Monthly Archives: 2月 2019

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映画『グリーンブック』ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ

賞レースとレッドカーペット by cosmos

映画好きにもいろいろいますよね。中には「この俳優が好きだからこの映画を観る」とか「賞を獲ったからこの映画に興味を持つ」みたいな人も多いと思います。

そういう人はこの賞レースのシーズン、そわそわしていたんじゃないでしょうか?

 

私個人は実はあんまり賞には興味がありません。特にオスカー君とは趣味が合わないことが多いので、結果はあんまり気にしないようにしています。

でもやっぱり受賞した映画は大きな話題になるし、世界的な注目度が全く変わってくる。観る映画を選ぶうえで少なからず影響を受けていることは確かです。

 

それより私が好きなのは、レッドカーペットや授賞式会場でドレスアップしたセレブたちがしゃべったりセルフィー撮ったりしてるところを見ること!

役柄とは違うセレブの素の姿、美しいドレスの数々、意外な交友関係、偶然撮れてしまった奇跡の写真などなど、毎年話題に事欠きません!

 

ということで今日はエージェントのcosmosが賞レースとレッドカーペットについて語りまくっていきたいと思います。

まずは世界の有名映画賞とその特徴を、独断と偏見により説明していきます。

 

▼▼▼鉄板編▼▼▼

 

◎アカデミー賞

 

言わずと知れた映画界最高の名誉。1929年に開始した世界最古の映画賞です。この作品賞受賞作品はとりあえず毎年観に行く、みたいな人も多いのではないでしょうか。

 

傾向としては、社会的意義やメッセージ性の強い作品が受賞することが多いといえます。戦争や差別などの暗い歴史や隠れた事実を人々に伝えられる映画、つまり多くの人が観るべきだと判断された映画にこそ最高栄誉が与えられる。そんな印象を持っています。

 

ちなみに先ほどオスカー君と趣味が合わないと言いましたが、オスカーというのはこの賞の別名です。受賞者に手渡されるオスカー像を指していて、アメリカでは The Academy より The Oscar と呼ばれることのほうが多いぐらいです。

 

近年は黒人俳優の差別や性別格差の問題などが取りざたされていますが、賞を選出するアカデミー会員の構成を一新するなど様々な改革が行われている模様。

映画『グリーンブック』ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ

本年度アカデミー賞作品賞受賞の『グリーンブック』
2019年3月1日より全国公開
© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

今年のアカデミー賞授賞式は2月24日、LAのドルビー・シアターにて行われました。クイーンによる圧巻のパフォーマンスに始まり、たくさんの名場面が生まれた素晴らしい式でしたね!

 

◎英国アカデミー賞

 

英国映画テレビ芸術アカデミー(British Academy of Film and Television Arts)が主催するアカデミー賞で、通称は BAFTA。今年の授賞式は2月10日にロイヤル・アルバート・ホールで行われました。

 

いわゆる「アカデミー賞の前哨戦」と呼ばれる賞であるとともに、イギリスないしはヨーロッパの映画産業に大きな影響を与える賞です。

 

個人的にイギリス映画が大好きなので、BAFTA はいつも特別な目で見てしまいます。

 

◎ゴールデン・グローブ賞

 

こちらも「アカデミー賞の前哨戦」の代名詞。1944年から続く賞で、今年の授賞式は1月6日に行われました。略称として GG なんて呼ばれることもあります。

 

アカデミー賞との大きな違いは部門の分け方だと言えます。ドラマ部門とミュージカル・コメディ部門が分けられていて、作品賞、主演男優賞、主演女優賞の3つは2つの部門ごとにそれぞれ選出されます。

 

物語が魅力の作品や社会的意義の大きい作品なんかはドラマ部門に、芸術性が高い作品やとにかく観客が楽しみまくった作品なんかはミュージカル・コメディ部門に選ばれるわけです。

 

私は個人的にこの部門分けが大好きです。この2つの観点って映画を評価するときに生まれる全く別々の軸ですよね。分けて評価するのは大正解だと思います。

 

どの映画をどちらの部門に入れるかという点でもいろいろと考えさせられます。

例えば今年は『ボヘミアン・ラプソディ』がドラマ部門で作品賞と主演男優賞を受賞しました。ミュージカル・コメディ部門じゃないんですね。

音楽はもちろん素晴らしいけれども、クイーンの実話をいかにしてドラマチックな映画に変えたか、その点が評価されたということがこの部門分けから考察できます。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』

