映画業界人インタビューVol.11有限会社アップリンク 代表取締役社長 浅井隆さん【前編】

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映画業界人にインタビュー:アップリンク浅井隆さん

映画業界人インタビューVol.11有限会社アップリンク 代表取締役社長 浅井隆さん【前編】

今回は、エージェントのミミミと、さおりが取材しました。このインタビューは2回に渡ってお届けします。

 

配給会社は1人でも始められる! 

ミミミ:アップリンクを作られる前は何をされてたんですか?

浅井さん:高校を卒業後に東京に来て、“天井桟敷”っていう寺山修司さん主宰の劇団に入って、寺山さんが亡くなるまで10年くらい舞台監督をやってた。

ミミミ:どんな経緯で舞台監督になられたんでしょうか?

浅井さん:入って1年も経っていないうちに先輩がやめたから。

ミミミ:元々演劇に興味があったんですか?

浅井さん:当時、天井桟敷は海外で公演したり、日本の他の劇団とは違うセンスがあったかな。

ミミミ:元々東京に出られたのはどういう目的だったんですか?

浅井さん:大阪出身なんだけど、やっぱり東京に行ってみたいと思って。10年間劇団にいて、寺山さんも亡くなって、何か自分でやろうと思った時に、配給は時間はかかるけれど一人でもできるような仕事だった。もちろん全く一人じゃなく、友達とかアルバイトの人達に手伝ってもらってね。

ミミミ:そこで演劇ではなく映画にしたのは何か理由があるんですか?

浅井さん:寺山さんは映画監督でもあったので、彼が作っている映画にもスタッフとして参加してて、映画はそんなに遠い世界じゃなかった。

ミミミ:一人で配給なんて大変そうで、私からすると自分でやりたいと思っていても躊躇しちゃいそうですが。

浅井さん:天井桟敷は、どちらかと言うと自由に自分達が考えたことを表現できる劇団だったんで、会社に入ろうとは考えなかった。演劇でも場所を借りて公演をするわけで、それは舞台監督としてやってたんで、配給ならできるかなと思った。
今って一人で映画配給をやる会社っていうか、屋号をつけて活動していらっしゃる方もいて、配給は一人でもできる。ただ一人でやってる場合は誰かから少し資金を出してもらって請け負ってやるケース、宣伝費を最初にもらってやっているケースがある。映画配給の仕事と劇場の仕事って考えると、お金の流れで考えてみるとわかるんだけれど、例えばカフェだと、お客さんを呼んでコーヒーを売ったら現金収入がその場であるよね。仕入れたコーヒー豆は先に送ってもらって、仕入れ代金はたいてい後で払う。普通僕ら一般人はお店に行ってお金を払って買うけど、店は月末に締めて、翌月末に払う。ということは払うまでに仕入れて売り上げをたてればいいわけだよ。ところが、映画の配給って、もし本当に個人で映画を買い付けて、いろいろ宣伝をやろうと思ったら、宣伝費とか、あとスタッフのお給料、事務所があったら家賃、電話、コピー機のリース代とか先にお金が出ていく。入ってくるのは映画上映した後。だから、配給は結構大変だけれども、そういうことを僕はよくわからなかったから、とりあえず最初に映画を買い付けて、配給して、その上映収入が入ってくるまでは全然貧乏だよ。でも使ったお金プラスアルファがちょっと入ってきて、それを回転させてやっていけた。

ミミミ:お金の工面が結構厳しそうなイメージです。

浅井さん:厳しい、厳しい。

ミミミ:なのに配給会社をやっていこうと思ったのはなぜですか?

アップリンク吉祥寺オープン20181214

2018年12月14日にオープンしたアップリンク吉祥寺

浅井さん: 1987年にアップリンクを作ったんだけど、ちょうど時代的にミニシアターブームっていうのがあった。2人はまだ生まれてないでしょ?

ミミミ&さおり:はい。

浅井さん:そうだよね。今年で会社作って31年だから。今のアップリンクは40席とか、大きくて58席あるけど、当時は200席、300席とある劇場でも、ミニシアターって言われてて、僕からするとミニじゃないけどね。それがいくつかできてきて、館主が見せたい映画を1スクリーンで1作品、何週間も上映するスタイルがあったんだよ。それがミニシアターのやり方で、それぞれの個性があったわけ。業界の言葉だと単館上映って言って、1つの劇場で1作品しかやってなかったから、その映画を観たいならそれをかけている映画館に行くしかない。そういう状況があったので、アップリンクも映画を輸入して上映して、そこでうまく続けられたっていう状況があったかな。

さおり:その配給会社を設立させた後に劇場をオープンさせたんですよね。

浅井さん:ただ、劇場は配給と違って一人じゃできない。映画館は休みなく上映してるしね。お金の流れも配給とは全然違うけれど、やっぱり最初に映画館を作るっていうのはたぶんできなかった。最初一人で配給をして、それでスタッフが何人か増えて、今度は小さい場所を持とうってなったときにスタッフがいて初めてできたことかな。

さおり:その流れは元々視野に入れてたんですか?

