ベトナムの民族楽器であるソン・ランには、「2人の男」という意味があるそうで、ユンとリン・フンがそれを象徴しているのだろうとわかります。2人は惹かれ合いますが、短絡的に同性愛へ結び付けるわけではなく、性別を超えた、いち存在としてお互いに呼応しているような関係性が、美しい音色を出す民族楽器ソン・ランを象徴しているように思えて、芸術的、文学的表現に好感が持てます。物語の舞台となる1980年代は、ベトナム戦争終結後、1978年のカンボジア侵攻から中越戦争に発展した厳しい時代。ユンは借金の取り立て屋として生計を立てていて、一見悪役のように振る舞っていますが、ふとしたところで根が優しい面が現れ、無理やりいろいろなものを割り切って生きてきた背景が見え隠れします。そんな彼が、リン・フンとの出会いで変わっていき、リン・フンもユンとの出会いで変わっていく様子が微笑ましく、表裏一体のような2人の関係が素敵です。このストーリーにはとても切ない展開もありますが、捉え方によっては、浄化されたということなのかも知れません。あと急に軽いレコメンドになりますが(笑)、ユン、リン・フンがイケメンというところもオススメポイントです。
カップルで観て気まずいシーンはあまりなく、私達の生活に近過ぎず遠過ぎずなので、カップルで観るのもアリでしょう。切ないストーリーも、良い意味でしっとりしたムードをもたらしてくれそうです。ハリウッドのアクション大作など派手な映画が好きな人には不向きかも知れませんが、ドラマ性のある作品が好きな人なら誘ってもオーケーでしょう。
ユンと両親との話も出てきて、子どもの頃の思いも綴られています。社会背景は違っても、親の仕事の状況や、両親の夫婦としての関係を子どもながらに心配する気持ちは、時代も問わず、万国共通だと思います。何かに傷ついて、一度別の道を選択したユンが、自分のルーツを見直す姿は、今後の皆さんの未来を想像する上で良いシミュレーションにもなるでしょう。
『ソン・ランの響き』
2020年2月22日より全国順次公開
ムービー・アクト・プロジェクト
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TEXT by Myson