映画業界人インタビューVol.12独立行政法人 国際交流基金 映像事業部 寺江瞳さん【後編】
Category : 映画業界人インタビュー , 大学生・専門学校生
国外からは、日本の映画市場や映画業界はどう見えている?
おこめとパン:学生の頃にやっていて、今のお仕事で役に立っていることがあれば教えてください。
寺江さん:仕事に役立っているかわからないですけど、学生の頃にしかできないことってあると思うんです。長期的にやること、例えば旅行とか勉強とか留学とか。すぐお金や結果にならないことも、考えたりトライしたりする時間がたくさんありますよね。映画鑑賞や読書もそう。私も学生時代にボランティアで学生向けマガジンのライターをしていておもしろいなと思って新聞記者を志望したので、何が将来に繋がってくるかわからないですが、いろいろやったほうがいいと思います。きっと社会人は皆同じことを言うと思いますが(笑)。
おこめとパン:今の学生って、とにかくやりたいことが見つけられないっていう人が本当に多いんです。私とミミミちゃんは映画を作りたいんですけど、それをなかなか言えなくて…。
寺江さん:そうなんですか!?東京なんかだと、逆に情報が多過ぎるんですかね。
おこめとパン&ミミミ:確かに…。
寺江さん:だから地方のほうが逆にハングリー精神みたいなものがあったりするのかなあ。
一同:あ〜。
寺江さん:私は大学まで九州に住んでいたので、東京にいる学生って、すごく羨ましいですけどね!映画や文化イベントも多くて第一線で活躍する人にも会えるし。もちろん東京以外でもいろいろおもしろい活動もあるし、とにかく何かしないともったいない。
おこめとパン:そうですよね。学生って時間があるからこそですもんね。ちょっとお話が変わってしまうんですが、海外とのお仕事をすごくたくさんされているなかで、国外から見た日本の映画市場や映画業界はどういう風に見えていると感じられますか?
寺江さん:ドメスティックな思考が強いなと思うことはあります。国内市場内で興行として上手くいっているのは喜ばしいことですが、もっと海外でも見てもらえるチャンスが増えたら良いなと。日本映画はアニメをはじめとても人気が高いですが、世界的には、映画館で日常的に観られる環境にはなっていない。
一方で監督さん、プロデューサーさんなどと海外に一緒に行くと、海外での映画市場や制作、海外の文化などに非常に興味を持ってくださる方が多いんです。意外と監督って海外で反応を見る機会が少ないんでしょうね。実際、基金でもいろんな国で上映していますが、報告しても監督まで届かないことが多いと思うんです。だから、私達としてはそういう反応を知るチャンスにしていただきたいというのもあります。文化の壁を越えて共感を得られることを実感していただくことは、その後の作品作りにも良い影響を与えてくれると思います。
近年は海外との共同制作も増えているので、実際にどんどんお仕事のオファーがきている方もいます。基金では海外の制作者や映画業界の方との交流の機会を設けるようにしているので、つながりをつくり、その後の海外展開の手助けができればと思います。
ミミミ:他の国で映画祭を行うにあたって大変なことはありますか?
寺江さん:海外の基準と日本の基準が違うし、海外はしょっちゅういろいろなことが変更になります。日本人の感覚だと、先に話し合って決めていって、決めたことは基本的に変えないみたいな感覚だと思うんですけど、中国に限らず海外は随時変動していくというか。直前に決まることもあれば、日程とかも全然変わるし、国によって検閲があったり、許可が下りなかったりすることもあります。基本的に仕事の進め方が違うので、文化を尊重しつつ、日本側が求める水準はキープできるよう説明や確認を丁寧に行うなど、気をつけています。
ミミミ:海外の映画祭での観客のテンションはどうですか?日本人って映画を観る時に静かですが。
寺江さん:そうそう、笑いは中国のほうが結構おきますね。お客さんが若いのもあるかもしれませんが、テンションが高いんだと思います。「えーっ!」とか声を出したり、手をたたいたり、日本人と全然違いますね。あとはティーチインの時間って、日本ではあまり手を挙げる人がいないじゃないですか。
おこめとパン&ミミミ:挙げない、挙げない…(笑)!
寺江さん:ですよね。今まで何十回と上映後のトークをしていますが、質問がなかったのは1回しかないですね。結構次々に挙げてくれて、日本語もできるお客さんがとても多いので通訳なしで日本語で質問する方が多い(笑)。
局長:質問がたくさん出ると、登壇者も嬉しいですよね。
寺江さん:そうですよね。質問もすごく深くて、よく観てるなって思うことも多いです。あと「自分はこう思うんですけど」ってことを恥ずかしがらずに一生懸命話す人が多い。日本の俳優や映画、ドラマなどもよく知っているなあと驚きます。
昨年秋に石井裕也監督に深センと広州にゲストでご登壇いただいたとき、映画館で100人規模くらいのトークイベントをしたのですが、満席でみんなが次々に質問し、熱視線が監督に集中していて。監督は「(観客の)圧がすごい!」とびっくりされていました(笑)。そういう体験はなかなか日本ではないんじゃないかなって思います。あと昨年重慶では、現地の共催団体のボランティアスタッフに映画を学んでいる学生たちが多かったのですが、篠原哲雄監督がスタッフの学生に「どんな映画を撮ってるの?」と話しかけてくださって、学生に映画を撮るときのアドバイスをしてくださっていました。映画を届けるだけでなく、作り手の方と実際にお会いし、触れ合えるのが映画祭の良いところですから、映画祭を通じてそんな交流を積み重ねていければと思います。
お客さんに若者が多いこともあるんですけど、若者がこれからの世界を作っていくので、特に多くの若者に交流の機会を作っていきたいです。
一同:今日はありがとうございました!
取材日:2018年11月27日
今回の記事担当:おこめとパン
■取材しての感想
「こんなお仕事があるのか!」という発見と、世界各国にはそれぞれの価値観があるという当たり前なことを改めて実感しました。言葉と文化を超えた手段の1つに映画があることが映画ファンとして本当に誇らしいです。楽しいお時間をありがとうございました!
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