2019年9月に乃木坂46を卒業し、俳優としても注目を集める桜井玲香を主演に迎え、社会で働く女性達の複雑な心情や友情を描いた『シノノメ色の週末』。今回は本作でオリジナル脚本と監督を務めた穐山茉由さんにオンラインでお話を伺いました。学生時代と現在とで関係性の変わった女性達を描く上で意識した点や、監督自身が映画の道へと進んだルーツについても聞いてみました。
<PROFILE>
穐山茉由(あきやま まゆ):監督、脚本
東京都出身。30代はやりたい事をやろうと思い立ち、ファッション業界で会社員として働きながら、映画美学校で映画制作を学ぶ。修了制作作品の短編『ギャルソンヌ -2つの性を持つ女-』(2017)が、第11回田辺・弁慶映画祭2017に入選し、注目される。長編デビュー作『月極オトコトモダチ』(2018)は、第31回東京国際映画祭に出品され、MOOSIC LAB 2018で長編部門グランプリを受賞他、4冠に輝いた。その後、短編『嬉しくなっちゃって』(2019)、『蒲田前奏曲/呑川ラプソディ』(2020)の監督を務め、dtvドラマ『猿に会う』では脚本を担当した。長編2作目となる『シノノメ色の週末』では、監督と脚本を務める。
自分の気持ちを信じてあげられるのは自分しかいない
シャミ:
本作では20代半ばの女性達が母校で再会して当時を懐かしむ様子が映し出されつつ、彼女達の仕事での葛藤や人間関係に悩む姿が描かれていましたが、本作のテーマや物語はどのように生まれたのでしょうか?
穐山茉由監督:
私自身が女子校出身なのですが、その当時は全然気づかず、卒業してから「なかなか変わった環境だったんだな」と思った経験がありました。あとは、「女同士だとすごくギスギスしていそう」とか、「女子校って怖そう」と言われて、世間からのイメージを知ったんです。でも、実は女子校って意外と平和なんです(笑)。そういう世間とのギャップがあることを感じて、リアルな女子校の雰囲気を描いてみたいという気持ちがずっとありました。ただ、私がやるとしたらティーンが主人公の学園ものというよりは、20代後半かちょっと大人の女性の現在の悩みを描きつつ何かやれないかなと思い、この物語が生まれました。
シャミ:
美玲(桜井玲香)、アンディ(三戸なつめ)、まりりん(岡崎紗絵)の3人が学生時代と今とで関係性が変わっている点もおもしろいと思ったのですが、3人を描く上で1番意識した部分はどんなところでしょうか?
穐山茉由監督:
今回は回想シーンを入れずにずっと現在を軸に描いていたのですが、廃校になった学校という設定で、誰もいないなか登場人物達だけで過去と現在の関係性の違いを描き分けるというところは意識しました。主人公の美玲はわりと皆に憧れられるタイプ、まりりんは地味で真面目な委員長タイプ、アンディは文化系女子の癒し系タイプという感じで、普段交わらなさそうなタイプの人達でも女子校だと意外と仲良くなれるところもあって、再会した時もその当時の感覚をすぐに思い出せる空気感とかを自然に出せたら良いなと思いました。実際にクランクインしてみて、桜井さん、三戸さん、岡崎さんの3人がすぐに仲良くなってくれたのですごく助かりました。
シャミ:
なるほど。客観的に見て監督が3人の中で1番共感できたのはどの人物でしょうか?
穐山茉由監督:
主人公の美玲でしょうか。美玲には人に見られなくない部分とか、本当は隠したい感情みたいなものを語ってもらうつもりで描きました。美玲は今もモデルをやっていて普通の人からするとちょっと違う世界の人に見えてしまう人物なのですが、抱えている悩み自体は誰もが経験していそうな悩みで、そういう部分は私自身の経験ではありませんが、私にわりと近いところがあるかもしれません。
シャミ:
監督ご自身の実体験を入れているパートなどもありますか?
穐山茉由監督:
私自身というよりは、身の回りで起きていることを結構リアルに入れています。私はファッション業界でも働いていて、モデルの人達とも仕事で関わることが多くて、それこそまりりんのようにオーディションをしていたこともあります。選ばれることで仕事ができる人達を端から見ていて、仕方がないとはいえ本当に見た目だけで切り捨てられていくので、結構思うところがありました。切り捨てられる側の気持ちになった時にどうなのかなと思い、実際にモデルをやっている方にも取材をさせていただき、この作品にもファッション業界の描写を少し入れました。
シャミ:
この作品でも選ぶ側と選ばれる側がいて、友達同士なのに複雑だなと思いました。
穐山茉由監督:
そうですよね。あそこまで逆転することはあまりないかもしれませんが、学校を卒業してその当時と今の関係性が逆転してしまうことや、久しぶりに友達と再会して、「この人は今こういう仕事をしているんだ」と思うことも実際にありますよね。それぞれの過去の関係性と現在の考え方や仕事で食い違いが出てきたり、立場によってパワーバランスが崩れたり、そういったことから自然に発生していく人間関係の揺れみたいな。そういう繊細な部分や、見過ごしがちな部分は少しクローズアップして描きたいなと思ってこだわりました。
シャミ:
ありがとうございます。本作では主人公達が母校で当時を振り返る姿が映し出されていました。「あの頃は良かった」「あの頃に戻りたい」という言葉は大人からよく聞く言葉で、美玲達のように現状に不満や悩みを抱えている人も多いと思うのですが、監督はそういった人達を客観的にどのように見ていますか?
