第31回東京国際映画祭ジェムストーン賞ほか、各国の映画祭で数多く受賞している『ソン・ランの響き』の監督レオン・レさんと、主演のリエン・ビン・ファットさんが来日。俳優のキャリアもお持ちのレオン・レ監督と、今回映画初出演のリエンさんに、演技のことや、映画作りへのこだわりなどをお聞きしました
<PROFILE>
レオン・レ:監督、脚本
1977年サイゴン(現ホーチミン)生まれ。13歳の頃から南カリフォルニアで育ち、現在はニューヨークに在住。ブロードウェイで俳優、ダンサー、歌手として活躍した後、幼い頃から夢だった映画監督を目指す。製作した短編映画“Dawn(原題)”“Talking to My Mother(原題)”は、ベトナム国内で高い評価を得て、『ソン・ランの響き』で長編監督デビュー。本作は、ベトナム映画協会最優秀作品賞、北京国際映画祭最優秀監督賞、サンディエゴ・アジアン映画祭観客賞など、国内外で数々の賞を受賞。また、写真家としても活動中。
リエン・ビン・ファット:ユン役
1990年11月25日、キエンザン省に生まれる。ツアーガイドを目指しトンドゥックタン大学に進学し、在学中に人気バラエティ番組“Running Man Vietnam(原題)”に出演。それを機に人気を得た後、3ヶ月のオーディションを経て『ソン・ランの響き』で映画初出演を果たし、第31回東京国際映画祭ジェムストーン賞(新人俳優賞)、ベトナム映画協会最優秀男優賞を受賞。2020年2月には、フランスの舞台劇“Mr.レディ Mr.マダム”をリメイクした主演映画“The Butterfly House(原題)”が公開。
人間の愛であれば、それは何よりも十分です
マイソン:
まず監督に質問で、カイルオンに魅了されたきっかけを教えてください。
レオン・レ監督:
元々幼い頃カイルオンにすごく興味を持っていて、毎日観ていたんですけど、13歳の頃に家族と一緒にアメリカに移住してしまって、それ以降はカイルオンに関わることができなくなりました。でも心の中で成人してからカイルオンに何か関わりたいという夢はずっと持っていたので、今回の作品にカイルオンを入れるきっかけになりました。
マイソン:
そうだったんですね。本作の舞台が1980年代ということで、リエンさんが生まれる前の時代になると思うんですけど、お2人でどういう情報共有をされたのでしょうか?
レオン・レ監督:
ファットさんが体験した時代とは全然違ったので、情報共有はしました。撮影シーンの中で「僕はこういう体験をしましたよ」と自分の体験談を伝えて、ファットさんとアイザックさんに理解してもらいました。でも本当に教えたのはメッセージのことで、撮影前にこの2人にその背景をどうしても理解してもらわなければならなかったので、政治的なことについては一緒に話し合いをしました。
マイソン:
懐かしいファミコンも映ってましたが、リエンさんは、ファミコンをやってみていかがでしたか?
リエン・ビン・ファットさん:
任天堂ですね!小さい頃は他の遊びはなくて、ずっとファミコンをやっていて、たくさんやっていたので本当のゲーマーみたいになってしまったんですよ(笑)。
マイソン:
ハハハハハ(笑)。今回リエンさんは、映画初出演とのことですが、監督は、歌手、ダンサー、俳優もされているということで、俳優として役立ったアドバイスはありましたか?
リエン・ビン・ファットさん:
アドバイスはたくさんありましたけど、監督は「こうやってください」という言い方じゃなくて、「もっとしっかりやりなさい」としか言ってくれなかったので、どういう風にやればしっかりなのか、上手いのか全然理解できませんでした(笑)。でも本当に印象的だったのは、毎回シーンの前に監督がちゃんと俳優にそのシーンを理解してもらってから撮影を始めていたことです。例えば撮影は順撮りではなくて、脚本の最後のシーンを最初に撮る時もありますが、俳優は自分の感情の統一をしなければなりません。だから、今はこのシーンでこういう感情でなければならないと常に意識しないといけないことは、監督から教えてもらいました。
マイソン:
監督は俳優さんもやっているということで、演出的にこだわりたいところはありましたか?
レオン・レ監督:
まず俳優としてこだわりたいのは、感情が偽物ではないということが第一条件です。あとは、自分が演じる役を評価しないこと、第三者の目で見ないこと。なぜなら感情は自分が演じる役の本当のものでなければならないので、自分の演じる役を分析して理解しなければならないんですね。体験したことがないなら、その感情や表現の仕方を研究して、その研究を活かして自分が今表現したいもの、出したいものを出すことが大事です。そして自分が第三者の目で見ないことというのは、例えば今回のユンの場合でしたら、第三者の目から見ると「えっ、これ同性愛なの?嫌だ」とか、そういう偏見的な考え方になってしまうので、いかにもこの役が自分のことと同じように思わなければならないんです。それが大事だと思います。
マイソン:
今回リエンさんは映画に出てみて、内面的な変化とか周りの反応の変化で大きく変わったことなどはありますか?
