何も知らずに観たい方は、下記のレビューは映画を観終わってから読んでください。
現代の日本で、テッド・バンディのことをどれくらいの人が知っているでしょうか。彼が何者かを知って観るか、知らずに観るかで、この物語がどう見えるかに影響すると思いますが、テッド・バンディと聞いて、実在の連続殺人犯の名前だということはわかった上で観た私でも、真相までは詳しく知らなかったので、本作を観るうちに「彼は冤罪だったの?」と思ってしまうほどでした。本作は、実在の連続殺人犯テッド・バンディの物語ですが、彼の犯行の裏側を暴く物語ではなく、彼の長年の恋人リズ(エリザベス・クレプファー)の著書「The Phantom Prince:My Life with Ted Bundy」(1981年出版)を原作として、彼女の視点を通した1人の男性としてのテッド・バンディの姿を映し出しています。なので、観ている側もリズと同じように、彼が本当に卑劣で凶悪な連続殺人犯なのか疑いながら、同時に彼が無罪だと信じたいという気持ちにだんだんなってきます。ザック・エフロンが演じたからテッド・バンディが魅力的に見えるということももちろんありますが、実際のテッド・バンディ自身、ハンサムでIQ160の頭脳を持ち、法に詳しく知的な人物でした。そんなイメージもあり、彼の周囲の人は彼を疑うこともなく、逮捕されてからも多くのファンレターが届いていたそうです。本作を観ると、いかに彼が殺人犯に見えないかがよくわかるのですが、具体的な言葉で表現するのに抵抗感があるほど、彼の実際の犯行はむごくて、非人間的で、表の顔とのギャップで余計にゾッとさせられます。本作は、ドキュメンタリーシリーズ『殺人鬼との対談 テッド・バンディの場合』を監督したジョー・バリンジャーが、同じく監督をしていますが、本作では敢えて彼が犯行に及んでいる姿を描きませんでした。逆にドキュメンタリーでは、彼がどんな人物だったか、4話に渡り綴られていて、いかに恐ろしい人物だったかがわかります。監督のお話について詳しくは、来日した監督にインタビューをさせて頂いたので、そちらもぜひ合わせて読んで頂ければと思います(12/19掲載予定)。
とにかく、本作を観ているとテッド・バンディという人物に引き込まれるのは言うまでもなく、だからこそラストは背筋が凍ります。彼の本当の怖さを犯行場面で見せるのではなく、ラストのあのシーンで表現したのは見事で、あういう一面こそ彼が恐ろしい人間であることを証明しています。人間はやはり見た目ではわかりませんね。
テッドとリズのラブストーリーとして観る部分がありつつ、これは実話で、最後の最後でゾッとさせられるので、ロマンチックなムードになるのは難しいでしょう。ただ、愛する人を信じたいと願う気持ちには共感できると思うので、パートナーと一緒に観ると、感想は語り甲斐があると思います。でも、少し相手に何らかの怖さを感じているなら、1人で観に行くか、仲の良い友達と観て、冷静に客観視するきっかけにするほうが良いでしょう。
R-15なので15歳未満の人は観られません。本作の主人公テッド・バンディは、30人以上の女性を殺害し、その方法は本当に残虐で信じられないものでした。犠牲になったのは、若い女性ばかりで、悪人には見えず、むしろ魅力的な男性に見えた彼に油断してしまったり、彼の卑劣なやり方に騙されてついていってしまった人もいるようです。本作はすぐ身近に危険な人物がいること、そしてそれは全く殺人犯には見えない可能性があることを実感させてくれるお話です。信じられないけれど、これは実話です。観るならば、教訓として欲しいと思います。
『テッド・バンディ』
2019年12月20日より全国公開
R-15+
ファントム・フィルム
公式サイト
©2018 Wicked Nevada,LLC
合わせて観て欲しいテッド・バンディ本人の映像、肉声によるドキュメンタリー
『殺人鬼との対談 テッド・バンディの場合』
先に映画『テッド・バンディ』を観てから、本シリーズを観ました。映画でも彼が恐ろしい人物であることはラストでわかりましたが、このドキュメンタリーを観て、彼の本当の恐ろしさを痛感しました。そして、真相を知れば知るほど、彼は魅力的などころか、あまりに屈折していて、卑劣な人間かがわかります。彼が事件を起こして逃げていた1970年代には、まだ法医学や科学捜査が今ほど進んでいないばかりか、アメリカの州同士で警察の捜査の連携もとれていない状況でした。今の時代だったらすぐに捕まっていただろう状況に思えますが、彼は何度も逃げ延び、捕まっても脱獄を繰り返しています。また、彼はメディアを利用したことでも特殊ですが、彼がいかにして自分を無罪に見せるためにパフォーマンスしていたかも、本作を観るとよくわかります。ジョー・バリンジャー監督は、『テッド・バンディ』とこのドキュメンタリーと、両軸でテッド・バンディという人物を描いていますが、近視眼的に観るテッド・バンディと、客観的に観るテッド・バンディとの比較で、より彼の複雑な闇の部分が浮き彫りにされています。このドキュメンタリーでは、彼を犯人だとするヒントに何度も近づきながら捕まえられなかったもどかしさも綴られていましたが、その教訓を活かすべく、テッド・バンディのケースがきっかけでFBIや警察の捜査方法が変わったことも語られており、その影響の大きさがわかります。
彼を観ていると、殺人鬼は私達のすぐそばにいるかも知れないということを痛感させられると同時に、人の持つイメージの影響力の強さに驚かされます。また、彼が恐ろしい人物だとわかっていてもファンになってしまう女性達の心理も、人間の危なっかしさを物語っています。とにかく世の中にはとんでもない人間がいるという恐ろしさを知らしめるドキュメンタリーです。
『殺人鬼との対談 テッド・バンディの場合』
Netflixにて配信中
TEXT by Myson