穐山茉由監督:
私も実際に美玲達と同じくらいの年の時は、すごく悩んでかなりくすぶっていました(笑)。同じ道を通ってきたからこそ、何かやってみたいと思ったところもあって、私が映画を撮るきっかけにもなっています。私が映画を撮り始めたのは20代後半からですが、周りからのイメージとか既成概念とかに囚われてしまいがちなところがあって、結構苦しみました。結婚とかもそうですけど、仕事もある程度慣れてきて、次に自分は出世したいのか、この仕事をこのまま続けるのかとか、壁にぶち当たって周りと比べてしまうのですが、周りから来ている価値観みたいなものを取っ払った時にようやく自分の本当にやりたいことが見えてきた気がします。そういう自分の体験を今悩んでいる人達に1つの形として提示できたら良いなと思い、この作品を作りました。
シャミ:
今のお話にもありましたが、監督のプロフィールに「30代はやりたいことをやろうと思い立ち、ファッション業界で会社員として働きながら、映画美学校で映画制作を学んだ」とあったのですが、監督という仕事に興味を持ったきっかけは何かあったのでしょうか?
穐山茉由監督:
映画を観ることは元々好きだったのですが、実際に作ろうと思ったのは、会社員になってからです。元々もの作りをしたかったのですが、当時の仕事はものを作るのではなく宣伝したりする仕事でした。それはそれですごく楽しかったのですが、会社員として求められる適応力や、社会的な適応力が必要で、結局自分がやりたいことをやるといった部分が少しずつこぼれ落ちている気がしていました。それをどうにか形にしたいという気持ちが出てきて、写真をやったり、バンドを組んだり、いろいろやってみて、そのうちの1つに映画を撮ってみたいというのがありました。それでワークショップに行って実際に映画を1回撮ってみたらすごくおもしろくて、本格的にちゃんと勉強したいと思い、働きながら夜間で映画美学校に通って勉強したという感じです。
シャミ:
すごいですね!映画以外にもいろいろなことにチャレンジされたんですね。
穐山茉由監督:
興味を持ったことは1回やってみました。でも映画以外のことは続きませんでした(笑)。他にも小説を書きたいというのもあって、それは当時やらなかったのですが、今回の『シノノメ色の週末』をノベライズ化することになって、それを自分で書きました。
シャミ:
では夢がまた1つ叶ったんですね!
穐山茉由監督:
だいぶ遠回りしましたけど、ここに来て小説の夢も叶いました。
シャミ:
やっぱり大人になればなるほど、キャリアや周りの目を気にしてなかなか新しいことにチャレンジすることができず躊躇してしまう人が多いと思うのですが、そういった方に向けて何かアドバイスがあればお願いします。
穐山茉由監督:
周りの目と戦っていくのは、私もたまにしんどいなと思うことがあります。でも、選択したことの責任を取るのは自分で、自分の気持ちを信じてあげられるのは自分しかいないと思うんです。1歩踏み出すことはハードルが高くてなかなか難しいと思いますし、仕事とか大事にしているものを捨ててまではできないと思っても、決断して1回それを捨てるというか、自分の中で整理ができた時にまた新しいものがポンと入ってくると思うので、結局上手くいくのではないでしょうか。人生一度きりなので、自分で決断してやってみて欲しいなと思います。大胆に変えて何かを切り捨てなくても、私みたいに働きながらやってみるとか、軸足をちょっと変えてやるという方法もあるので、自分のやりやすいほうでやって欲しいと思います。
シャミ:
ありがとうございます。監督が実際に映画業界で働いてみる前と後でイメージが変わった点などはありますか?
穐山茉由監督:
映画業界のことをあまり詳しく知らずに飛び込んだのですが、まだまだ改善すべきところがたくさんあるなと感じました。例えば働き方の部分だと、やりたいという気持ちが強い人達が集まっているから、そこに甘えがちな部分もあるんです。労働時間とか金銭面とかは時代的にも改善する流れになっていますけど、やっぱり日本の映画業界の特に制作の部分では、まだ昔のやり方が残っていて、外から来た者からするとそこがまだ他の業界と比べて追いついていないなと感じました。でも、その分映画が好きという気持ちで集まっているというのはすごく感じますし、だからこそ私は映画を続けられるんだと思います。映画は1人では作れないので、いろいろな人の力を借りて1つの作品を作っていくのですが、映画を撮る前は、監督が全部やっているのかと思っていました。それが意外とチームプレイだなと感じて、そこは会社員生活でやってきたことに近いところもあると思います。組織を作って、ジャッジする監督が1番上にいて、それぞれの部署にエキスパートがいて、そういう部分は会社の組織と似ています。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
穐山茉由監督:
本当に絞りきれないのですが、映画を撮るきっかけになったのは、井口奈己監督の『人のセックスを笑うな』という作品です。映画館を出た時に良い映画を観たという高揚感だけでなく、すごく複雑な気持ちになって、私もこういう映画を撮りたいと思ったのを覚えています。だからあの作品は私にとって特別な作品です。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2021年11月1日取材 TEXT by Shamy
『シノノメ色の週末』
大ヒット上映中
監督・脚本:穐山茉由
出演:桜井玲香 岡崎紗絵 三戸なつめ/中井友望 山田キヌヲ/工藤阿須加
配給:イオンエンターテイメント
学生時代から読者モデルとして活躍し人気者だった美玲、地味系だったまりりん、サブカル好きのアンディは、同じ女子校の放送クラブに所属していた同級生。3人は、母校の取り壊しが決まったことをきっかけに10年ぶりに再会し、以降“篠の目女子週末クラブ”として週末に会うことになる。何にでもなれると思っていたあの頃の自分に戻ったつもりの3 人だったが、事態は全く違う方向へと転がっていく…。
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