リエン・ビン・ファットさん:
ユン役を演じたおかげで、終わった後は内面でいろいろと変わったことがありました。まずはその役を演じることを通じて演技の仕方について学ぶことができました。以前から演技について学びたかったんですけど、僕は俳優育成専門学校の出身などではなくて、前は違う仕事をしていました。学校に行って学ぶか、役を演じることによって学ぶかの2つのやり方がありますが、僕は役を演じることによって大切なことを学ぶことができました。演技だけではなく、映画を1本作る流れなども理解することができ、そのおかげで今後の自分の役作りにも役に立つかなと思いました。
マイソン:
では、今後も俳優に力を入れたいということでしょうか?
リエン・ビン・ファットさん:
そうですね。
マイソン:
楽しみですね!
リエン・ビン・ファットさん:
はい、僕も楽しみです(笑)!
マイソン:
本作には同性愛の要素もありましたが、それをあからさまに描くわけではなく、2人の人間愛が描かれていたところがすごく素敵でした。監督はユンとリン・フンを演出する際に気を付けたことはありますか?
レオン・レ監督:
まずは感謝を申し上げたいと思います。なぜなら、この映画を観た後に皆「同性愛とかは…」という観方になるんですけど、まさにこれは人間愛なので、そういう風に感じ取ってくださったことをありがたく思います。特にベトナムでは恋愛についての定義が狭くて、皆恋愛というのは男女の愛しか読み取っていないんです。でも私が考えているのは、恋愛というのは愛ですから、人と人の中で愛が生まれたら、それが1番美しいものです。人と物にも愛があって、人と動物にも愛があって、愛は1番美しいと思います。1番目指したいのは愛ですので、ユンとリン・フンは男同士ですけど、その2人は心が触れ合うところがあって、それは何よりも美しいじゃないですか。皆愛といえばセクシーとか、体の触れ合いとかを主張してしまうんですが、そういうものではなくて、愛というのは心の中の愛でもあります。観た人の中には「ユンさんは、本当はゲイではないんですか?どっちですか?」と疑問を持っている人もいるんですけど、そういうことが何の役に立つんでしょうか。今伝えたいのは愛だけです。人間の愛であれば、それは何よりも十分です。
マイソン:
ありがとうございます。では最後の質問で、韓国の映画『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を受賞して、アジア映画が本格的に世界進出する時代が来た感じがするのですが、監督はアメリカにずっといらっしゃるのもあって、この動きをどう捉えていますか?
レオン・レ監督:
アカデミー賞で『パラサイト〜』が受賞したのを自分も観ていて、やっぱり憧れることではありますが、本当に芸能をやっている人達は、自分が作った作品を将来ハリウッドに出したいとか、アカデミー賞を受賞したいという前提で作るわけではないと思います。その時自分の中で出したいもの、伝えたいものを作るだけで、それだけでも精神、体力、時間をかけているので、もし運良く作品が大きくなって、その後のサポートが大きくなって、それで世界に発信できるようになったら、それは何よりも良いことなんですけど。でもそれを考える前に、自分の作品をどうやって仕上げるのか、そこがスタートですよね。大きな目標は持っているんですけど、そこまではまだ考えていないです。
マイソン:
俳優さんとしてはどうですか?
リエン・ビン・ファットさん:
監督と同じような考えで、とりあえず今自分が抱えている仕事はなるべく良くできるようにして、責任を持って最後までちゃんとしっかりできるようになったら、それが何よりです。この作品もまさに同じで、作る過程では作った後にこういう受賞ができるとか、評価をもらえるとか、全然そういう想定はしていなくて、とにかく自分が責任を持って最後までやらなければならないという気持ちで接して、それで結果が良かったらそれで良いんですけど、結果が良くなかったらまた改善してとやっていくうちに、いつかそういう大きな羽ばたきができるのではないかなと思います。
マイソン:
本日はありがとうございました!
2020年2月21日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『ソン・ランの響き』
2020年2月21日より全国順次公開
監督:レオン・レ
出演:リエン・ビン・ファット/アイザック/スアン・ヒエップ
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
高利貸しの手下として働くユンは、借金の取り立てで生計を立てていた。ある日、ベトナムの伝統歌劇<カイルオン>の劇場へ取り立てに行ったユンは、借金を返さない債務者に対してキツイ仕打ちをしようとするが、現場に居合わせた花形役者のリン・フンは毅然とした態度でユンに向かってきたのだった。
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