不気味で衝撃的なシーンから始まる本作は、トレパネーションという、頭蓋骨に穴を開ける手術がキーとなっています。地位も記憶も失った主人公の名越進(綾野剛)は、ある日見知らぬ男(成田凌)に声をかけられ、トレパネーションをして1週間経過をみるという実験に参加することになります。本作では、手術を受けた後、名越にどんな変化が起こるのかが描かれていきます。
科学的根拠の有無は抜きにして、手術後の彼の変化が気になるところですが、変化そのものがおもしろいのはもちろん、そこから派生する能力が、物語をドラマチックにしています。どんな能力かは本編で確かめていただくとして、彼がその能力を使って、他人に介入していき、自分自身を取り戻していく様子が描かれていて、人間のトラウマが一つのテーマとなっています。“転移“という単語も出てくるあたりは、セラピストとクライエント(患者)の関係にイメージが繋がる部分もあったり、同じくカウンセリングやセラピーの現場で重視される“同一化”の概念なども、ちらっと感じさせられる描写となっています。心理学における“転移”や“同一化”という言葉は少々複雑な使われ方をするので、それがそのままこの映画でいう“転移”とイコールとは言えませんが、ビジュアル化されたことで、感覚的にイメージしやすくなっていると言えます。
トレパネーションのシーンのインパクトが強いので、怖い映画と構えてしまう方もいるかもしれませんが、根本は心に傷を抱えた人達の物語なので、ぱっと見の印象以上に共感できるストーリーだと思います。
初っぱなのシーンから「ギョエ〜」となるので、苦手な人が一定数いると思います。初デートで誘うのはリスキーなので、ある程度何回か映画を一緒に観て、お互いの好みとして大丈夫そうなら観てみてください。ラブストーリーの要素もあり、一部分は自分達を見つめ直すきっかけにもできそうです。
大人と一緒になら12歳未満でも観られますが、刺激が強いので、高校生以上になってから観るくらいで良いと思います。親子のストーリーも出てくるので、それで気まずくなるのか、逆に話し合うきっかけになるのかは、皆さん次第でしょう。でも、親子で観るよりは友達と観るほうが気楽に楽しめると思います。
『ホムンクルス』
2021年4月2日より期間限定公開
PG-12
エイベックス・ピクチャーズ
公式サイト
©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
TEXT by Myson(認定心理士)