ジャンクハンター吉田さん:これはもう逃せないと思って、なんとかハリウッドで仕事ができるかも知れないって勝手に妄想が膨らんじゃって、何の経歴もなく、何の手土産もなく行って、「あなたの作品”THE WAY OF THE DRAGON”を観ましたよ。ブルース・リーではなく、あなたのファンになりました。あなたのジャンピング・バック・スピンキックは本当に強いんですか!?」って、片言の英語でペーパーを持ちながら喋ってね。でも「本当に強いんですか?」って聞いたもんだから、それを向こうが道場破りと勘違いしちゃって。
菊地さん:例えば、LPD【Los Angeles Police department】とか、Highway Patrolとか、警察の種類もいろいろあるでしょ?日本と警察の組織が違うから、わからないとドラマ自体がわからなくなっちゃう。となるとそれは調べなきゃいけないから、知ってそうな人に聞く。それと同時に、日本語に翻訳しなくちゃならないから、日本の警察のことも知らなくちゃいけなくなる。例えば、日本の警察で“巡査部長”って偉い地位に聞こえるけど、実際は日本の警察の中では下のほうなんだよね(笑)。
菊地さん:もうね、そんなのばっかり(笑)。1回だけね、ジェーン・オースティンっていうイギリスの19世紀の作家の名作で『いつか晴れた日に(原題:Sense and Sensibility)』っていうタイトルがあってね。何を間違えたか、僕に依頼がきたの。イギリスの18世紀か19世紀かを舞台にしていて、主人公が三姉妹。それに、男が一人。三姉妹だから、僕には女性皆同じ言葉になっちゃうわけ。でも、3人ともキャラクターが違うから、それじゃ本当はだめなわけで、一人ひとりしゃべり方も違わなくちゃいけない。男だったら、3人出てきたら3人全部違う言葉を使えるだけど、残念ながら、三姉妹はわからない(笑)!
高松さん:全部楽しいんですよ。だから何とも言えないですけど…。映画の宣伝だと、『あん』っていう河瀨直美監督の、樹木希林さんと永瀬正敏さんを起用して撮られた映画があって、宣伝的にもすごく転機になったし、あの作品に携わったことで、 “宣伝でカンヌに行く作品を手掛ける”っていうことが、会社の目標になりました。私達が手掛ける作品をレッドカーペットにのせるっていうのが目標だったんですけど、やっぱり河瀨さんの作品ということもあって、カンヌに行かせていただいて、樹木希林さんのような素晴らしい女優さんにいろいろ助けていただいて、ものすごく勉強になりました。興行収入1億円いったら御の字だねって言われていたのが、7億以上までいったので、そういう点でも結果が出せました。河瀨さんのような、世界の舞台で百戦錬磨に働いて、自分の好きなものを追求して、身を削っってエネルギーを注げる環境を作っている女性を目の当たりにして、すごく感激しました。そういう意味で映画って優劣はないですけど、映画祭の頂点であるカンヌ国際映画祭を経験できているのは、すごく大きかったです。あとセールスで言うと、TBSに入って1年目に、『NANA』という作品をアジアで公開させた時に、香港や韓国でもプレミアをやって、現地でレッドカーペットを敷いて、現地のメディアの取材も受けてっていう仕事をやったんです。現地の配給会社とコラボレーションして、ちゃんとお金をかけてプロモーションしたっていう経験のなかで、すごく大事なことを叩き込まれたなって。血尿が出たんですけどね(笑)。売るだけじゃなく、権利を管理するだけでもなく、海外の人と一緒に「いかに映画を当てるか」というローカライゼーションに取り組むっていう点で、いろいろな段取りで涙が出るくらい交渉して、仕事の難しさ、海外の方とのやりとりの難しさとかを目の当たりにしました。ただ、それがあったから、今回『十年 Ten Years Japan』っていう映画が実現できたんです。この作品に関わっているメンバーには当時出会った香港のメンバーもいて、それこそ香港のメンターみたいな方とも、その頃からずっと同じ業界でお仕事ができているっていうのは、すごくありがたいなと思います。