数年前から、映画業界ではパワハラへの告発があったり、この数ヶ月ではセクハラ被害が複数報じられました。多くの方が今に始まったことでもなく、映画業界に限ったことではないと感じていらっしゃると思います。トーキョー女子映画部スタッフも問題が報じられる度に、ハラスメントは許せないという気持ちになると同時に、加害者以外の方々の努力や被害者の方の思いを考えると、私達の立場ではどうするのが正解なのか悩んでいます。ただ、これは簡単に答えが出ることではないとしても、考えることから逃げてはいけないと感じています。
そして、トーキョー女子映画部としてこの問題にどう向き合っていくかを考える上で、当部を支えてくださっている正式部員の皆さんのご意見を知りたいと思い、今回アンケートを実施しました。選択肢に答えるだけで終わらず、多くの方がコメントを書いてくださったことからも、皆さんがこの問題にとても深い関心を持ち、映画業界、ひいては社会全体の改善を願ってくださっていることが伝わってきました。今回はそのアンケートの結果を掲載します。
アンケート回答人数 10代を含む女性253名(調査期間:2022/3/22〜4/10)
Q:あなた自身にとって、ハラスメント問題は身近なところにありますか?
Q:観たいと思っていた作品に、ハラスメント問題が起きたと知った場合どうしますか?
Q:ハラスメント問題が起きた作品の劇場公開はどう扱われるべきだと思いますか?
上記の理由や「その他」と答えた方の意見
「この先ずっと劇場公開すべきでない」と答えた方の理由
- そのくらいの措置は取らないとハラスメントを防止できないと思うから。(20代後半)
- しっかりとした調査と改善ができるとは思えない。必ず隠蔽する。(30代前半)
- いくら演技がよくても映画に罪はなくてもハラスメントが思い出させられるから。相応しくない。(30代後半)
- 公開されれば、なんでもアリという実績ができてしまい、問題はなくならないと思うため。(30代後半)
- 作品に関わった方全員に被害があるのでかわいそうだとは思うが、やはり観たくない。(40代前半)
- 誰かが傷つけられたり、つらい思いをした上でできた作品では感動できない。(40代前半)
- 自分自身がハラスメントにあい、相手を許せないから、観て思い出したくない。(50代)
「一旦延期して、しっかり調査と改善ができてから判断すべき」と答えた方の理由
- 1人のせいで、劇場で公開するつもりでたくさんの人の努力を合わせて作られた映画を延期するというのはあまりにもひどいと思うが、だからといってたった1人の悪い行いと片付けられて何事もなかったように公開するのも、公開を心待ちにしていた観る側にとってもその映画に関わった大勢の人にとってもありえない判断だと思う。 実際あるハリウッド映画で問題が起きたとき、何事もなかったかのように公開して、批判の声を完全無視してプロモーションをしているのを見て、今後もその監督とキャスト(当事者以外でも)の出ている映画を観たくなくなるくらいの気持ちになった。ファンのためにも関わった他の制作者のためにも、延期をするなりして一度問題を解決する努力をしてほしい。(20代前半)
- 犯罪が関わっているから。(20代後半)
- 映画制作は大勢が関わるため、その内の一人が問題を起こしたことで映画公開がなくなり得られるはずだった収入がなくなって苦しむ人がいると思うと簡単な問題ではないとは思います。責任ある立場の人の自覚のない行動のせいで、割りを食うのは弱い立場の人なので。(20代後半)
- 加害者側の利益になることは避けたいが、被害者側の努力が披露されないのは残念。被害者側が観てほしいと思っているなら公開すべき。(30代前半)
- すぐに公開されてしまったら、問題が棚上げされる可能性がある気がする。問題はきちんと調査されるべきで、加害者は必ず何らかの責任を取るべき(謝罪、引退、賠償、刑罰、etc.)。(40代前半)
- ハラスメントをする側とされる側の立場によっても判断が変わってくる微妙な問題。映画は映画、作り手の問題とは切り離して考えたい。(50代)
- 観ないことが改善につながるのか否か、結論が出るのには時間がかかると思うが、「仕方ないよね」で終わらせるのはイケナイ。(50代)
- 誠実に向き合った人達が報われるよう、しっかり調査、判断をお願いします。(50代)
- はっきりとした調査と本人への処分がおりるまで、公開はしない方がよい。(50代)
- ハラスメントに関わっていないその映画の関係者が可哀そうだが、今後このような問題が起きないよう、発生したら公開できないとあらかじめ明記し決めておくべき。(60代以上)
「劇場公開しても良いと思う」と答えた方の理由
- 映画作品というのは多くの人々の共作であり、ハラスメントが起きたとしてもその当事者のせいで他の制作者達の努力までなかったことになるのはよくないと思う。(20代前半)
- かまわず観る、公開しても良いと思う、というのは、ハラスメント問題に関与していない多くの人への損失が大きいと思うからです。もちろん問題の加害者には然るべき措置を講じねばなりません。関与していない人、被害者へのリスペクトを示すためにも作品を鑑賞したいです。(20代前半)
