映画業界人インタビューVol.10 映画コラムニスト ジャンクハンター吉田さん【前編】

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映画業界人インタビューVol.10 映画コラムニスト ジャンクハンター吉田さん

映画業界人インタビューVol.10 映画コラムニスト ジャンクハンター吉田さん【前編】

今回は、エージェントのサンと、おこめとパンが取材しました。このインタビューは3回に渡ってお届けします。

高校生で『ロボコップ』前売り券50枚の束を買い占めた!

サン:今まで映画にまつわるお仕事をいろいろとされていますが、ご職業名は何と書けば良いでしょうか?

ジャンクハンター吉田さん:そうか。映画コラムニストが主軸だよね、今はね。たぶんこの映画コラムニストっていう肩書きが、“最終駅”だと思うんですよ。これまでは映画の宣伝マン、ライター、ジャーナリスト取材とかをしてきたけど、1つの作品について「語ってください」「記事を書いてください」っていうオファーがすごく多くなっちゃって。需要がどれくらいあるかって自分ではわからないけど、例えば『レディ・プレイヤー1』だったら、普通はスピルバーグ推しだったりするけど、敢えてそうせずに、脚本家の目線という独自の切り口にしたり。具体的にいうと、「脚本家が実は80年代の映画が好きで、ゲームが大好きで、ゲームのドキュメンタリー映像まで作ってるザック・ペンっていう人で…」とか、そういうアウトサイドの切り口からコラムをやってくれって言われるわけ。王道なら誰でもできるけど、僕は王道じゃないところを切り口にするから需要がある。隙間産業ですよ。結局、畑を耕してるところはいっぱいあるけど、遠くの畑までは耕せないんですよ。だからやっぱり自分としては、メインストリームじゃなくアウトサイドのほうから、遠くの畑を耕すほうが、作品を柱として自力で支えてるような気がして好きなんです。それは映画の宣伝も同じで、メインストリームは誰だってできます。なんでかというと、お金を投入すれば、広告を打てるしCMも出せます。でも、お金を投入しないでどうやって限られた宣伝費でやるのか、頭を使って考えなきゃいけないとなると、王道で宣伝できない。だからアウトサイドから、遠くの畑を耕すやり方で宣伝していく。それが僕がホラー映画の宣伝ばっかりだった理由です。

局長:私が吉田さんに出会ったのも『テキサス・チェーンソー』の宣伝をされてた時でしたもんね。ほんと、宣伝、ライター、ジャーナリストと、いろいろされてて、ゲームもすごく詳しいですよね。

ジャンクハンター吉田さん:幅広くやってきたっていう部分で、肩書きを特に重要視しないで、この業界で生きてきてっていうのがあって、それが根底だよね。肩書きがあると、それだけ仕事の幅が狭くなるなと思って。だから名刺に肩書き入れてないでしょ。肩書きって、すごくこの業界で重要視される部分なの。でも肩書き入れないと、「こういう仕事できますか?」ってオファーが来るの、フリーランスだから。いや、できませんって断るときもあるけど、7割はできる仕事が多い。クライアントがある程度ネットで調べて、この人ならこういうことができるかなって思ってオファーしてくるの。フリーとして生きる道はそこだよね。

サン:では、定番の質問なのですが、この業界に入ろうと思ったきっかけを教えてください。

ジャンクハンター吉田さん:映画業界の話に限定しちゃっていいんだよね?

局長:はい、大丈夫です。

ジャンクハンター吉田さん:“タモリ倶楽部”っていう番組を80年代に観てて、当時は映画宣伝マンが月に1回くらい出てきて競い合ってたわけよ。それを観た時に、映画の宣伝マンって、喋れないとダメなんだなって思ったの。で、俺だったらこんな風にもっと喋れるのになって、自分で勝手にシュミレーションしてたのが高校生の時かな。それから1987年に、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『ロボコップ』を試写会で観て衝撃が走って、これは自分が考える映画の教科書だと思ったの。こんなに最後まで沸かせるような、これはもう自分の中の王道の王道で、無人島に絶対持っていきたい映画だなって。定時制の高校に行ってて、バイトでお金をいっぱい貯めてたから、このポール・ヴァーホーヴェンってよくわかんないけど、映画の業界に入れれば、この人にきっと会えるかもしれないなと思って、映画のチケット屋に行って、前売り券を全部くださいって言ったの。

『ロボコップ』

一同:ええー!!

ジャンクハンター吉田さん:「全部ですか?!」って言われて、「全部です」って答えて(笑)。その時自分は高校生だったから学生として普通はそんなに買えないじゃない。でも、まだチケットが誰にも買われてなかったので、50枚つづりが1束あって、「すいません。これ50枚一束ください」って言ったら、「一束ですか?!」って聞かれたから、「いや、これ本気です」って言ったんだよね。そしたら、そこの人達が “なんだかよくわかんない若者が『ロボコップ』のチケット50枚を買おうとしてるらしい、なんなんだこれ?”ってざわざわしてたけど、現金で買って。当時の銀座プランタンのプレイガイドの人達の中では伝説になってるかもしれない(笑)。

