物語の舞台は1933年で、ヒトラー、スターリンという名前が出てくるので戦争映画かと思いきやそうではありません。本作は、ヒトラーに取材した経験を持つ若き英国人記者ガレス・ジョーンズが、世界中に恐慌が起こっているのにソビエト連邦だけが繁栄していることに疑問を持ち、スターリンに取材をしようと奔走するなか、驚愕の事実に直面するという実話を基にした物語。私のように情報を入れずに観ると(敢えていつも情報を極力入れずに観ています)、主人公ジョーンズと同じように「え?え?何が起こってるの?」と信じられない光景に衝撃を受けるはず。これは1933年に実際にあった出来事をもとにしていますが、今もどこかで起こっているのではないかと思えて、遠い話には思えません。国は国民のためにあるはずなのに、国民がこれだけ犠牲になっていたとは、何のための政治なんでしょうか。そんなことを投げかけてくる作品です。そして、ジャーナリズムの価値や意義を問う物語であり、ガレス・ジョーンズのように命を懸けて真実を世に伝えようとする人達の存在の大きさを考えさせられます。あと、『1984年』などで知られるジョージ・オーウェルが遺した『動物農場』との関連も興味深いところで、小説『動物農場』も読んでみたくなります。さらにガレス・ジョーンズを演じたジェームズ・ノートン、ウォルター・デュランティを演じたピーター・サースガードの演技も見もの。特にピーター・サースガードの怪演は、ウォルター・デュランティという人物の、というか権力に伏した人間の不気味さを際立たせています。そんないろいろな意味でゾッとさせられる本作には、多くの人に知って欲しい内容が詰まっています。
社会派で重い内容なので、デート向きとは言い難いですが、それぞれ登場人物達の気持ちになって、自分ならどんな決断をするかと議論をすれば、お互いの価値観が自然にわかりそうです。知られざる歴史を描いた作品ですが、歴史に詳しくなくてもついていける内容なので、2人とも関心があるならデートで観ても良いと思います。
現代日本も格差社会になってきていると言われていますが、本作で映し出されているような状況は、今すぐでなくても、いつどこで起こってもおかしくないことだと思います。日本でも政府がいろいろなことを隠そうとしている様子がニュースなどからうかがえますが、国民に知られるとまずいこと、国外に知られてもまずいことはたくさんあるでしょう。私達はそれを知らないまま生活していますが、本作を観ると、真実を突き止めるために命を懸けている記者達の存在の尊さを改めて感じることができるでしょう。そう思うと、情報の受け手となる私達も誠意を持って情報に接する必要があるのではないでしょうか。そして、私達がいかに恵まれているかがわかる作品なので、ぜひキッズやティーンの皆さんにも観て欲しいです。
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
2020年8月14日より全国公開
PG-12
ハピネット
公式サイト
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TEXT by Myson