- 被害者が許すなら、また観る側がお金を払ってでも観たいと思うものなら、一律禁止することではないかなと思う。ただし公開して当事者が傷つく場合は、公開するべきではないと思う。(20代後半)
- 個人的にはどのようなハラスメントも生々しすぎて観たいとは思わないが、問題提起の意味で作品公開があってもいいと思う。観る観ないは各自で判断するべき。(30代前半)
- 不快になる人や傷付く人もいると思いますが、映画はお金を払って観るという、自分で選択するものなので、公開自体はしてもいいと思う。(30代後半)
- 作品に罪はないのでお蔵入りにはして欲しくない。ハラスメントは当事者に自覚がない場合もあるので公開のタイミングはケースバイケースだと思う。(30代後半)
- その作品にかかわる全員が、ハラスメントに関与したわけではないと思うから。まじめに取り組んでいた方が大半ではないでしょうか。それを考えると、作品自体に罪はないと思うからです。(50代)
「その他」と答えた方の理由
- この問題は難しくて、自分が好きな監督や俳優が関わっているかどうかでも考えが変わると思います。自分が好きな俳優が出演していて、他の人が問題を起こしたなら、(自分が好きな俳優は)問題には関係ないから観たいと思うでしょうし…。 ただ、映画業界の健全化を考えれば、こうした問題が起きた作品は、いかなる事情であれ、一切日の目を見るべきではないと思います。そのくらい厳しい対応を取ることによって、関係者全員に”何かやらかしたらすべてが水の泡になる”という緊張感が生まれると思うので。そのくらいしないと問題はなくならないと思います。 (40代前半)
Q:ハラスメントの加害者のその後について、どちらの考え方に近いですか?
映画業界のハラスメント問題について思うこと
- 表と裏のある世界だからこそ、裏の部分が見えづらいこの世界で、もっとポジティブに、クリアに俳優さんたちが過ごせる日々を作ってほしいなと思います。(20代前半)
- さまざまなハラスメントが横行していると噂されており、難しいと思いますが改善してほしいです。加害者には厳罰が然るべきだと思います。(20代後半)
- 昔の常識や指導方法が今の時代だとハラスメントに該当することがある。団塊世代と呼ばれる方達の中には頭が堅い方、新しいことを否定する方もいるので、そういった方は難しいと思うが、何か問題を起こしてもその後の行動で更生したと周囲が思うのなら才能なども加味して復活もありだと思う。(20代後半)
- 映画業界に限らず、弱者が消費されるのはツラいし悔しいです。どうすれば良いのかの解決策を私は持ち合わせていませんが、努力した者が雑に消費される構造が少しでも改善されることを祈っています。(20代後半)
- 作品自体は気になるけど、見えないところで起きてることについて関心は持たないといけないのかなとは思います。(20代後半)
- 非常に残念。一部の人間のせいで映画業界に関わる人達にも風評被害を与えていることも。(30代前半)
- 本当に残念な問題がたくさん露呈してきて辟易しますが、このようなアンケートで少しでも問題提起してくださることは大切なことだと思います。出演俳優のファンだから監督がハラスメントをしても映画は公開して欲しい、映画館の支配人がハラスメントをしても観たい映画があるからその映画館の存続を願う、というのは思考が停止していると思います。関係ないと思わず、大人なら少しは考えて欲しいことだと思います。考えた結果その意見ならそれはそれで良いのですが。(30代前半)
- 作品によって配給会社等の判断に委ねるのではなく、映画業界として一律のルールを設けるべきと思います。またハリウッドのような分厚い契約書の世界もどうかとは思うものの、やはりこのような問題を防ぐためにも、事前に契約書を交わすことで、お互いの緊張感を高めることも必要なのではないでしょうか。(40代前半)
- 当事者である被害者の傷が癒えて加害者を許すことができるようになるまでは、PTSDなどの2次被害を防ぐためにも表に出ることは控えて欲しいです。 そして被害者が許せたのなら周囲が認めなくても復帰して欲しいです。(40代前半)
- 映画業界に限らず、日本におけるハラスメント問題に対する対応は遅れていると感じています。映画は、時代の問題を切り取り提示していく役割もあると思っているので、社会全体よりも、より先端の感覚を持っていて欲しいです。 今、問題の対処としては過渡期かと思うので極端な判断をせざるを得ない場合もあるように思いますが、その痛みを伴いよりよく改善していくことを望みます。(40代後半)
- 映画業界というより完全に個人の問題だと思っています。(40代後半)
- もはや常識化してきたことがどんどん変わってきている現実は素晴らしいと思います。セクハラはもとより、パワハラや労働時間の長さ、賃金の低さなども改善されてほしいです。(40代後半)
- 映画人のハラスメントに対して、同業者達が擁護する、声をあげない動きのほうが問題。「映画ムラ社会」でお互い依存しあって仕事を融通しているから、業界内で声を上げずハラスメントはなくならない。製作者も監督もどちらも立場が強いから逆らえないのでしょう。枚挙にいとまがないセクハラ問題、パワハラ問題など、毎日うんざりしている。私が以前ほど映画を観なくなったのもこうした業界内のもたれ合いを見るのが嫌になったから。(50代)
