天才発明家ニコラ・テスラの半生を描いた本作は、まず構成がユニークです。ある女性を語りべとしてドキュメンタリー調に撮られたシーンと、ストーリーとして描かれるシーンとが融合されています。その語りべの女性が誰なのかが明らかになるとより説得力が増してくるのですが、本作では知られざるテスラの素顔が映し出されていきます。1884年に移民としてニューヨークに来たニコラ・テスラは、憧れのトーマス・エジソンのもとで働き始めますが、“直流か交流”かで対立して彼のもとを去り、独立します。その後、実業家ウェスティングハウスと手を組んで…というお話ですが、これは単純なサクセスストーリーではありません。彼が無類の天才であり、果てしない研究心と想像を超える先見の明があるからこそ辿る運命を描いたとも言える作品です。
彼の頭脳や発明に、社会が追いついていないということがありありと伝わってきますが、彼が生み出した技術によって社会がどんどん変わり、人間関係も大きく変わっていくのに、逆に彼の周りに流れている時間の流れは止まっているかのように見えるのも不思議で、いかに彼が研究に打ち込み、果てしない探求に身を投じていたのかがわかります。でも同時に人間臭いところもイーサン・ホークが見事に演じていて、テスラの不器用さと孤独がリアルに感じられて親近感が湧きます。同じ時代にすごい発明家が同時にいたこともドラマチックですが、ぜひエジソンとウェスティングハウスの“電流戦争”を描いた映画『エジソンズ・ゲーム』も合わせて観て欲しいと思います。どうしてもエジソンとテスラを比較したくなりますが、何が彼等の運命を分けるのかにもご注目ください。
研究に打ち込みつつも、女性に心を寄せるテスラの姿も観ることができます。程よく恋愛に触れるストーリーもありつつ、気まずいシーンはないので、初デートで観ても大丈夫です。発明家の話なので、電流が流れる仕組み、モーターの原理などは話題にあがりますが、厳密に理解できなくてもストーリーにはついていけるので、身構える必要はありません。仕事中毒の相手を誘うと、すごく共感すると思いますが、違うスイッチが入る可能性も否めないので、誘うか誘わないかはあなた次第です(笑)。
直流と交流って、理科の授業で習いますよね?そういった基礎知識からどんどん革新的な技術に繋がり、世界が変わってきたということを実感できるストーリーなので、皆さんが観るときっともっと勉強に興味が湧くと思います。今では当たり前になっていることも、テスラやエジソンのような人が発明したからこそ実現したことです。一生懸命勉強することやその知識を活かして研究することの意義を考えるきっかけにもなるはずなので、ぜひ観てください。
『テスラ エジソンが恐れた天才』
2021年3月26日より全国順次公開
ショウゲート
公式サイト
© Nikola Productions, Inc. 2020
TEXT by Myson