ゴールデン・グローブ賞以外に、アカデミー賞では、主演男優賞(ラミ・マレック)、編集賞、録音賞、音響編集賞を受賞!
『ボヘミアン・ラプソディ』好評劇場公開中
© 2018 Twentieth Century Fox

また映画部門とは別にテレビドラマ部門が設けられているのもゴールデン・グローブ賞の大きな特徴です。

外国のドラマってなかなか日本にいたら見ることがないですが、最近映画で見ないと思っていたらこの俳優さんドラマで活躍してたのか!みたいな発見があったりします。

 

 

▼▼▼番外編▼▼▼

第71回カンヌ国際映画祭にて最高賞“パルムドール”受賞『万引き家族』
好評劇場公開中
©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

◎カンヌ国際映画祭

 

世界三大映画祭の1つです。映画賞というより正確にはコンペティション部門のある映画祭という感じ。南フランスの都市、カンヌで毎年5月に行われます。

 

昨年は是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌの最高賞であるパルム・ドールを受賞したことで大きく話題になりましたね。

 

鉄板編で挙げた3つは基本的に英語作品が対象の賞で、それ以外の言語で制作された映画は外国語映画賞の選考対象となることがほとんどです。

対して国際映画祭においては、選考対象はすべての国のすべての言語で作られた映画に広まります。

日本の映画が世界的に有名な賞を獲るなんて誇らしいですよね…!

 

またカンヌには「ある視点部門」といって、若い監督の斬新な作品を選ぶ賞も別に設けられています。

サンダンス映画祭などもそうですが、革新的な発想や今までになかった映画を評価するこうした賞というのは映画界に新しい風を起こすための大事な火付け役です。

いわゆるところの“良い映画”とは違っていても、絶対に認められるべき作品というものは日々新たに生まれているのです。(誰目線)

 

 

◎トニー賞

 

ブロードウェイで上演される演劇・ミュージカル作品を対象とした賞。

 

映画関係なくない?って感じなのですが、映画界と演劇界の両方で活躍する俳優さんというのは意外とたくさんいます。昨年は『エンジェルス・イン・アメリカ』であのアンドリュー・ガーフィールドが演劇主演男優賞を受賞しました。

 

アンドリュー・ガーフィールドの『エンジェルス・イン・アメリカ』、これ実は私、ナショナル・シアター・ライブで観ました。

ナショナル・シアター・ライブというのは、イギリスで上演される演劇作品が世界に配信され、映画館でライブビューイングされるという画期的な試み。

現地に行かなくては観ることのできない至極の演劇作品を日本の映画館で観ることができるんです。

あまり知られていなくて非常にもったいないと思うので、映画好きの皆さん映画館好きの皆さん、ぜひぜひ一度観に行ってみてください。

 

話は変わりましたがこのトニー賞、授賞式の開会パフォーマンスが毎年毎年素晴らしいのです。

おすすめは2013年。映画『ゴーン・ガール』などにも出演している元子役で現ミュージカル俳優のニール・パトリック・ハリスがホストを務めています。

これは見るたびに鳥肌が立ちます。まじです。

 

あとは最近ミュージカル映画や音楽映画が流行していて、ミュージカル界で活躍している人がいつ映画に出てもおかしくない状況でもあります。

『ピッチ・パーフェクト』で有名なアナ・ケンドリックも13歳でトニー賞にノミネートされ、その後たくさんの映画に出演しています。

トニー賞と映画賞とを照らし合わせて見てみるといろいろ面白い発見があるのです。

 

 

▼▼▼レッドカーペット・授賞式での話題▼▼▼

 

授賞式の日は、セレブたちの素の姿を垣間見ることができます。

若手俳優だと初めてのレッドカーペットに舞い上がっていたり、尊敬する俳優たちと話すチャンスを窺っていたりしてかわいらしいのです。

ジェニファー・ローレンスがアカデミー賞授賞式で2年連続転んだりしたのも面白かったですね。俳優ファンならああいう意外な一面が見たくなってしまうものです。

 

またドレスルックにも注目が集まります。個人的に去年のアカデミー賞ではニコール・キッドマンとゼンデイヤがドタイプで、しばらく待ち受けにしていました。

今年はピンクのドレスが多くて、眺めているだけでハッピーな気持ちになりました。タキシード・ドレスなどの性別を超越した服装も素敵でした。

去年のGGではセクハラ撲滅を訴える Time’s Up を合言葉に、女優陣がほぼ全員黒のドレスで出席するという珍しい光景もありましたね。

 

授賞式の後に流れてくる写真を漁るのも楽しみの1つです。世界のメディアの注目の的ですから、自分の好きな俳優のドレスアップした姿は世界中のカメラによっていろんな角度からとらえています。最高です。

