巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督作『ベニスに死す』で新星のごとく現れた美少年ビョルン・アンドレセン。『ベニスに死す』を観た時にその美しさに驚いたのはもちろんですが、本作で彼に起きたいろいろな出来事を知り、一層驚きました。彼はルキノ・ヴィスコンティ監督に“世界で一番美しい少年”と賞賛され、実際その異名に匹敵する美しさで世界中から一気に注目を集めました。でも彼にとってそれは望ましいことではなく、彼の人生を振り回すことになったことが本作で明かされています。当時は来日も果たしていて、日本のファンの熱狂ぶりも映っていましたが、本人はあまりよくわからないまま大人達に言われた通りいろいろな活動を“させられていた”という真相を知ると、何とも胸が痛みます。
そして衝撃なのは序盤で映る今のビョルンの暮らしぶりで、どう見ても精神的に不健康で不衛生なのが伝わってきます。観る側はなぜ彼はこんな風になってしまったのかとそこでまず衝撃を受け、その後徐々に明かされる真相を知り、すべてに納得できると思います。でも本作で彼が徐々に過去を整理していくような過程を辿り、救いを感じる部分もあります。さらに彼がどうしてルキノ・ヴィスコンティ監督のオーディションに行くことになったのか、その背景に何があったのかが明かされていき、彼があまりにも壮絶な人生を生き抜いてきたのだと知ることになります。劇中で読まれるビョルンのお母さんの手紙がとても印象的で、最初に読まれる時と2回目に読まれる時とで一つひとつの言葉の意味がさらに深みを増します。これはドキュメンタリーであって、ドキュメンタリーでないのではと思えるくらい衝撃的な内容です。彼自身に起きたこととして重く受け止めるのはもちろんですが、同じように苦しんでいる子ども達がいるかもしれないと、私達大人が考える機会になればと思います。
衝撃的で重めの内容なので、デートで観るのには向いていないと思います。ただ、一生一緒に生きていくという思いで交際しているなら、敢えて一緒に観て、本作鑑賞を機に自分達の過去や本音を明かして話し合うきっかけにするのも良いでしょう。また、子育てという視点でも思うところがたくさん出てくるであろう内容で、幼い子どもから思春期のお子さんがいる夫婦で観るのは良いのではないでしょうか。お子さんはもう大人という方でも、ビョルンと娘の姿を観て何か参考にできるところ、心が救われるところがあるかもしれません。
この映画をキッズやティーンの皆さんが観たらどんな思いをするんでしょうか。きっととても複雑な心境にはなると思いますが、15歳だったビョルンの気持ちを皆さんなら等身大で理解できるはずです。皆さんのお年頃なら皆から注目されたり、人気者になることに憧れを持つ方もいると思いますが、芸能界は華やかな部分だけが表に見えています。有名になること、人気を得ることが悪いことではなくても、その代償があることは知っておいて損はないと思います。本作でその裏や大人の世界を観ることができるので、視野を広げてみてはどうでしょうか?
『世界で一番美しい少年』
2021年12月17日より全国順次公開
ギャガ
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TEXT by Myson
© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021