一同:いや~すごい。

ジャンクハンター吉田さん:やっぱりね、この業界に入る時の熱量が大事なんですよ。“タモリ倶楽部”に出てた映画宣伝の人達が熱量ないなと思って、あれは反面教師でしたね。やらされてる感があって、この作品を本当に心底愛してない状態で宣伝してるな~っていうのが伝わってきちゃって。宣伝マンだから仕方なくきてるのかなって、ブラウン管越しだったからそういう風に感じたのかも知れないけどね。でも、いつか映画業界に入ったら、自分は熱量100パーセントでぶっぱなすしかないなと思った。『ロボコップ』でうるっとくるのもおかしいかも知れないけど、試写会で観た時も号泣して、自分だけしか泣いてなかったけど、17歳の時かな。劇場公開してからビデオリリースを待てずに輸入版VHSも買って、「この道に進んで『ロボコップ』を担当したら、こうやって宣伝するのにな」って考えたり、いろいろ自分の頭の中でシュミレーションしてました。それでね、定時制高校で4年制だったので、卒業する間際、映画の仕事とか漠然とした状態だったけど、アメリカに行ったんですよ。『ドラゴンへの道』っていうブルース・リーの映画があって、ハリウッド俳優であり、空手家のチャック・ノリスをこの作品で観て、「この俳優すごい、胸毛むしられてる。なんだすげえ!」と思って、彼を好きになっちゃって。マーシャルアーツ本とか空手本とかもういろいろ調べまくったら、見つけたんですよ、住所を!チャック・ノリス道場って書いた、空手着を着たチャック・ノリス先生の写真が載ってたから、「これだ!」と思って、渡米して道場を訪ねたんです。で入門させてもらおうと道場に行った瞬間に、たまたまチャック・ノリス先生がいてね。

一同:ええー!すごい!

ジャンクハンター吉田さん:これはもう逃せないと思って、なんとかハリウッドで仕事ができるかも知れないって勝手に妄想が膨らんじゃって、何の経歴もなく、何の手土産もなく行って、「あなたの作品”THE WAY OF THE DRAGON”を観ましたよ。ブルース・リーではなく、あなたのファンになりました。あなたのジャンピング・バック・スピンキックは本当に強いんですか!?」って、片言の英語でペーパーを持ちながら喋ってね。でも「本当に強いんですか?」って聞いたもんだから、それを向こうが道場破りと勘違いしちゃって。

一同:アハハハハ!

ジャンクハンター吉田さん:これはまずいなと思ったけど、道場生達に囲まれちゃって、カラテもレスリングも、格闘経験なんて何もない人間が、でっかいサンドバックっていうかキックミットっていうのを持たされて、「歯を食いしばれ」みたいなことを言われて。チャック先生が「本当にいいのか?」って聞いてきたけど、全然言葉がわかんないから“Welcome”って言ったら笑い始めちゃって、3,2,1と数えた後、ボーンっとジャンピング・バック・スピンキックをくらったんです。吹っ飛ばされて、3回転くらい転んだのかなあ。

局長:漫画みたい(笑)。

ジャンクハンター吉田さん:そしたら道場生達が「なんだ、この日本人は!」ってなって、一気にそこで皆爆笑し始めたの。それまで道場破りが来たと思われてすごい空気だったけど、その後に皆笑いながら近づいてきて、「お前のキックミットの持ち方がおかしいんだよ」とかダメ出しされて、そこで一気に雪解けして、仲良くなったの。それでチャック先生に「お前は本当に何しに来た?クレイジーだな」って言われて、「いやあ感動しました。キック食らって回転したけど、あなたは本当に強かった」って、なんだか気持ち良くなっちゃって、感動して泣いてたら、「泣く必要ないだろ」って言われて、「観光ビザだから3か月間、ここで道場生としてやりたい」って話して、入れてもらったんだよね。道場にはどっかで見たような映画プロデューサーとか、俳優とかが来るわけ。やっぱチャック・ノリスってすごい人なんだって思い始めて、アメリカでは格闘家としても有名だし、俳優としても有名なんだなって、余計尊敬を抱いちゃって。だから、そこで練習してて、白帯のくせに試合に出たいっていう欲求が出てきちゃったんですよ。

局長:なんか運命に導かれてる感がすごくありますね。

ジャンクハンター吉田さん:チャック先生は映画の撮影があるから1週間とか10日に1回しか来てないらしくて、「お前はラッキーだ」って言われた。直接指導は、本当に1週間とか10日に1回、みっちりと教えてくれるんだけども、その間も自分達は本当もう底辺だから、道場の隅々を磨いたり、下積みをやらされたんですよ。でもそこにハリウッドの映画人がいっぱい来るから、ミーハー気分ですごくドキドキするわけ。でもビザが切れるので帰国したんだよね。

今回の記事担当:サン
■取材しての感想
私の想像を超える破天荒で濃密なエピソードに、仰天するばかりのインタビューでした!難しいことをいろいろと考える前に、自分の直観に従って行動を起こすことが大切だと感じました。ありがとうございました!

取材日:2018年6月1日

映画化されても良さそうなくらい、ドラマチックな人生を送られている吉田さん。次回も濃厚なお話をお聞きしています!→【中編を読む】

 

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About Author

局長

私も学生の頃に、こんな企画があったらやってみたかったな〜という思いも込めて立ち上げました。学生の間にしかできない体験をしてもらい、その体験を通して発せられる情報が、映画ファンの拡大に繋がればステキだなと思います。学生の皆さんだからこそ出てくるアイデアやエネルギーに触れて、私達スタッフも一緒に宣伝を楽しみたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします! 私は物心がついた頃から映画が大好きで、大学を卒業すると同時に大阪から上京し、ただ映画が好きという気持ちだけで突っ走ってきました。これまで出会った多くの方のおかげで、今は大好きな映画のお仕事をさせて頂いています。地方の学生の皆さんもぜひ参加してください。課題以外でも、皆さんと集まってお話ができる機会も作りたいと思いますし、少しでも皆さんの将来のお役に立てれば嬉しいです。