最近では俳優たちが自身のSNSで授賞式の様子をupしてくれたりもするのでよりいろんな写真が楽しめますね。各賞の公式アカウントも必見です。

共演していなくても多くの俳優が一堂に会す授賞式では、貴重なコラボもたくさん見ることができます!数年前には名司会者のエレンが撮ったセルフィーが豪華すぎると話題になったりもしましたよね。

 

余談ですが、先日のGGではなんと俳優よりも、フィジー・ウォーター・ガールと呼ばれる女性に注目が集まりました。いろんなセレブの写真にFIJIの水を持ったキャンペーンガールがバチバチに映り込んでいたのでした。めちゃくちゃ面白いのでぜひググってみてください。こういう珍事も起こるんですね。

 

 

というわけで好き勝手に映画賞とレッドカーペットの話をしてきましたが、それぞれの映画賞の雰囲気と楽しみ方を知っていただけたなら嬉しいです。映画を観るだけじゃなく、作ってるスタッフキャストのことをもっと知りたい!と思ったそこのあなた!ぜひ映画の賞レースに注目してみてください。すでに賞レースが大好きなあなた!今はアカデミー賞の余韻に存分に浸りましょう。それでは。

 

TEXT by cosmos

 


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映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

Review『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

夢を見つけて受け入れて、追いかける若者たちの物語!

 

こんちには、おこめとパンです。

先日、『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』の試写会に参加させていただきました。

 

性別に悩み、「美しくなりたい」という気持ちを抱えて悩むユリシーズ。

ユリシーズは、私たちがこの映画の中で見守る主人公です。

 

自分や誰かの性別、好きな人って、何が当たり前なんでしょう?
誰から見る ”当たり前” なんでしょうか。

 

 

—夢や悩みを抱えている人に

 

LGBTQという言葉って、最近耳にする機会が増えましたよね。

でも、私の友人には「知る機会がなかなか無くて、ちょっと遠い存在」と、そんなふうに思っている人もいます。


「あれ、そんなに境界線があるものなのか?」と疑問に思った
ので、本作を観て考えたことを少しだけお話しさせてください。

 

 

「メイクをして可愛くなりたい!」とか「自分が好きな髪型、洋服はこれだなー!」とか、「魅力的になりたい」という気持ちで楽しくなることってありませんか?

そう思ってほしい相手がいるならそれは誰かなんて自由で、誰かのためではなく自分のスタイルを貫くことだって、とにかく自由。

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

確かに現在はLGBTQという名前がありますが、“なりたい自分” に向かっていく自由な気持ちって、誰にでもありませんか?

少なくとも、私はそういう気持ちや考えが大好きです!

また、もちろん、“なりたい自分” は容姿や恋する気持ちに限りません。

叶えたい夢の中にいる自分も “なりたい自分” です。

 

そういう気持ちは、ユリシーズに少しずつでも繋がっているんじゃないかと思います。

ユリシーズの「美しくなりたい」という気持ちは最初は夢ですが、実現させるためにいろんなことを経験していく。

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

私たちもユリシーズも、“なりたい自分”を目指していく時は本当に辛くて折れそうになるし、忘れられないほど傷つくこともあります。

それでも、夢を追いかけることだけはやめられない…!

たぶん、このページに飛んできて読んでくださる方は(学生に限らず)そんな人が多いと思っています。

 

だからこそ、本作を性別やLGBTQという視点ではなくて、 ”夢と悩みを抱える若者の物語” だとそのままで考えていただけると嬉しいです。

夢を追いかける人もユリシーズやサタデー・チャーチの人々も、「自分の心は決まりかけているのに、周りがそれを認めてくれない」という部分が大きくて、周囲の声に潰されそうになる…。

そこに同じ痛みや期待、悩みを知る人たちがいたらどんなに心強いか。

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

自分の夢を自分の責任で追いかけていると、誰にも話せない焦りや葛藤、「もうやめるべきかも」というリスクを考える気持ちで苦しくてたまらなくなるんです。本当に。

それでも諦めたくないからこそ、ユリシーズとサタデー・チャーチの人々のような関係で背中を押されるとすっごく元気になりますよね。

何も言わなくても受け止めてくれるから、自分を暴かれないし…。

 

けれど、世の中にはいろんな人がいます。

作中には、“善意”と思いながら無意識にズタズタの傷を作っていくような、そんな社会のすべてをガチガチに固めたような人物が登場します。

これは全てを知ったふりをして、“なりたい自分”や夢を追いかける私たちを全力で止めにかかる人たちと同じなんだと思います。(言い方が強くてごめんなさい!)