- 映画だけの問題ではないが、声が挙がったことは改善への一歩と捉えたい。無かったことにはしてはいけない。また、女性だけの問題ではないと思っている。(50代)
- 弱き者が声を挙げられる環境となるよう願ってます。(50代)
- 映画業界に限らず、誰かが嫌な思いをしたり強いられたりする犠牲の上に成り立つ仕事は、良い仕事とは言えないのではないでしょうか。 多くの人を楽しませるための映画を作る業界ならなおのこと、いろんな意味でクリーンでないと相手に夢は与えられないと思います。(50代)
アンケートに回答いただいた皆さん、ありがとうございました!今回のアンケート実施についても、中にはハラスメントの被害に遭われて辛い出来事を思い出す方もいらっしゃるのではないかと悩むところがありました。でも、大変貴重なご意見をたくさんいただけて本当に感謝しています。今回選択肢を設けた設問も、問題が起きた背景は当事者にしかわからないという点、作品の内容や加害者がどんな立場だったかということ、皆さんが好きな俳優さんが出演されているかどうかなど、さまざまな事情を踏まえると、一律に回答するのは難しかったと思います。コメントについてはすべてを載せきれませんでしたが、作品を公開すべきかどうか、自分は観るかどうかといった選択は異なっても、多くの方はハラスメントは許されず未然に防ぐべきことで、被害者を守るべきだと考えていることに違いはないということがわかりました。
トーキョー女子映画部の代表として、私もこの場をお借りして自分の体験と見解を述べたいと思います。被害に遭われた方の気持ちは第三者がどんなに考えても、その辛さはご本人にしかわからず、私達の想像を超えるものだと思います。私も芸能活動をしていた複数の友人から怖い思いをしたと後から聞かされたことがあります。それは何かと引き替えにというのでもなく、一方的に脅しのような形で起きたセクハラでありパワハラです。その背景には加害者の権力に対する恐れもあると思いますが、それを誰かに相談して周囲に知られた時に自分自身がどんな目で見られるのかという恐れ、無関係の周囲の方に迷惑がかかるという恐れ、そして大事な人に心配をかけたくない、自分のことを大事に思ってくれている方を悲しませたくないという思いも大きいのではと思います。また、たとえ被害者の名前が伏せられたとしても映画の場合は作品名、一般的にも企業名などが出ただけで、いろいろな憶測が飛び交い、個人を特定しようとする人、被害者を誹謗中傷する人が出てくることは想像に難くありません。そうなると二次被害を受けてしまうだけでなく、今はSNS等で広く知られてしまい、その後の生活が脅かされ、大切な人も巻き込むことになります。だから、ご本人が誰かに相談するのも、相談を受けた第三者が告発するよう勧めるのも、想像以上に難しいのではと感じています。
自分自身も大事には至りませんでしたが、あの時逃げていなかったら…と思うと怖くなる経験はあります。そのことは誰にも言えず、このアンケートを採るべきか社内で相談する時に初めてスタッフに話しました。これまで誰にも言えなかった理由の1つは、それが起きたのが大変お世話になっていた方が主催していた飲み会だったからです。自分が開いた飲み会でそんなことが起きていると知ったら、その方はどんなにショックを受けるかと考えました。相手と私は仕事で直接の繋がりがなくその後は会うこともなかったのが不幸中の幸いでしたが、私が尊敬する方の身近なところにすらこんな人がいるのかと大変ショックを受けました。また夢を抱いて飛び込んだ世界で幸せに過ごしていたのに、そんな人のせいでそれが壊されるのかと思うと心底悲しくて悔しい気持ちになりました。思い出してもゾッとするので、そんな出来事に自分が遭ったと認めたくないという気持ちもあり、誰にも言わずにいたのだと思います。
問題のあった作品の公開については、私個人としてはやはり真相を明らかにして加害者への然るべき措置が決まってから、被害者の方の意向を最優先して、皆で考えるべきだと思います。結局上層部だけで決断したのではそれ自体がパワハラになりかねず、問題の風化を招きかねません。ただ今回のアンケートで複数の方が書かれていたように、その作品に携わる多くの方の生活がかかっています。そして作品に関わる企業の存亡にも関わってくるので、それがまた巡り巡って個人の死活問題に繋がり、しわ寄せは弱者にいきます。でも、それを問題をうやむやにして公開に踏み切るための理由にすべきではありません。だから、今こそ業界全体でルールを作って、管理システムを整備すべきだと思います。また、第三者機関が必ずチームに加わり教育し、監視したり、被害者が安全に告発できる体制を作る必要があるのではないでしょうか。古い体質を変えるのは大変で時間がかかるかもしれませんが、年齢や経歴、性別、立場に関係なく、対等な立場で皆がこの問題の当事者として向き合う姿勢を取ることは今からすぐ個人個人ができる行動の1つだと思っています。私達も私達ができることに1つずつ取り組んでいこうと思います。(トーキョー女子映画部・主宰:マイソン)
TEXT by トーキョー女子映画部正式部員&Myson