「やってみればいいのに」と思っても、なぜかやる気になれないことって、誰にでもありますよね。それをやらないことが生活や人生にそれほど影響がないならば、やらないままでも良いのかもしれませんが、身の危険を感じたり、精神に支障をきたすレベルにも関わらず行動できないとしたら、大変な問題です。今回は、そんな心理状態を生む仕組み、“学習性無力感”についてお話します。
「それをやっても無駄」を学んでしまう、“学習性無力感”とは
“学習性無力感”とは何かを説明するために、セリグマンとマイヤーが行った実験を挙げます。この実験では、2頭の犬を別々の箱に入れ、同時に電気ショックが流します。片方の犬(A)が目の前のパネルを押すと電気ショックは止まりますが、もう一方の犬(B)が目の前のパネルを押しても電気ショックは止まりません。こうした手続きの後、2頭の犬に今度は回避行動(光を合図に電気ショックが流れるのを避けて、別の箱に移る)を訓練すると、犬Aは逃げますが、犬Bは逃げずに電気ショックを受け続けるという反応を示しました。
セリグマンはこうした実験から、人間が抑うつや無気力、無力感の状態に陥るのも、どうしても避けることのできない制御不能な状況に置かれた先行経験がその原因にあるとして、学習性無力感理論を提唱しました(鹿取・渡邊・鳥居ほか, 2015)。
では人間だとどうなるのでしょうか?無藤・森ほか(2018)は、ヒロトとセリグマンによる報告で、大学生にもともと解決不可能な問題を解かせた後に、解決可能な問題を与えて解かせても、無力感に陥り、成績が低下した事例を紹介しています。さらにこのことから、①無力感や無気力は生得的なものではない、②無力感や無気力といった望ましくないことも人間は学習してしまうと述べています。
本来望ましくないことなのに、なぜそれが習慣づいてしまう、つまり学習してしまうのかというと、そこにも“学習”“オペラント条件づけ”のメカニズムが働いているのです。それについては次回詳しく取り上げます。
鹿取ほか(2015)によると、人間の場合、同じ状況に置かれても、皆が皆、抑うつや無気力といった状況に陥るわけではなく、かなり個体差があるとされ、その後、学習性無力感理論は改訂されました。そして、抑うつや無力感の理解には、個人が負の状況をどう認知し、予測するか、何を原因だと考えるかといったことに考慮が必要だと強調されるようになり、今では認知行動療法などが治療に取り入れられています。
映画『約束のネバーランド』は、自分達がその施設に入れられている本当の理由を知った子ども達が、脱走を図るなかでことごとく計画を潰される様子が描かれていますが、子ども達はめげません。それは個人ではなく、チームとなって行動するからとも考えられるし、誰かに絶望を与えられても別の誰かが希望を与えてくれるからだとも思います。ここで、人間における個体の差と認知の仕方によって、めげない人物が他を引っ張り、他のメンバーの認知をプラスに変える影響を及ぼすことで耐えられると考えることもできるでしょう。私達の身の回りにも、似たようなことがたくさんありますが、人間が助け合うことで回避できる状況があるとも言えるのではないでしょうか。
<参考・引用文献>
鹿取廣人・渡邊正孝・鳥居修晃ほか(2015)「心理学 第5版」東京大学出版会
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
『約束のネバーランド』
2020年12月18日より全国公開
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
逃げるのを諦めた人間が、どんな人生を歩むことになるのかも描かれています。
©白井カイウ・出水ぽすか/集英社 ©2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会
『ルーム』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル・発売中
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
拉致されてから長らく監禁されていた女性が、監禁中に生んだ子どもを外の世界に逃がそうと画策します。彼女は1度は逃げることを諦めたのかもしれませんが、子どもの存在が大きな勇気に繋がります。
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)