もちろん、本当に心配してくれていると思うのだけれど、その言葉に耐え難いくらい傷ついたことだってある。

だからこそ、ユリシーズの怒り、痛み、悲しみが手に取るようにわかって、本当に苦しい気持ちになりました。

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

 

LGBTQという枠組みがあるけれどそんなものは必要なくて、私たちとユリシーズやサタデーナイトチャーチのみんなは、何一つ違いなんて無いと思うのです。

 

 

また、本作といえばミュージカルタッチで描かれていることにも注目です。

映画は前情報を入れずに観たい!と思ってしまう私は、かなり驚きました。

初めは「歌が!!!」という気持ちでしたが、全てのシーンの鮮やかさ、綺麗な歌声が深く突き刺さりました。

本当の自分をみてくれること、愛してくれること、いろんなことが歌唱シーンに詰まっています。

とある人物の歌唱シーンで、想いを馳せるような…視線をどこかに定めたままの姿が印象的でした。

辛い経験を知っている人なら、あの感覚はよくわかるんじゃないかな…と思います。

きっと、何かがあった次の日はお風呂や電車でああなってしまう。

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』

 

…そして、心の底からときめいてしまうシーンの登場もおすすめさせてください。

もう、ユリシーズが!!ユリシーズが!!!

すごく爽やかで、お互いを大切に想って、まだ気持ちを確かめ合う一歩手前という一番楽しい時期。

最高に素敵でドキドキしてしまって、満面の笑みを浮かべて画面を見つめていました。シアターの暗闇の中で。

 

こんなふうに、気持ちをいろんな方向に揺り動かしてくれる本作ですが、
そのレビューを書くことにとても緊張しています。
この世界にはいろんな捉え方があって、誰がどう思うのかはわからない。
けれど、悩みや夢を抱える方々の気持ちが少しでも楽になればいいな、と思っています。

 

ユリシーズが自ら掴んだ環境はすごく素敵なもので、かけられる言葉も優しく変化していきます。
私の側にこんな人たちがいて欲しかった」という気持ちになったら、「こんな人たちもいるんだ」と考えてみてください。

今はまだ出会っていなくても、ひっそりとだって夢を追いかけてもがいていれば、必ずどこかで会えるはずです。

 

本当に辛くて苦しい時間は訪れるけれど、その先にはきっと明るい何かが待っています。…と、そう思いたい!

サタデーナイトチャーチのように、優しく背中を押してくれる存在が見つかりますように!

Review by おこめとパン

 

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』PG-12

2019年2月22日より全国順次公開
監督・脚本:デイモン・カルダシス
出演:ルカ・カイン/マーゴット・ビンガム/レジーナ・テイラー/MJ・ロドリゲス/インドゥヤ・ムーア
公式サイト
©2016 Saturday Church Holding LLC ALL rights reserved.


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映画業界人にインタビュー:国際交流基金の活動

映画業界人インタビューVol.12独立行政法人 国際交流基金 映像事業部 寺江瞳さん【後編】

国外からは、日本の映画市場や映画業界はどう見えている?

おこめとパン:学生の頃にやっていて、今のお仕事で役に立っていることがあれば教えてください。

寺江さん:仕事に役立っているかわからないですけど、学生の頃にしかできないことってあると思うんです。長期的にやること、例えば旅行とか勉強とか留学とか。すぐお金や結果にならないことも、考えたりトライしたりする時間がたくさんありますよね。映画鑑賞や読書もそう。私も学生時代にボランティアで学生向けマガジンのライターをしていておもしろいなと思って新聞記者を志望したので、何が将来に繋がってくるかわからないですが、いろいろやったほうがいいと思います。きっと社会人は皆同じことを言うと思いますが(笑)。

おこめとパン:今の学生って、とにかくやりたいことが見つけられないっていう人が本当に多いんです。私とミミミちゃんは映画を作りたいんですけど、それをなかなか言えなくて…。

寺江さん:そうなんですか!?東京なんかだと、逆に情報が多過ぎるんですかね。

おこめとパン&ミミミ:確かに…。

寺江さん:だから地方のほうが逆にハングリー精神みたいなものがあったりするのかなあ。

一同:あ〜。

映画業界人にインタビュー:国際交流基金 寺江瞳さん寺江さん:私は大学まで九州に住んでいたので、東京にいる学生って、すごく羨ましいですけどね!映画や文化イベントも多くて第一線で活躍する人にも会えるし。もちろん東京以外でもいろいろおもしろい活動もあるし、とにかく何かしないともったいない。

おこめとパン:そうですよね。学生って時間があるからこそですもんね。ちょっとお話が変わってしまうんですが、海外とのお仕事をすごくたくさんされているなかで、国外から見た日本の映画市場や映画業界はどういう風に見えていると感じられますか?

