけている方に出会い、その熱意に触れることで、いろいろな視点を学ばせてもらうことが大きいです。やっぱり映画っておもしろいじゃないですか。映画は誰でも観たことがあって、映画を嫌いな人っていないから、それはすごいことだと思いますね。あと、私は元々国際交流も好きで、自分の知らない世界を見たいっていうのが強かったので、記者、アート、旅、国際交流っていうのは自分の中では地続きで、自分の知らない世界を見ることで視野を広げ、新しいことを学びたいという思いが強かった。だからそういう体験をできる仕事を選んできたのかなと思います。
ミミミ:中国で行われた日本映画祭の映画を選んでいる人は誰なんですか?
寺江さん:中国の共催者の意見も取り入れながら、私達で選んでいます。セールスとの関係もあって、何でも配給会社に頼めばオーケーしてくれるわけじゃなく、特に中国は日本映画がかなり売れているので、出品可能な作品から自分達の条件の中で選んで、なおかつ作品も良いっていうのを選ぶのが、なかなか難しいです。文化交流だからって日本を良く描いているものを選ぶ訳ではなく、日本で人気の作品、日本の今を映しているものを選ぶようにしています。例えば『カメラを止めるな!』は一般的にはマイナスな要素である低予算を逆手にとっておもしろいものを作りあげた例で、それが大ヒットして社会現象にもなっていますが、日本の独特な状況だと思うんですよ。中国は今結構大きな予算をかけたスペクタクル大作も多いですが、逆に日本は不況と言われている中、創造性によって優れた作品を生んでいる。“カメ止め”は、私達の映画祭でもいろいろな国で上映し、監督はじめゲストの方に現地に行っていただいています。映画には歴史や都市、食やファッション、言語などいろんな背景が詰まっているので、良い作品を紹介して国を超えて共感してもらうことが文化交流になると考えています。
おこめとパン:映画祭はどれくらいの動員があるんですか?
寺江さん:例えば中国の映画祭は若い方が多くて、特に女性が多いんですが、日本と一桁違うくらいで、昨年度実施した映画祭は計2万人以上が来場されました。
一同:ええ~~~!!!
寺江さん:中国映画の映画祭を日本でも実施したのですが、約3千人だったので全然桁が違いますね。特に上海では、座席が1300席以上ある劇場もありますが、ほとんど埋まるくらい人気が高いです。今年度中国6都市で実施した上映会では、約1万8千人が来てくださいました。
一同:すごい!
局長:中国では映画館の数は増えてるんですか?
寺江さん:すごい勢いで増えていて、アメリカを抜いて世界一になっています。チケットも日本より安いですし、若い人にも娯楽として定着しているように思います。
ミミミ:今の仕事で一番楽しかったことは何ですか?
寺江さん:中国内で同日同時に3箇所で開催して、その中でゲストのスケジュールも複雑で大変だった時があったんですけど、現地で観客の皆さんの反応を見られて「こんなに満席になって、皆楽しんでくれて、監督もすごく手応えを持ってくれていて、やりがいがあるな」と思いました。毎回準備がすごく大変なんですけど、実際お客さんの笑顔を見た時に良かったなって思うという、その繰り返しですね。作り手さんも海外での反応にとても興味を持ってくださるので、海外展開の一助になればうれしいなと思っています。
取材日:2018年11月27日
今回の記事担当:ミミミ
■取材しての感想
就活まっただ中の私ですが、映画に関わる仕事も視野に入れています。その中で今回寺江さんのお話をお聞きできたのはとてもいい機会になりました。映画祭を運営していく側、ましてや外国で日本映画を紹介する映画祭を企画・運営する仕事っていうのがどんなものなのか。どんなことを思って開催しているのか。また映画祭の重要性なども聞けて新しい発見がたくさんありました。また、たまたま映画に配属になったとおっしゃっていた寺江さんですが、映画を制作している方の熱意を目の当たりにしてその手助けができればとおっしゃっていたのも印象深いです。私達が何気なく観ている映画や、海外の方が観る日本映画には映画制作陣や配給さん、もちろん映画祭企画運営の方々などの伝染していった熱意によって生まれているのだなと実感しました。
映画にまつわるお仕事って、本当にいろいろあるんですね!映画関係のお仕事をしたい学生の皆さんにとっては、間口が広がりますね。後半は寺江さんの学生時代のお話などもお伺いしています。→【後編を読む】
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その他世界中でも年間100件以上映画上映をされているそうです→詳細
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