大人は自分と他人を区別し、自分の思考、相手の思考を想像し理解することができます。こういったことを私達は当たり前にやっていますが、生まれたての赤ちゃんは最初から大人と同じように世界を理解しているわけではありません。今回は子どもの認知の発達、向社会性の成長について見ていきます。
発達理論は複数の学者がそれぞれに提唱していて、何を基準に理論を展開しているかによって定義が異なります。その中でまずは認知発達研究を創始したピアジェの認知発達論を取り上げます。
ピアジェの発達段階説
①感覚運動期:誕生〜2歳頃
乳児はまだ言語による認知ができないので、対象の認知を感覚と運動の活動によって行う。例えば、口元に何かが触れたら吸うという行為(級鉄反射=きゅうてつはんしゃ)は、おっぱいを飲むために母親の乳首が口元に触れたら吸いつくように原始的行動として形成されていると考えられている。
生後8ヶ月を超えると、邪魔になる物を取り払い、向こうにある物を取るというような、目的と手段が結びつく関係が成立してくる。
また、この期の終わり頃には“ものの永続性(目に見えなくてもものは存在していると理解すること)”が完成し、表象的思考が始まる。ものの永続性とは、例えば目の前にあるボールがハンカチで隠されてもそこにボールがまだあるとわかるといったことである。そして、表象的思考とは、目の前にないものを頭の中で想像できる力のことであり、表象的思考ができるようになることで子どもは親から離れても親の存在を感じることができるので行動範囲を広げていったり、過去の出来事を思い出したり、未来のことを予測して行動したりできるようになっていく。
②前操作期:2〜7歳頃
言語によってある対象の概念を獲得したり、大人の真似をするようになる。ただし、前操作期の思考では物事の表面的な部分にのみ焦点が当てられ、また対象の複数の側面に同時に注目することはできない。
この時期はまだ自己中心的な思考が特徴的である。
そして、願えばお願い事が実現すると信じる魔術的思考や、生命がないものに生命観を感じるアニミズムの思考もこの時期の特徴である。
③具体的操作期:7〜12歳頃
見かけに左右されない論理的思考が発達していくので、物の量はその形が変わっても同じままであるという理解ができてくる。それは例えば、深くて細いビーカーに入っていた水を浅くて太いビーカーに入れ変えても量が同じということを理解できるということである。
またこの時期には自分自身を他者の立場におくことができるようになる。
④形式的操作期:12〜16歳頃
具体物や実際的場面を離れ、論理やイメージのみで複雑な推論ができるようになる。抽象的な思考操作も可能になるので、「もし○○であれば〜」といった仮説演繹的思考も行えるようになる。
(無藤ほか,2018)
このように人間の子どもは徐々にこの世界の仕組みを理解していきます。では、社会性の発達についてはどうでしょうか。『ほんとうのピノッキオ』を例に考えてみます。
ピノッキオは生まれた時点で既に歩いたり、言葉もすぐに話せるようになっています。なので前述したような認知発達の部分では段階を踏まずに一気にこの世界を理解しているように見えます。でも、社会性の発達については子どもの特徴を有しています。
ピアジェの認知発達理論を基盤にしている、コールバーグが唱えた道徳判断の発達理論を見てみましょう。コールバーグは行動範囲よりも判断を重視し、5段階に分類しました。第1段階は、自己中心的な快・不快による判断、第2段階は罰を避けて褒美を得る損得勘定による判断、第3段階は他者からの期待に基づく“良い子”の基準による判断、第4段階は社会秩序の維持に基づく判断、第5段階は正義、良心、人間の尊厳に基づく判断としました(近藤・尾崎,2017)。
ピノッキオの成長を見ていくと、コールバーグの5段階の社会性発達に近いところが見受けられます。①仲間を求めてサーカス小屋へ行く、②妖精に言われたことを守って人間の子になろうとする、③セカンドチャンスをもらい良い子になって人間の子になろうとする、④は少し拡大解釈になりますが自分の願いよりも父を探しに行く、⑤は父のために働くといったところでしょうか。
また、トマセロは子どもは生まれながらに他者の目標に気付き、他者を助けたいとうい向社会的な動機づけを持っているとしました。これはどういうことかというと、例えば母親が洗濯物を干していたら、依頼したり促したりしなくても洗濯ばさみを手渡したり手助けを自発的にやるというような行動に見てとれます。しかし、トマセロによれば年齢が上がるにつれて、子どもの向社会的行動は選択的になっていくとされています。つまり、相手を救うことはお互いにメリットがあるか、自身が所属している集団の他のメンバーがどう判断するかを考えたり、自身が属する文化に特有な社会規範を内面化していき、見境なく協力や援助をするのではなく、相手や状況に合わせて判断するということです(近藤・尾崎,2017)。
ピノッキオの行動にも向社会性の成長と変化が表れているシーンがあります。作者がどこまで意識して物語を書いたかわかりませんが、こういった理論に近い描写になっていることがわかるとなお説得力を感じます。人間になりたいピノッキオというところで見ても、見た目のことだけではなく、心の部分も人間の子になっていくという観方もできるのではないでしょうか。
<参考・引用文献>
箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋(2010)「認知心理学」有斐閣
近藤清美・尾崎康子(編著)(2017)「講座・臨床発達心理学④社会・情動発達とその支援」ミネルヴァ書房
無藤隆、森敏昭、遠藤由美、玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
『ほんとうのピノッキオ』
2021年11月5日より全国公開
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
シュールな描写が印象的な本作は、大人こそ観て楽しめる作品です。踏んだり蹴ったりな経験をしながら成長していくピノッキオの姿を観ていると心配でたまりませんが、こうして子どもは逞しくなっていくのだなとしみじみ観ることもできます。
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TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)