寺江さん:ドメスティックな思考が強いなと思うことはあります。国内市場内で興行として上手くいっているのは喜ばしいことですが、もっと海外でも見てもらえるチャンスが増えたら良いなと。日本映画はアニメをはじめとても人気が高いですが、世界的には、映画館で日常的に観られる環境にはなっていない。
一方で監督さん、プロデューサーさんなどと海外に一緒に行くと、海外での映画市場や制作、海外の文化などに非常に興味を持ってくださる方が多いんです。意外と監督って海外で反応を見る機会が少ないんでしょうね。実際、基金でもいろんな国で上映していますが、報告しても監督まで届かないことが多いと思うんです。だから、私達としてはそういう反応を知るチャンスにしていただきたいというのもあります。文化の壁を越えて共感を得られることを実感していただくことは、その後の作品作りにも良い影響を与えてくれると思います。
近年は海外との共同制作も増えているので、実際にどんどんお仕事のオファーがきている方もいます。基金では海外の制作者や映画業界の方との交流の機会を設けるようにしているので、つながりをつくり、その後の海外展開の手助けができればと思います。

ミミミ:他の国で映画祭を行うにあたって大変なことはありますか?

寺江さん:海外の基準と日本の基準が違うし、海外はしょっちゅういろいろなことが変更になります。日本人の感覚だと、先に話し合って決めていって、決めたことは基本的に変えないみたいな感覚だと思うんですけど、中国に限らず海外は随時変動していくというか。直前に決まることもあれば、日程とかも全然変わるし、国によって検閲があったり、許可が下りなかったりすることもあります。基本的に仕事の進め方が違うので、文化を尊重しつつ、日本側が求める水準はキープできるよう説明や確認を丁寧に行うなど、気をつけています。

映画業界人にインタビュー:国際交流基金の活動ミミミ:海外の映画祭での観客のテンションはどうですか?日本人って映画を観る時に静かですが。

寺江さん:そうそう、笑いは中国のほうが結構おきますね。お客さんが若いのもあるかもしれませんが、テンションが高いんだと思います。「えーっ!」とか声を出したり、手をたたいたり、日本人と全然違いますね。あとはティーチインの時間って、日本ではあまり手を挙げる人がいないじゃないですか。

おこめとパン&ミミミ:挙げない、挙げない…(笑)!

寺江さん:ですよね。今まで何十回と上映後のトークをしていますが、質問がなかったのは1回しかないですね。結構次々に挙げてくれて、日本語もできるお客さんがとても多いので通訳なしで日本語で質問する方が多い(笑)。

局長:質問がたくさん出ると、登壇者も嬉しいですよね。

寺江さん:そうですよね。質問もすごく深くて、よく観てるなって思うことも多いです。あと「自分はこう思うんですけど」ってことを恥ずかしがらずに一生懸命話す人が多い。日本の俳優や映画、ドラマなどもよく知っているなあと驚きます。
昨年秋に石井裕也監督に深センと広州にゲストでご登壇いただいたとき、映画館で100人規模くらいのトークイベントをしたのですが、満席でみんなが次々に質問し、熱視線が監督に集中していて。監督は「(観客の)圧がすごい!」とびっくりされていました(笑)。そういう体験はなかなか日本ではないんじゃないかなって思います。あと昨年重慶では、現地の共催団体のボランティアスタッフに映画を学んでいる学生たちが多かったのですが、篠原哲雄監督がスタッフの学生に「どんな映画を撮ってるの?」と話しかけてくださって、学生に映画を撮るときのアドバイスをしてくださっていました。映画を届けるだけでなく、作り手の方と実際にお会いし、触れ合えるのが映画祭の良いところですから、映画祭を通じてそんな交流を積み重ねていければと思います。
お客さんに若者が多いこともあるんですけど、若者がこれからの世界を作っていくので、特に多くの若者に交流の機会を作っていきたいです。

一同:今日はありがとうございました!

取材日:2018年11月27日

 

今回の記事担当:おこめとパン
■取材しての感想
「こんなお仕事があるのか!」という発見と、世界各国にはそれぞれの価値観があるという当たり前なことを改めて実感しました。言葉と文化を超えた手段の1つに映画があることが映画ファンとして本当に誇らしいです。楽しいお時間をありがとうございました!

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