浅井さん:元々外国の映画を日本で配給することが多かったんで、上映してもらうには映画館と交渉しなきゃいけない。そうすると、こちらがこの作品はおもしろいからお客さんが入ると思っていても、映画館はそう思ってくれなかったり。で1990年代、2000年代ギリギリまではミニシアターの時代だったんで、作品と劇場の個性が合う形にしようとすると、自分達で上映する場所が欲しいなと思った

アップリンク吉祥寺オープン20181214

2018年12月14日にオープンしたアップリンク吉祥寺

ミミミ:吉祥寺に新たに劇場をオープンしようと思ったきっかけは何だったんですか?

浅井さん:週末はアップリンク渋谷がだんだん満席になっちゃって、3スクリーンしかないから、お客さんにサービスがちゃんとできない。ビジネスとして、吉祥寺は都心でありベッドタウンでもある。そういう意味じゃチャンスはあるかなと。

さおり:いくつか候補があった中で吉祥寺を選ばれたんですか?

浅井さん:人口の推移を見て、人口が減ってないところ。そうすると東京なんだよね。これからシネコンは池袋に2つもできるし、たぶん品川と東京の間にできる新しい駅にもどこかのシネコンができると噂されてるし、渋谷ヒカリエの横にも109のシネコンができると言われてる。人口が増えてるのは都心なんで、都心はまだ映画館ができる余地がある。だって会社が渋谷にあるからずっと通ってるけど、若者が多いセンター街はずっと若者が多いもん。20年前も今も。

局長:吉祥寺と渋谷で一番違うところはどういう点ですか?

浅井さん:デパートの東急に皆自転車で来る。

アップリンク吉祥寺オープン20181214

2018年12月14日にオープンしたアップリンク吉祥寺

局長:その文化的な違いは、作品を選ぶ時にも変わってくるんですか?

浅井さん:平日の昼間はやっぱり主婦、子育て中の方、あるいはシニア層とかが、お客さんになるんじゃないかな。映画ファンだけじゃなくても、子育て中のお母さんとかはかつて映画を観てたけど忙しくて、新宿とか渋谷に電車で一本でも来ようとはなかなか思わないじゃない。でもスーパーに行くついでに2時間映画を観ることはお母さん達の生活のライフスタイルに入るんじゃないかな。
5スクリーンあるんで、もう少し多様な編成ができるよね。例えば夏休みとか、春休みは子ども用のアニメとか。

取材日:2018年11月27日

今回の記事担当:ミミミ
■取材しての感想
私が初めてアップリンク渋谷で観た映画が2015年公開の『ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償~』でした。それ以来、ファストファッションの洋服屋に行くと今でもこの映画が頭をよぎります。それ以降も基本的に私はアップリンクにドキュメンタリー作品を中心に観に行っています。アップリンクで観る作品からは、毎回、劇場を後にする時に何か頭の中に重しを詰め込まれたような、そんな強烈な衝撃をくらいます。今回、浅井さんとお話をさせて頂いて一番印象に残ったことは、「社会と繋がっている映画をやっていきたい」とおっしゃっていたことです。映画は、元気のない時の特効薬であるようなエンターテインメント性もありますが、私達の知らない、気づいていないようなことを教えてくれる、考えさせてくれる側面も多く持っています。ただ目に映すだけではなく、自分で考え、消化し、一生自分自身のカラダの中に残っていくような映画を上映するアップリンク。そこに込められた思いを聞くことができ、とても嬉しかったです。

 

とにかくパワフルにいろいろなことにチャレンジされているアップリンク。後編では今の日本の映画業界についての浅井さんのお考えなどをお聞きしています。若者が鍵だそうですよ!→【後編を読む】

アップリンク吉祥寺オープン20181214

★UPLINK吉祥寺オープン!

〒180-8520 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1 吉祥寺PARCO2階

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局長

私も学生の頃に、こんな企画があったらやってみたかったな〜という思いも込めて立ち上げました。学生の間にしかできない体験をしてもらい、その体験を通して発せられる情報が、映画ファンの拡大に繋がればステキだなと思います。学生の皆さんだからこそ出てくるアイデアやエネルギーに触れて、私達スタッフも一緒に宣伝を楽しみたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします! 私は物心がついた頃から映画が大好きで、大学を卒業すると同時に大阪から上京し、ただ映画が好きという気持ちだけで突っ走ってきました。これまで出会った多くの方のおかげで、今は大好きな映画のお仕事をさせて頂いています。地方の学生の皆さんもぜひ参加してください。課題以外でも、皆さんと集まってお話ができる機会も作りたいと思いますし、少しでも皆さんの将来のお役に立てれば嬉しいです。