「女のいない男たち」(文藝春秋2013年12月号-14年3月号に連載)と題された村上春樹の短編小説を原案として描かれている本作は、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて日本映画として初となる脚本賞を受賞し、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞を含め、4冠を達成しました。
これは妻を突然失った男性の物語で、愛する者との関係の陰と陽を描いているとも言えます。主人公の家福悠介(西島秀俊)と妻の音(霧島れいか)はとても愛し合っているように見えるのですが、物語が進むにつれて、いびつにも見える関係が浮き彫りにされていきます。観る側はそのギャップに打ちのめされながらも、家福が妻を亡くした後、妻との関係にどう折り合いを付けていくのか、物語から目が離せなくなります。また、性描写が重要な役割を果たすストーリーとなっていて、人間にとって性的な繋がりが意味するものを問いかけてきます。それは、ある価値観を押しつけるものではなく、いろいろな視点をもたらすもので、ストーリーに込められた人間への深い洞察を実感します。
そして、タイトルが『ドライブ・マイ・カー』ということで、家福の運転手を務めることになったみさき(三浦透子)がキーパーソンになるであろうことまでは想像がつくのですが、みさきもすごくミステリアスに描かれていて、観る側の想像を掻き立てます。途中までは胸が締め付けられるような気持ちになりますが、ラストで心が救われるというか、一つの答えを与えてくれて、現実から目をそらすのではなく向き合うことで、見えていなかったことに気付けるということ、その気付きが得られれば前に進めるのだという希望をもらえます。濱口竜介監督の演出と脚本の力、西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいかといったキャストの演技力を存分に感じられる作品となっています。映画史に残る作品だと思うので、ぜひご覧ください。
複雑な心境になる展開と性描写も入っているので、カップルで観るのは少々気まずいでしょう。ベテランカップルはいろいろなことを乗り越えてきていると思うので、共感するポイントは多いと思います。ただ、2人で一緒に観て語り合うというよりは、それぞれで観て視野を広げる、新たな物事の見方、解釈を得るというスタンスが良いのではないでしょうか。なので、誰かと一緒に観るなら仲の良い友達が良いでしょう。
大人向けの作品で、上映時間も179分なので、大きくなって集中力がつき、いろいろな経験をしてから観るほうが堪能できると思います。人間関係についていろいろと学べるストーリーではありますが、特に恋愛関係については、まだ恋愛経験がないティーンや恋愛経験が浅いティーンが観た場合にどんな影響を受けるのか予想がつきません(苦笑)。ある程度、恋愛経験を積んでから観たほうがキャラクター達の複雑な心情をリアルに感じて、共感できると思います。
『ドライブ・マイ・カー』
2021年8月20日より全国公開
PG-12
ビターズ・エンド
公式サイト
© 2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
TEXT by Myson